ロシアに対して経済制裁を強めてきたアメリカと欧州各国は、ロシアの銀行を国際的な決済ネットワークである「SWIFT」から排除することを決定。アメリカや欧州各国はロシアに対して軍事ではなく経済制裁によって対抗する方針をとっているが、ロシアほどの大国になると制裁する側への悪影響も覚悟しなければならない。それでロシアが止まればいいが果たして。
NATOやEUにできることには限界がある
2月24日、ついにロシアがウクライナに侵攻した。プーチン大統領は2月21日の国民向けの演説で、ウクライナは単なる隣国ではなく、ロシアの歴史や文化と不可分だとの認識を示し、ウクライナ東部で親ロシア派の武装集団が独立を宣言しているドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国を独立国家として承認する大統領令に署名した。
すでにウクライナ国内各地では被害が拡大しており、東部だけでなく南部オデッサや首都キエフなどでもたびたび爆発音が聞かれ、チェルノブイリもロシア軍に制圧された。侵攻が始まった2月24日だけでもウクライナ国内では少なくとも57人が犠牲となり、169人が負傷したという。今後さらにロシアの軍事行動がエスカレートするとみられ、民間人の犠牲がさらに増えることが懸念される。プーチン大統領には、首都キエフを掌握することで今日の親西側的なウクライナ政府を打倒し、新たに親ロ政権を誕生させる狙いがあるとの見方も拡がっている。
今後、西側諸国はどう対応するだろうか。特に、米バイデン政権の対抗手段がポイントとなる。バイデン政権や日本などは ロシアが侵攻したことでより強い制裁に踏み切る方針を明らかにしている。また、バイデン政権は米軍7000人をドイツに派遣することを新たに表明するなど、最近は東欧における米軍のプレゼンス強化に努めている。
だが、これまでのところ筆者の脳裏に強く刻まれているのはバイデンを恐れないプーチンの姿だ。先に結論となってしまうが、バイデン政権やNATO、EUや日本などができることには限界があり、上述したようなことしかできない可能性が極めて高い。
ウクライナへの米軍派遣はバイデン政権にとってリスキー
まず、バイデン政権は東欧における米軍のプレゼンス強化に努めているが、ウクライナには派遣しない方針をすでに示しており、実際ロシアに打撃を与える手段は非軍事的措置、要は経済制裁となる。
また、最近明らかになった世論調査(日経アジア)によると、ウクライナ問題でアメリカが積極的役割を果たすべきだと回答した人は26%にとどまり、それに消極的な姿勢を示した人が7割を超えた。うち2割は全く関与するべきではないと回答し、アメリカ人の内向き化、アメリアの戦争疲れというものが改めて浮き彫りになった。
バイデン政権は2021年夏のアフガニスタンからの米軍撤退をめぐる混乱の結果、支持率を大幅に低下させている。ウクライナ救済のため米軍を現地に派遣すれば、ロシアとの戦争になって大規模な被害が生ずることは避けられず、間違いなくさらなる支持率低下を招く。秋の中間選挙でも苦戦が予想されるなか、バイデン政権としてはウクライナへの米軍派遣というリスキーな選択肢は絶対に取れないだろう。
イギリスやフランス、ドイツなど西欧諸国も同じで、軍事的なプレセンスを示したとしてもできることはそれだけであり、対応手段の中心は経済制裁となる。アメリカも欧州諸国もロシアによる侵攻を強制的に止めさせる手段は取れないだろう。
一方、プーチンはそういったバイデン政権の対応を織り込み済みだったように筆者には映る。オバマやトランプがアメリカの世界の警察官からの撤退を表明し、バイデンも事実上それを継続しているように、プーチンはアメリカの力の相対的低下を長年注視し、アメリカはロシアの軍事侵攻を排除できる行動は取れないという確信のもと、ウクライナに侵攻した可能性が高い。
周知のように、ロシアは世界でも有数の核大国であり、今回プーチンは最悪の場合、核兵器使用の可能性もちらつかせている。核があればアメリカはロシアの行動を抑止できない、そういった考えがプーチンの脳裏にはあったように思う。また、ウクライナへ侵攻すれば欧米から経済制裁を食らうことも承知済みで、そうなった場合には中国に代表される上海協力機構の加盟国と経済的なパートナーシップをこれまで以上に深めていくなどの戦略を描いているのだろう。まさに、今回はバイデンを恐れないプーチンの姿がそこにはあった。