ロシアのウクライナ侵攻はインド太平洋におけるアメリカの出方を探る機会を中国に与えてしまっている

写真:ロイター/アフロ

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ロシアのウクライナ侵攻はインド太平洋におけるアメリカの出方を探る機会を中国に与えてしまっている

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ロシアによるウクライナ侵攻はヨーロッパの安全保障を脅かす事態となったが、影響はそれにとどまらない。われわれ日本は、アメリカの影響力が相対的に低下し、中国の影響力が高まる今日において、米中対立という大国間競争にウクライナ情勢がどのような影響を今後及ぼす可能性があるかを十分に理解する必要がある。

中国にとってロシアは重要な外交カード

ロシアのプーチン大統領がウクライナへの侵攻に踏み切り、世界経済への影響が出始め、外国人を含む民間人の犠牲者も次々に報告されており、緊張が続いている。プーチン大統領はウクライナのゼレンスキー現政権を崩壊させ、新たに親露政権の樹立を目指しているとの見方もロシア専門家の間で広がっている。今後の展開は不透明な点が多いが、今回の侵攻は“冷戦は依然として終わっていない”という印象を強く抱かれる事態となったことは間違いない。

ロシアがウクライナに侵攻して以降、欧米諸国や日本は世界経済への影響を最小限に抑える範囲で経済制裁を考えていたが、ロシアの対応が軟化しないことから、ロシアを国際決済網「SWIFT」から締め出すというより厳しい制裁に踏み出す姿勢が顕著になっている。

そのようななか、中国は独自の路線を堅持している。最近明らかになった報道によると、中国の習近平氏はプーチン大統領が台湾の武力統一に支持を表明したことはないので、当面の間はウクライナへの軍事侵攻については態度を示さない一方、ロシアへの経済制裁は違法であり今後はロシアへの支援を強化する方針を示したという。

中国は、ロシアによるウクライナ侵攻において、プーチン大統領の意思と行動、そして何より米バイデン大統領の対応を注視していると思われる。習近平氏としても、侵略を支持することになれば国際社会からの中国への批判が高まるのは十分承知なので、それを避けつつも対米ではロシアとの戦略的共闘は重要なことから上述のような主張をした可能性が高い。北極や中央アジアにある豊富な資源獲得や影響力拡大をめぐって中露では相容れない部分もあるが、対米国ではロシアは中国にとって極めて重要な外交カードとなっている。

当然ながら、石油や小麦などの世界的輸出国であるロシアへの制裁が強まれば中国への影響も出てくることになるが、対米国、対欧米でロシアと戦略的共闘をとることでどれほど機能するか、また、上海協力機構(※)の加盟国を中心にアジアやアフリカ、中南米など第三諸国がどこまでそれに着いてくるかを注視していると思われる。
※中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン・インド・パキスタンによる多国間協力組織

また、上述のように、習近平氏の最大の着眼点はアメリカが対ロシアでどこまで機能しているかであろう。ウクライナ危機が高まって以降のバイデン政権の対露政策にはさまざまな意見があろうが、厳しく言えば、“圧力を掛けるなかでもロシアの侵攻を抑止できなかった”“米軍を東欧に派遣してもロシア軍と弾を撃ち合うことは避けた” “結局は経済制裁しか手段はない”といったところだろう。これを習近平氏はどう捉えるのだろうか。

米国民は内向き志向が強くなっている

昨今、ウクライナ情勢をめぐってそれを台湾有事に置き換える議論が増えているが、ウクライナと台湾では地政学的環境も常駐する米軍の規模も大きく異なるので、中国の軍事的行動がすぐにエスカレートする可能性は低い。

しかし、アメリカによる対露政策が与える印象は、米中の経済力や軍事力がインド太平洋で拮抗しているなかにおいて、今後中国にとって行動の自由を拡大させる可能性が高い。

最近、ある調査結果が発表された。「ロシアによるウクライナ侵攻でアメリカが積極的な役割を果たすべきかどうか」との問いに対し、「積極的な役割を果たすべきだ」と回答した米国民は全体の26%にとどまり、「最低限の役割に留めるべき」が52%、「役割を果たすべきではない」が20%と7割以上が消極的な意思を示した。

すでに、米国民の間では戦争疲れ、他国に干渉しないという内向き志向が強くなっているのは事実であり、秋の中間選挙で苦戦が予想されるバイデン政権も、こういった国民の意見に耳を真剣に傾けざるを得ない状況にある。バイデン政権は中国を唯一の競争相手と位置づけ、米国民の間でも中国脅威論はこれまでになく高まっている。しかし、軍事的関与、軍事的衝突となれば相手が中国でも答えは上述の調査結果のようになる可能性がある。

ロシアによるウクライナ侵攻、これはインド太平洋におけるアメリカの出方を探る上でも中国に貴重な機会を提供してしまっている。