ガソリンも2021年11月ごろから高値が続く 写真:アフロ

経済

良いインフレ・悪いインフレ 日本はスタグフレーションに陥ったのか

0コメント

日本銀行の公表する企業物価指数は、2021年11月速報値で2015年比108.7%と35年ぶりの高さとなっています。長らくデフレーションで苦しんだ日本はインフレ-ションに転じたのでしょうか。しかし、2013年に政府と日銀が設定した消費者物価の前年比上昇率2%は達成できていません。また、2021年秋ごろから食料品の値上げが相次ぎ、原油高騰による電力の値上げも起きています。デフレなのに物価が上昇? AD-AS(総需要・総供給)分析を用いて今の日本の状況を考えてみます。

日本はデフレ圧力から抜け切れていない

日本経済は1999年ころから、継続的な物価下落状態(デフレ)に陥ったと考えられ、内閣府の月例経済報告で2009年11月に「緩やかなデフレ状況にある」と明記され、2013年12月にデフレという表現が削除され改善の兆しはあったものの、2020年度の内閣府「経済財政白書」では新型コロナウイルスの感染拡大による経済危機(コロナショック)に伴う需要不足によるデフレ圧力にも注意が必要であるとし、日本が本格的にデフレ圧力から脱していないことを示唆しています。

また、日銀も2013年1月に「物価安定の目標(インフレターゲット)」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、継続的にさまざまな政策を行っていますが、いまだ実現できていません(1%を行ったり来たり)。

AD-AS(総需要・総供給)分析

ケインズ経済学で物価を考える場合には、AD-AS分析を用います。縦軸に物価P、横軸に国民所得(GDP)Yをとり、右下がりのAD(総需要)曲線と右上がりのAS(総供給)曲線の交点で国の物価P*と国民所得Y*が決定するという分析フレームです。

何かの要因で需要が増加した場合にはAD(総需要)曲線が右方にシフトするため、物価が上昇し、国民所得が増加します。このような物価上昇をディマンド・プル・インフレーションといいます。需要増加が引っ張って物価上昇を起こしたという意味です。経済成長時には持続的な需要増加が生じるため、ディマンド・プル・インフレーションは、いわゆる良いインフレーションとなります。

何かの要因で素材価格や賃金が上昇した場合にはAS(総供給)曲線が上方にシフトするため、物価が上昇し、国民所得が減少します。このような物価上昇をコスト・プッシュ・インフレーションといいます。コスト上昇が物価を押し上げたという意味です。コスト・プッシュ・インフレーションはGDPの減少を伴うため、経済の縮小過程で生じる、いわゆる悪いインフレーションとなります。

世界的な素材価格の上昇

業者間で売買する物品の価格水準を数値化した物価関連の経済指標である企業物価指数は、2021年11月月に2015年比108.7%と、バブル景気だった1986年2月以来の高さとなっています。

国際的な原油価格の上昇からガソリンや軽油が値上がりしたことが主な原因ですが、鉄鋼、銅、アルミニウム、合成ゴムなどの価格が上昇したことも挙げられます。また、農林水産省は2021年10月からの輸入小麦の政府売渡価格(※)について、主要銘柄平均で19.0%の引き上げを行うなどさまざまなものが値上がりの兆しを見せています。

※輸入小麦は日本政府が買い付け、国内の製粉会社に売り渡す仕組み。

これは、コロナの影響からいち早く脱した中国をはじめとした国々の需要増加、また各国の正常化を見越した需要増加、また、コロナを原因としたコンテナ不足などの物流価格の上昇などが主な原因と考えられています。

見通しが良くても公的支出が機能しなければスタグフレーションに陥る可能性も

2021年12月末の令和4年度「政府経済見通し」(内閣府)によると、2021年度(令和3年度)のGDP成長率は、実質で2.6%程度、名目で1.7%程度となり、GDPは年度中にコロナ前の水準を回復することが見込まれ、2022年度(令和4年度)は、総合経済対策の円滑かつ着実な実施により、公的支出による経済の下支えと民間需要の喚起、民需の自律的な回復も相まって、実質GDP成長率3.2%程度、名目GDP成長率3.6%程度となり、GDPは過去最高になることが見込まれるとしています。

これは、AD-AS分析だと、政府支出をベースにAD(総需要)曲線を右方シフトし、その後に民間需要を喚起、自立的な回復でさらに右方シフトさせて国民所得を増加させようと考えています。先ほどのAS曲線のシフトと考えると次のような状態を想定しています。

しかしながら、政府の対策がうまく機能せず、AD曲線のシフトの影響がAS曲線のシフトの影響より小さければどうなるでしょうか。

この場合には、物価は上昇しGDPは減少する、いわゆる景気の停滞とインフレーションが同時に発生する、スタグフレーションの状態に陥ります。失業や業績悪化と共に物価が上昇した場合、家計や企業は大打撃を受けるでしょう。

このような最悪な状態を避けるため、確かに財政規律の問題はあるものの、今のタイミングでは、政府は素材価格上昇の影響を上回る政府支出を行い、日本経済を成長軌道に乗せる必要があると考えられます。