アジアへの関与を引き出す狙い? 日本がNATO首脳会議に2年連続で参加する理由

NATO首脳会議で行われた日米韓首脳会談(2022年6月29日) 写真:AP/アフロ

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アジアへの関与を引き出す狙い? 日本がNATO首脳会議に2年連続で参加する理由

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米中対立や台湾有事の可能性で緊張が続くなか、7月11日に岸田文雄首相はバルト三国のリトアニアで開催予定の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議へ、2022年に続いて出席する。2022年同様、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの支援が第一に議論されると思われる。一方で中国に対しては東・南シナ海情勢への一方的な現状変更や、緊張が高まる台湾情勢などについて、どこまで踏み込んだ議論や声明が出されるかも大きなポイントになる。

中国を警戒する日本とNATOの思惑が一致

今回のリトアニアでの首脳会議に岸田首相が出席することには大きな意義がある。2022年、スペイン・マドリードで開催された首脳会議に、岸田首相は日本の首相として初めて出席し、日本とNATOとの関係強化を訴えた。そして、G7広島サミットでは、最終日にウクライナのゼレンスキー大統領が対面で参加し、岸田首相は唯一の被爆国日本と核の脅威に直面しているウクライナとの結束を内外に強く示すことに成功した。

ゼレンスキー大統領が平和公園を訪れただけでも極めて象徴的な出来事となったが、今回の会議はその延長線上にあり、日本がウクライナを継続的に支援する意思を改めて示すだけでなく、安全保障秩序が大きく変わりつつある東アジアの現状をNATOへ強く訴えるためにも重要となる。

また、NATOも東京に連絡事務所を設置する計画を進めていたことが、今年5月に一部報道で明らかになったが、そのことからもわかるように、NATOの中国への警戒感は以前より明らかに強まっている。今回の会議では、これまでよりもっと踏み込んだ形で、中国向けメッセージが発信される可能性がある。

日本のNATO首脳会議参加の背景に見える“焦り”

日本の首相が2年連続でNATO首脳会議に参加する背景には、当然ながら、現状変更を続ける中国やすでに侵略国となったロシアの脅威があることに加え、1つの焦りがあるのではないかと考える。それは、軍事バランスからの懸念だ。

周知のとおり、21世紀以降、中国は高い経済成長を続け、2010年過ぎには経済力で日本を追い抜き、今日、米中の経済力と軍事力は益々拮抗してきている。いつかは米中逆転が生じるとの見方もあるが、すでに東アジア海域では、これまで以上に中国の軍事プレゼンスが高まっており、自由主義陣営の優勢という状況が壊れつつある。

対して、NATO諸国を擁する欧州では、軍事バランスの状況が東アジアと全く異なる。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、世界に衝撃を与え、欧州の安全保障観も“非伝統的脅威であるテロ”から“伝統的脅威である国家”へ一気に逆戻りしたが、同時にフィンランドやスウェーデンのNATO加盟プロセスにもエンジンが掛かった。その結果、2023年4月にフィンランドが正式にNATOに加盟。フィンランドと1000キロ以上にわたって国境を接するロシアは、対立する相手の勢力圏が自らの国境にまで及ぶ結果となった。

現状、NATOとロシアの軍事バランスは、大きくNATO、自由主義陣営が優勢だ。ロシアの核戦力という脅威はあるもののNATOとロシアでは軍事力で比較にならないほど差があり、その状況は今後も変わらないだろう。つまり、NATOの存在は日本にとって、自由民主主義という同じ価値観を共有できるだけでなく、グローバルな視点から中国をけん制できるパートナーに最適なのだ。

日本の安全保障に強くかかわるアメリカをはじめ、韓国やオーストラリアなど、地域パートナーとの協力も重要だが、それらを合算しても軍事バランス的に今日の欧州のような状況にはならない。日本のNATO首脳会議参加には、同じ価値観を共有するパートナー諸国との結束を今のうちから広く固めておきたい狙いがあるのだ。要は、現状では、NATOが日本を必要としている以上に、日本がNATOを必要としていると言えよう。

日本のNATO参加の意義

一方、NATOがカバーするべき地域は条約上、北大西洋に限られているため、東京にNATO事務所を設置すれば中国を過剰に刺激することになると、フランスはNATOのアジア接近に懐疑的な見方をしている。今日でも、アメリカと欧州では対中姿勢に温度差があるので、フランスからこういった見方が上がっても決して不思議ではない。

しかし、それは日本にとって望ましいものではない。そういう意味で、岸田首相がNATO首脳会議に今年も参加し、北大西洋と東アジアを接近させ、NATOのアジアへの関与を訴えることは極めて意義がある。