脱炭素を目指す「GX電源法」成立、その中身は「脱・脱原発」か

東日本大震災から12年、福島第一原発は処理水の海洋放出が難航 写真:ロイター/アフロ

政治

脱炭素を目指す「GX電源法」成立、その中身は「脱・脱原発」か

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6月21日に閉会した通常国会の中で注目すべきことの一つに政府提出法案の「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」の成立がある。これにより、原子力発電所の60年超の運転が事実上、可能となったのだ。2011年の東日本大震災で起きた、東京電力福島第一原発事故が完全に収束しないなか、政府は脱原発から真逆の方向に舵をきったことになる。

最長60年だった原発の運転期間が事実上撤廃へ

「福島第一原発の事故から12年たったが、収束はまだ見えていない。現場での廃炉作業も大変厳しく、3万人を超える方がまだ避難生活。国の存続に関わるリスクを背負うことになるということを踏まえて原子力政策を考える必要がある」。4月の衆院経済産業委員会で、立憲民主党の山崎誠氏は西村康稔経済産業相にこう迫った。

GX脱炭素原電法の正式名称は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等改正案」。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとしたエネルギー市場の混乱や国際社会から脱炭素社会への転換を求められていることなどを受け、再生エネルギーの導入促進と原子力の活用を進めるのが柱だ。

法律の目的自体は至極真っ当だが、その手段には疑問符がつく。例えば、原発については原則40年、最長60年という現在の規制枠組みを維持しているが、安全審査や裁判所の仮処分命令などで停まっていた期間は運転期間から除外されることになった。これにより、60年を超える運転も可能となった。

それを象徴するのが国内の原発で最も古い福井県の関西電力高浜原発1号機だ。同施設は、2011年に定期点検で停止していたところ震災が起き、それから12年間停止状態が続いている。関西電力は7月下旬に再稼働すると発表したが、今回の法改正により最長72年まで稼働できるようになる計算だ。

脱炭素が目的だが、原発産業の救済がちらつく法改正

安全性が確認できれば何年たとうと稼働できるというなら正論だが、停止期間を運転期間から除くというのは何とも姑息な“抜け道”のように感じる。正面切って運転期間の上限を延ばせば反対論が噴き出るだろうと考え、今回のような法改正にしたのだろう。

ほかにも、経年劣化した原発の安全性を確保するため、運転開始から30年を超えると10年以内ごとに設備の劣化具合などを審査し、原子力規制委員会の認可を受ける仕組みを取り入れたが、運転延長の可否を判断する権限は規制委員会から経産省に移された。

しかも、経産省による延長可否の判断材料は①安定供給確保②GXへの貢献③自主的安全性向上や防災対策の普段の改善、の3点だという。これでは、判断材料の並び順からも、安全より電力の安定供給に軸足を移しているのが明白だ。何としてでも古い原発を動かしたいという電力業界と政治の意図が見え隠れする。「今回の法律は脱炭素社会の実現を名目にした原発産業の救済法だ」という声もある。

政府は2011年の東日本大震災とその後に発生した原発事故を受け、原発の運転期間の上限を定めた。当時は民主党政権だったが、野党だった自民、公明両党も賛成した経緯がある。それにもかかわらず、自民党は政権交代後に民主党政権の「2030年代に原発稼働ゼロ」方針を撤回。じわりじわりと原発の“最大限の活用”に向けて土壌整備を進めてきた。今回の法律により岸田政権による原発推進に向けた法改正はおおむね完成したとみられる。

世論は原発推進について現在も二分状態

しかし、福島第一原発事故から12年経過した今も課題は山積している。この間にさまざまな安全対策が打ち出されたが、日本が地震大国である以上、リスクをゼロにすることはできないだろう。石油価格などが高騰するなか、原発の活用は一時的にはエネルギー価格抑制に寄与するかもしれないが、事故リスクや保険などのことを考えれば原子力発電のコストは決して安くないということも明白になった。核のごみの最終処分問題に至っては解決への糸口すら見いだせていない。

世論も割れている。朝日新聞が2023年2月に実施した世論調査によると、停止している原発の運転再開については賛成が51%となり、事故後初めて過半数となったが、反対も42%で高水準。「建て替えを進める」ことについては反対が46%で、賛成の45%をわずかに上回った。選挙で与党が勝ち続けているからといって、必ずしも原発推進政策が支持されているわけではないことを政府・与党はわきまえるべきだ。

自民1強のなか、主導権を握れぬ野党と国民が知らぬ間に成立する法律の危うさ

野党がだらしないのも政府・与党に緊張感が欠ける一因だろう。最大野党である立憲民主党は支持の低迷に拍車がかかっており、勢いに勝る日本維新の会との国会での「共闘」は瓦解。「自民1強」の状況がますます強まっており、国会運営でも主導権を握られっぱなしだ。

今国会における政府提出法案の成立率が97%と高水準なのがその証拠。GX脱炭素電源法の国会審議でも国民の胸を打つような質問は無く、数回の審議であっさりと成立を許している。

法律成立時に一部メディアが取り上げたが、果たして今回の「GX脱炭素電源法」の成立を国民の何割が知っているだろうか。国民の意思とは別に淡々と国会審議が進み、法律が成立していく。政府・与党にとっては思うつぼだが、この国にとっていいことかどうかはわからない。