与野党ともにカラー似通う 対決型法案見送りで論戦もマイルドに?

1月17日、通常国会で岸田首相が施政方針演説 写真:AP/アフロ

政治

与野党ともにカラー似通う 対決型法案見送りで論戦もマイルドに?

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通常国会(会期150日)が召集され、岸田文雄首相の施政方針演説などに続き、各党代表質問で論戦が始まった。与野党の“顔”が交代して以降、初の本格論戦。政府・与党は今夏の参院選を意識して対決法案の提出を見送る方針で、引き続き感染が再拡大している新型コロナウイルス対策が議論の中心となる。支持率の低迷する立憲民主党が、枝野幸男前代表の“批判・追求型”から泉健太代表の掲げる“政策提案型”に変われるかどうかも注目だ。

岸田首相の施政方針演説は、フワッとしている印象

「皆さんの声に丁寧に耳を澄まし、状況が変化するなかで、国民にとってより良い方策になるよう、粘り強く対応し、判断の背景をしっかり説明する努力をしてきた。このように信頼と共感の政治姿勢を堅持しつつ、まずは、新型コロナに打ち勝つことに全身全霊で取り組む」

岸田首相は1月17日に行った施政方針演説で自らの政治姿勢をアピールした上で、新型コロナ対策を政権の最優先課題に位置付けて取り組むと強調した。

2021年10月に発足した岸田内閣は、今のところ順調すぎるほど順調に政権運営を進めている。政権発足時こそ低めだった内閣支持率もその後は一貫して上昇傾向。NHKの世論調査では発足直後の支持率が49%、不支持率が24%だったが、直近の2022年1月は支持率が57%に上昇、不支持率は20%にとどまっている。

2020年春の新型コロナの流行以降は感染者数の増減が支持率に直結する傾向が続いており、オミクロン株の影響で感染者数が急増するなかで支持率が上昇するのは異例。持ち前の「聞く力」を発揮し、世論を意識して政策の修正も厭わない首相の姿勢が今のところ評価につながっているようだ。政権発足3か月目の支持率57%、不支持率20%は歴代政権と比べてもかなり好調な数字といえる。

首相は演説で「オミクロン株の特性を踏まえ、メリハリをつけた対策を講じる」と主張。重症化率は低い一方で、高齢者等で急速に感染が拡大すると重症者の発生割合が高くなる可能性があるとして、重傷者や中等症患者などに重点的に医療を提供する体制の整備や、3回目のワクチン接種推進や無料検査の拡充に取り組むことを表明した。

経済政策では「経済を立て直し、財政健全化に向けて取り組む」と強調。コロナ対応の経済策をめぐって“バラマキ”を批判されたことを意識し、財政健全化にも触れたとみられる。持論である「成長と分配の好循環による新しい資本主義」も主張したが、具体的な政策の中身はこれまでの説明の域を出ていない。

外交・安全保障面では、現実を直視した「新時代リアリズム外交」を展開すると強調。アメリカのバイデン大統領と早期に会談して日米同盟の抑止力、対処力を強化するとしたほか、北朝鮮による拉致問題の解決に向けて「条件を付けずに金正恩総書記と直接向き合う」と表明。脅威の増す中国に対しては「主張すべきは主張すると同時に、対話をしっかり重ね、共通の課題については協力し、建設的かつ安定的な関係の構築を目指す」とした。

広島選出議員として「核兵器のない世界」を追求するとも語ったが、新たな国家安全保障戦略について「敵基地攻撃能力を含めあらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」としている。

全体的に、山積する課題に片っ端から取り組むという総花的な印象で、具体性の乏しさからも政権の方針が明確に打ち出されたとは言いづらい内容だ。首相が見ている“現実”がどんなものかを聞きたかった。

立憲民主の泉新党首は与党との違いを示せるかに課題

これに対し、野党第一党である立憲民主党の泉代表は1月19日の代表質問で、まん延防止等重点措置について「発令要件はオミクロン以前の感染力を想定している」と述べ、基準を見直すよう要求。医療従事者や病床確保のため行政の権限を強める感染症法改正案について、政府が今国会への提出を見送ることには「なぜ後回しにするのか。すぐに議論すべきではないか」と追及した。また、2021年9月以降に離婚した世帯の子どもに10万円給付金が届かない事例が相次いでいることを受け「国費で給付金を届けるよう指示してほしい」と求めた。

2021年の衆院選敗北後に就任した泉代表は「立憲は批判ばかり」という有権者のイメージが敗因の一つだったとして「政策提案型」への転換を模索する。代表質問で質した10万円給付については今国会に救済法案を提出済み。経済政策をめぐっても、首相の主張する「成長と分配の好循環による新しい資本主義」は具体的ではないとして、①所得の再配分 ②地方への分配 ③少子化対策と教育への分配、という「3つの分配」を提案してみせた。

ただ、主張の中身は枝野時代と変わらないリベラル路線で、安倍晋三・菅義偉両首相の新自由主義路線からリベラル路線にかじをきった岸田政権の方向性と似通う。泉氏は介護職や保育士らの賃金の引き上げを主張したが、岸田首相もすでに介護や看護の従事者の給与引き上げを表明済み。

また、泉氏は政府批判を完全に封印したわけでなく、安倍・菅政権時代の森友学園をめぐる公文書改ざん問題や日本学術会議の任命拒否について「真相究明を指示してほしい」などと追及した。党内の不満を踏まえて「追求」と「提案」のバランスをとった格好だが、いずれも安倍・菅政権時代に発生した問題。岸田首相の責任を追及しても有権者には響きにくい。夏の参院選に向けてどのように新たな野党のあり方を確立するか、論戦を重ねる中で模索していくことになるだろう。

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今国会では国会議員に月額100万円支給され、“第2の給与”と揶揄される「文書通信交通滞在費」についての議論も焦点となる。自民党の茂木敏充幹事長は各党に協議を呼び掛けているが、使途の公開には与野党ともに議員の反発が予想される。議員特権に踏み込んでいけるか、各党の本気度が問われる。