ウクライナ侵攻でも口実&先兵となったプーチンの秘密兵器「親ロシア派」とは?

ロシアが親ロ派地域の独立承認後、親ロ派の活動家が反応 写真:ロイター/アフロ

政治

ウクライナ侵攻でも口実&先兵となったプーチンの秘密兵器「親ロシア派」とは?

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2022年2月24日、ロシア・プーチン大統領はウクライナへの全面侵攻に踏み切り、弾道ミサイルと戦車部隊を使って隣国に雪崩れ込んだ。19世紀を彷彿させるような前近代的な侵略行為に国際社会は驚きを隠せないが、またしても「親ロシア派」と呼ばれるアイテムがプーチンの侵略行為の“口実”と“先兵”となった。

文化的・言語的にとても近いロシア人とウクライナ人

プーチン大統領が「平和維持活動」「特別軍事作戦」と呼ぶ今回のウクライナへの軍事侵攻では、一応「ウクライナ東部の『親ロシア派』住民の保護」という大義名分を掲げ「ウクライナ政府から8年間も虐待されてきた人たちを守るため同国の非武装化を図る」と強弁する。

気になる「親ロシア派」とは、端的に言えばウクライナ東部、特にドンバス地方に集中するロシア系や「ロシア語を母国語とする人々」の中でも、より東隣のロシアにシンパシーを感じている集団のことで、中には「親プーチン」を標榜し過激な行動に走るグループも。つまりロシア系などの住民が全員「親ロシア派」というわけではない。

ウクライナの人口約4400万人のうちロシア系は全体の2割弱、700万人強、さらに「ロシア語を母国語とする人口」に間口を広げると同3割、約1300万人と推定される。ロシア人、ウクライナ人ともに同じ東スラブ民族で文化的・言語的にも極めて近く、歴史的にも互いを兄弟・親戚と見る間柄で、混血も進み特に同国東部では顕著。余談だが1962年にアメリカのケネディ大統領と「キューバ危機」を演じた当時のフルシチョフ・ソ連書記長はウクライナ系、また、次のブレジネフ・ソ連書記長は東部出身のロシア系でウクライナ訛りが強かったとのこと。

両者の言語体系もかなり近く意志疎通ができるほどだが、中央集権の強かったソ連時代、ウクライナでは公用語としてロシア語の使用が推進されウクライナ語は田舎の方言扱いに。ロシアと国境を接し都市化・工業化が進む東部ではロシア語の普及は特に顕著で、一方ロシアから遠い西部ではウクライナ語が広く話されていた。なおウクライナ語が公用語として同国で認定されたのは1991年に独立してからのこと。

東部でも特にロシア語を母国とする住民の割合が多いのが、ドネツィク州の75%と、その隣のルハーンシク州の69%の2州。ちなみに上記がウクライナ語による発音で、ロシア語では前者を「ドネツク」、後者を「ルガンスク」と呼ぶ。「ウクライナの“ドネツク州”を侵略するロシア軍は許せない」との論調を掲げるメディアは多いが、批判する際にそもそも侵略側が使う呼び名を通用すること自体ナンセンスだ。

2014年のクリミア併合時にはすでに始まっていた

ソ連時代、ウクライナ東部と隣接のロシア地域一帯は一大工業地帯「ドニエプル・コンビナート」で、東部の豊富な石炭(ドネツ炭田)や鉄鉱山、水力発電を背景に、ドネツク、ドニエプロペトロフスクやロシア領のハリコフなどに鉄鋼・機械・化学工業が発達。ロシアからも多数の労働者が集まったことも東部でロシア系比率が多い一因に。このため東部住民、とりわけ「親ロシア派」には「ウクライナの経済は俺たちが担っている」との自負が強く、農業主体で親欧米派の多い西部とはそりが合わず「ウクライナの東西対立」と揶揄されることも。

彼らの確執は2004年「オレンジ革命」として表面化、大統領選が紛糾し2014年には東部出身・親ロシア派大統領が失脚しロシアに亡命、代わって西部出身・親欧米派が政権を握る事態に。「西側によるロシア勢力圏への侵略」と警戒したプーチンは、まず手始めに人口の大半がロシア系住民のウクライナ領クリミア半島を武力併合(2014年3月)。いわゆるクリミア危機で、これとほぼ同時にウクライナ東部のロシア国境地域でも「親ロシア派」がウクライナ政府に対し武装蜂起、「ドネツク人民共和国(DPR)」と「ルガンスク人民共和国(LPR)」という独立国を宣言して内戦状態に突入。

つまり今回の「親ロシア派」の中核はこの2つの共和国だが、実は実効支配地域はそれぞれの州の半分前後に過ぎず、面積も両方合わせて日本の四国ほど。人口も前者が約240万人、後者は約150万人の計400万人程度。兵力はDPRが約2万人、LPRが約1万4000人で、ウクライナ政府軍約20万人と比べると一見劣勢だが、国境を接するロシアが大々的に軍事支援しているため一向に勢力は衰えない。

むしろ2つの共和国=「親ロシア派」は、ウクライナ侵略をお膳立てするために、むしろプーチンが巧妙に仕掛けた傀儡国家ととらえるのが世界の一般常識だ。

すでに2014年夏の段階でロシア軍の正規部隊が数千人規模で両共和国に派遣されてたとの観測もあり、また、部隊章を外し迷彩服とバラクラバ(目出し帽)で身を固めた屈強な将兵「リトル・グリーンメン」の姿も。どうやら彼らの正体はロシア軍特殊部隊「スペツナズ」や最精鋭の空挺部隊らしい。加えてアフリカで暗躍する民間軍事会社「ワグネル」の隊員も多数投入との噂も。

「親ロシア派」作戦は「ハイブリッド戦争」の一形態

ウクライナにおけるプーチンの「親ロシア派」作戦は着々と進行、まずかなり早い段階からDPR、LPRの住民に対しロシアの市民権を与え、ロシアのパスポートを交付するなど同化策を強める一方、2022年2月21日には2つの共和国を独立国として承認(もちろん世界で承認する国はほかに無い)、即座に集団的自衛権をも含んだ友好条約を締結し、これに基づき合法的にロシア正規軍部隊を平和維持部隊として両共和国に派兵、さらに両共和国を防衛するため集団的自衛権を発動しウクライナに侵攻――というシナリオを実行中。

この「親ロシア派」、プーチンが他国に軍事介入する際の常套句で、すでに2008年の旧グルジア(現・ジョージア)紛争や前述のクリミア危機でも似たような戦術を実施、正規軍による攻撃と同時に情報戦やサイバー戦、法律戦など非殺傷的手段を総動員して軍事目的=占領を達成する「ハイブリッド戦争」の一形態だ。

ウクライナ情勢は予断を許さないが、プーチンの「親ロシア派」カードは要注意で、ジョージアやモルドバ、アゼルバイジャンなど旧ソ連邦ながらウクライナと同様の親欧米諸国や、旧ソ連邦の一員だったものの現在NATOに加盟するバルト三国、さらには旧ワルシャワ条約加盟国だったものの、冷戦崩壊後続々とNATO入りを果たしたルーマニアやチェコ、スロバキアなど東欧諸国にも一定規模のロシア人が定住。もちろんこれを理由に民族差別やヘイトスピーチは言語道断だが、各国とも注視しているという。