2015年4月に大手小売りの通期決算が発表されることになるが、1月に発表された第3四半期決算を見る限り、稼ぎ頭のセブン-イレブンを擁するセブン&アイHDの一人勝ちが確実視されている。しかし、一見、絶好調に見えるセブン&アイHDだが、グループ会社をそれぞれ分析すると死角も浮き彫りに……。
増益分をのみ込む箱型GMSの惨状
少し前の話だが、年明け1月にセブン&アイHDが発表した2014年11月第3四半期の決算によれば、営業利益が対前年比101%の2494億5000万円、経常利益も同10.1%増の2492億8700円と過去最高益をたたき出した。競合のイオンやユニーグループHDの数字がパッとしなかったのとは対照的に、改めてセブン&アイHDの強さが際立つ結果となった。
一見、向かうところ敵なしのようにとらえられる同社ではあるが、好決算の内容を詳細に分析すると、利益の7割をコンビニ業態セブン-イレブンに依存しているという、決して大手を振っては喜べないグループの弱点も浮き彫りになっている。
喫緊の課題となるのは、コンビニと双璧をなす主力業態であるスーパーストア事業の立て直し。特に核となるイトーヨーカ堂の箱型GMSの改革だ。
GMSとは、ゼネラルマーチャンダイズストアの略で、食料品のほかに衣類などの日用品も扱う総合スーパーのこと。同社の第3四半期決算によれば、スーパーストア事業で主力のイトーヨーカ堂が25億円の営業赤字に転落、ヨークベニマルや赤ちゃん本舗の増益分を完全にのみ込んでしまう厳しい現実が見て取れる。
日本の高度経済成長を背景に、同社の業容拡大に貢献してきた箱型GMSだが、欲しい商品がすでに行き渡っている”消費の飽和”の前では、大量生産・大量消費を前提にしたビジネスモデルは、もはや通用しないということだ。しかし、この状況は10年以上も前から指摘されていたことで、何も今に始まったことではない。
もはや変えられないビジネスモデル
同社でも、それを早い段階から十分に自覚していた。問題は小売りの優等生といわれる同社が、それを自覚しながら改革しきれないことにある。箱型GMSの稼ぎ頭だった衣料品の商品政策(マーチャンダイジング:MD)を改革すべく招聘した”伊勢丹のカリスマバイヤー”こと故藤巻幸夫氏も、全国展開を前提にしたMDに慣れきってしまっていたイトーヨーカ堂では、何ら手腕を発揮することなく「従来の売り場だけを壊して逃げた」とも揶揄された。
また、改めて接客強化という観点から、販売員の拡充を実施したものの、成果は限定的なものに終わるなど、打ち出した施策は死屍累々の山を築いただけだった。言い換えれば箱型GMSは、10年以上前から同社の喉元に突き刺さったままの骨なのだ。
売れない2階の衣料・日用品が行き着く先は…
しかし、そうは言ってもグループでは、箱型GMSの売り上比率は決して低くない。直らない病気とはいえテコ入れ策は必須。そこで、イトーヨーカ堂が今期打ち出した施策が、店舗立地の地域特性に合わせた個店対応だ。特に味覚等、地域性の強い商材に見直しをかけ売上増を狙うという。セブン-イレブンの成功例の導入である。
だが、これは食品分野に限って言えることではないか。箱型GMSでも食品分野は比較的安定している。課題は衣料品であり、日用品の立て直しである。
「箱型GMSの改革に関してセブン&アイは、改めて地域性重視を盛んに言っていますが、これも以前より手掛けていなかった訳ではありません。仮に食品が上向いても衣料・日用品のマイナスをカバーできません」(業界関係者)
との厳しい指摘もある。
起死回生の策として考えられるのは、2階以上にある衣料品・日用品売り場を専門店に明け渡すということ。売れない商品を陳列しているくらいなら、集客力の高い専門店を誘致、賃料収入で利益を担保した方が現実的と思える。しかし、前述の業界関係者は述べる。
「箱型GMSの1階食品売り場から上層階への誘客は現実性が乏しい。それは専門店側も承知していますから、ショッピングセンターやモールからの出店要請は喜んで受け入れますが、逆に箱型GMSでは答えはノーです」
あらゆる観点から箱型GMSの再生を検討しても勝ち目はありそうもない。そういう意味で、お荷物となった箱型GMSの残された道は”閉鎖”しかない。不採算店をどの段階で処理できるかに、グループの成長戦略がかかっていると言えるのだ。
ゴルチエ氏の起用に疑問符
セブン&アイ・ホールディングスは百貨店も傘下に収め、総合小売業を目指している。しかし、記事にあるとおりGMSの中でも衣料品の売り上げが芳しくない。
衣料品の利益率は高いので、なんとかテコ入れをしたいだろうが、多様化した流通のなか、GMSで衣料品を買う顧客を復活させられるか疑問だ。起爆剤として、有名デザイナーのジャンポール・ゴルチエ氏を起用して、百貨店と同じ商品も扱うという。……疑問だ。百貨店とスーパーはそもそも客層が違う。同じ商品を扱うこと自体がナンセンス。
さて、どうなっていくか楽しみだ。