第26回参議院選挙が7月10日に投開票され、自民党が改選過半数となる63議席を獲得して圧勝した。憲法改正に前向きな「改憲勢力」は国会での発議に必要な参院の3分の2議席を維持。野党では立憲民主党が議席を減らし、日本維新の会が比例代表で立民を上回って野党第一党となった。投票率は52.05%で、前回2019年参院選を約3ポイント上回った。
与党の合計は非改選含めて146議席に
参院選は改選124議席に神奈川選挙区の欠員1を加えた125議席が争われた。自民党は選挙区で45、比例代表で18の計63議席を獲得。自民と連立を組む公明党は選挙区7、比例代表6の計13議席を獲得した。与党の合計は76議席で、非改選を含めると146議席となった。
投開票の2日前に自民党の安倍晋三元首相が街頭演説中に撃たれて死亡する事件が起きており、有権者の投票行動に影響した可能性もある。
岸田文雄首相が事前に「勝敗ライン」と位置付けていた「非改選を含めて与党で過半数」(125議席)は大きく上回り、与党の改選前勢力の69議席や、自民党で改選過半数(63議席)もクリアする圧勝ぶり。参院選の勝敗を左右するとされる改選定数1の「1人区」では32選挙区のうち自民党が28選挙区で勝利した。
野党では立民が振るわず、改選前の23議席から17議席に減少。比例代表の獲得議席数は7にとどまり、維新の8を下回った。維新は“重点区”と言い続けた東京や愛知、京都で当選に届かなかったが、大阪で2議席、兵庫と神奈川で1議席ずつ獲得。比例で野党第一党となり、改選前の6議席から12議席に倍増させた。
国民民主党は7議席から5議席、共産党は6議席から4議席に勢力減。社民党は福島瑞穂党首が比例代表で当選し、改選前と同じ1議席を死守して政党要件も維持した。れいわ新撰組が3議席、NHK党が1議席を獲得し、政治団体の参政党が国政選挙で初となる1議席を獲得した。
参院選前後の各政党の議席数 ※[]は獲得議席
- 自民 111→119[63]
- 公明 28→27[13]
- 立民 45→39[17]
- 維新 15→21[12]
- 国民 12→10[5]
- 共産 12→11[4]
- れいわ 2→5[3]
- 社民 1→1[1]
- NHK 1→2[1]
- 参政 0→1[1]
- 無所属 15→12[5]
“黄金の3年間”岸田政権は物価高対策に取り組む姿勢
岸田首相は2021年10月の衆院選に続いて国政選挙で2連勝。衆院を解散しない限り、今後3年間は大型国政選挙がない“黄金の3年間”となり、当面は安定して政権運営することができる。首相は7月10日夜のテレビ番組で「多くの国民が物価の高騰に関心を持ち、政治に役割について強い思いを持っていることはひしひしと伝わってきた」と述べ、最大の争点とされた物価高対策に取り組む姿勢を強調した。
与野党の勝敗とともに今回の参院選で注目されたのが改憲勢力の行方だ。憲法改正に前向きな与党と日本維新の会、国民民主党の4党で今回、82議席を上回れば参院での3分の2議席を維持できる。結果は93で大きく上回り、衆参両院で改憲勢力が国会での発議に必要な3分の2を超えた。
岸田首相は憲法改正について「大きな課題に勇気をもって挑戦しなければならない」と強調する一方で「3分の2の勢力に賛同いただける部分から発議を進めていく」とも語り、9条改正を含む自民党の「改憲4項目」にこだわらない姿勢をみせた。自民党が主張する「自衛隊の明記」などには公明党が否定的なため、他の4項目である「国会や内閣の緊急事態への対応を強化」や「教育環境の充実」などを優先する可能性がある。
保守的な政策の行方は?
安倍元首相が亡くなった影響にも注目が集まる。安倍氏は憲法改正など保守的な政策に強い影響力を持っており、最近ではロシアによるウクライナ侵攻も踏まえて防衛予算の大幅増額やアメリカ合衆国の核兵器を同盟国で共有する「核共有」、敵基地攻撃能力の保持なども主張していた。安倍氏が亡くなったことで主張が“神格化”され、これまで以上に党内で影響力を持つ可能性が指摘される。
安倍氏は2021年11月に党内最大派閥である清和会の会長を継いだが、派内を見渡しても安倍氏に代わる“大物”は見当たらない。派閥の結束が緩めば同派が松野博一官房長官を輩出するなど積極的に支持してきた岸田政権の基盤にも影響しかねない。
野党の弱体化は避けられず、今後は共闘ではなく再編へ
一方で弱体化が進むのが野党だ。衆参で最大勢力の立民は2021年の衆院選で敗北した後、党の顔である代表を枝野幸男氏から泉健太氏に変えたが、今回も勢力が減少。比例代表の得票数は676万票で、784万票の維新に100万票以上の差をつけられた。今回は「野党共闘」による候補者調整が難航したことで不利が予想されたが、一本化できた選挙区でも振るわなかった。新潟選挙区では参院幹事長を務める森裕子氏が実質的な野党統一候補だったが、自民党の新人に競り負けた。時事通信の出口調査によると、無党派層でも維新を下回ったという。
勢力が倍となった維新も選挙区では地盤である大阪と隣の兵庫、候補者の知名度が高い神奈川で勝っただけ。重点区はいずれも当選を逃し、松井一郎代表(大阪市長)は代表を辞任する考えを表明した。松井氏と並んで知名度の高い吉村洋文副代表(大阪府知事)は不出馬を明言しており、勢いを維持していけるか疑問視する声もあがる。
立民と同じ民主党の流れをくむ国民民主も選挙区での当選は現職2人のみで、比例も振るわず勢力を減らした。一時、勢いのあった共産党も勢力減。今回、候補者の調整がうまくいった選挙区でも自民に負けていることから、今後は「野党共闘」ではなく「野党再編」に向かう可能性もありそうだ。