事業構想大学院大学は、その名の通り、「事業構想」を追究する世界でも珍しい大学院だ。理事長の東英弥氏によれば、事業構想は、地方創生という社会課題の解決にも欠くことのできないものだという。事業構想とは何か、それをどう追究し、地方創生にどう生かせるのか、同氏に話を聞いた。
会社員でも2代目でも事業構想は必要
東氏によれば、事業構想とは社会に貢献し、永続的に利益を生むことのできる事業のアイデアや理想のことであり、それを実現させるための具体的な方法案が「事業構想計画」だという。事業構想大学院大学では、院生は思考法やフィールドリサーチ、プレゼンテーションなど独自の課程を2年間で修め、2年次には修士論文に代わるものとして事業構想計画を発表する。
院生は起業を考えている人や経営者のほか、親の事業を継ぐ予定の2代目、3代目や、勤務先の企業で新事業の立ち上げを任された人など。
「日本には約430万の企業が存在する。これを活性化できれば、経済再生の近道になる。一般に、企業のライフサイクルは30年。一定期間が過ぎれば衰退期に入る。その前に、創業者が抱いたような事業構想を新たに掲げなければ。特に、変化の激しい今の時代には、大企業といえど、同じことをいつまでも繰り返していたら未来がない」(東氏。以下、引用は全て同氏)
入学して最初の授業で、院生に自分の給与がどこから発生しているかを説明させる。院生は自分が携わっている事業のビジネスモデルを改めて見直すことになる。
「足元を見つめることは大切。自社の経営資源を知れば知るほど、そこからアイデアもわきやすい」
発表に対して、他の院生から改善や改革のアイデアも出てくる。「会社で新事業の企画を担当することになった人が、特命のために他の社員に相談することもできず悩みを抱えるといった話を聞く。同じような境遇の人が集まって刺激し合えるのも、本学の特徴だ」
開学から4年目を迎え、卒業後のフォローも始めた。OBが意見を交換したり、人脈を紹介し合ったりできるよう、勉強会を開催している。
全国47都道府県に研究所を
事業構想大学院大学をベースに、東氏は地方創生への働きかけも始めている。それが、開学と同時に関連組織として立ち上げた事業構想研究所。事業構想ができる人材を育てることや、新製品・新サービスを構想することを目的とした研究機関だ。これを全国47都道府県に設けて、「研究所から地方創生のアイデアを生む」、「研究所に人を集める」という両輪で、地域の活性化を狙う。
「どの地域であれ、住む人の行動パターンや地元に伝わる慣習・信仰など、外部からは知りえない特有の事情があるものだ。これを加味しない地方復興策は、地元がその新事業の顧客にならないため、遅かれ早かれ滞ってしまう。政府主導の開発によって全国どこにでも似たような宿泊施設や商業施設が建ち、地域の特色を失っていく可能性もある。地方の人材が自分で事業構想を生み出すことが重要だ」
そのため、東京からコンサルタントや専門家を派遣するにとどまらず、アイデアを生むことのできる人を地元で育てる形や、地方の人材が東京で学んで地元に帰る形が理想だという。実際に2014年10月から、信州大学の学生約10人が、繊維の先端技術を事業化するためのノウハウを事業構想大学院大学で学んでいる。地方自治体の職員が、研修として、あるいは個人の意思で入学する例も増えてきた。こうした需要に応えるため、事業構想大学院大学では「地方都市の事業構想」、「観光と地域活性化」といった選択科目も用意している。
成功のヒントは、地域資源、地元利用、人の移動
東氏自身も、地方創生のアイデアをいくつも持っている。例えば”趣味の街づくり”だ。
「B級グルメは成功例もあるが失敗例も少なくない。手軽な食べ物という一つの切り口にみんなが一気に飛びついたせいで、顧客の取り合いになったのではないか。地域には多様な資源があり、その資源を生かした企画が成功しやすいはずだ。全国1718の市町村で、例えば司馬遼太郎の街、鉄道の街など、それぞれ異なる切り口で街を特徴づけていけば、活性化につながるのでは」
地方創生を目指した新事業に対して、地元の人が顧客になることも大切だという。
「駅前にその地方の特産品を売る市場を作ると、観光客が喜ぶだろう。しかし、それを観光客だけが使う施設にしてしまうのはもったいない。地元の人が利用すれば、働き手以外の人も地域の中で動くことになるし、観光客が少ない季節にも客が来て施設の経営が安定する。サービスの質も落ちにくい。地元が実際に買う商品だと思えば、観光客もなお喜ぶ。だから、地元の人は少し安く買えるようにするなど、地元利用を促す仕掛けを入念にやるべきだ」
地域の外から中へ、あるいは地域の中で、人を動かすことこそ、地方創生の要だと東氏は考えている。
事業構想大学院大学
2012年4月に開学。校舎は表参道。入学定員は30人。社会人向けの大学院で、院生の平均年齢は34~35歳。平日(週1日~)の夜間と土曜の昼間の授業で修了に必要な単位を取得できる。卒業生に、ブライトンホテルを運営するブライトンコーポレーションの社長、爪川治氏ら。