経済

ピーターパンがお好きな黒田日銀総裁 ネバーランドはいつまで続くのか、黒田バズーカの賞味期限

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日銀の黒田総裁が童話ピーターパンの一節から説いた金融政策に経済界がどよめいた。自らが課した目標(2年で2%の物価上昇)から逃避したい潜在意識の表れだといわれている。すでに2発撃っている黒田バズーカに威力はあるのか――。

黒田総帥のピーターパン発言にどよめく

「2015国際コンファレンス」での日本銀行・黒田東彦総裁の開会挨拶が話題となっている。”金融政策:効果と実践”がテーマとなった今回の会合。黒田総裁はその挨拶の結びで次のように各国の中央銀行関係者に語りかけた。

「皆様が、子供のころから親しんできたピーターパンの物語に”飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう”という言葉があります。大切なことは、前向きな姿勢と確信です」

中央銀行総裁が童話の一節から金融政策を説くことは前代未聞。「非伝統的な金融緩和を自信を持って推し進めるべきだと強調したかったのでしょうが、ピーターパンの比喩に違和感を持った金融関係者は少なくない。思うように上昇しない物価に、自分自身が飛べなくなるのではないかと心配になっている黒田総裁の潜在意識を際立させる結果になった」(市場関係者)と受け止められている。

ピーターパンは大人になりたくないネバーランドの住人である。飛べなくなるというのは大人の世界の現実に向き合うことを意味する。黒田総裁は、2%の物価上昇という自らが課した目標から逃避したい”ピーターパン症候群”に陥っているようにみえる。

“黒田バズーカ”と呼ばれた2013年4月の異次元緩和から2年が経過したが、石油価格の下落もあり、物価上昇率はゼロ近辺に張り付き、さしたる上昇はみられない。一方、国債、ETF(上場株式投信)、REIT(上場不動産投資信託)の大量購入により日銀の資産は膨張し続けている。

近い将来、日銀の資産規模は日本のGDPに並ぶ規模に達しよう。さしずめ日本最大の”物言わぬ株主”に変身したようなものだ。

にもかかわらず、日銀は2014年10月末に”ハロウィン緩和”と呼ばれる追加緩和に踏み切った。意表を突かれた市場では1日で日経平均株価は755円も急騰し、円ドルレートは一挙に3円も円安に振れた。市場は最大のプレーヤーとなった日銀の一挙手一投足に神経質になっている。

日銀は債務超過になることはないのか

膨れ上がる日銀の資産に対し不安がないわけではない。保有する資産の価値が大幅に下落すれば最悪の場合、日銀は債務超過に陥ることも考えられなくもない。確かに、日銀は国債の会計処理については償却減価法を採用しており、償還まで売却しない限り評価損は評価損のまま実現損とはならない。よって債務超過は杞憂という指摘もある。しかし、日銀といえども株式を上場する銀行であり、市場の評価に晒されていることには変りはない。日銀が債務超過となった時、通貨(日本円)の価値はどうなるのかが問われる。

このことは日銀自身も危惧している。2015年3月期決算で当期剰余金の25%相当額を法定準備金として積み立てることを決めたのもそのためである。

日本銀行法では当期余剰金の5%相当額を法定準備金として積み立てることが義務付けられているが、今回の申請で5倍の水準まで引き上げられた。法的準備金の積み上げにより日銀の自己資本比率は健全性の目安とされる8%を超えた。

日銀の黒田総裁は自信満々だ。5月16日の講演では、異次元緩和導入から2年を総括して、「(デフレ脱却に向けて)大きな構図が思い通りであることに確かな手応えを感じている」と語った。また、異次元緩和によって長期金利が押し下げられたことは、「伝統的な短期金利誘導による金利政策が通常は1回0.25%ずつ行われることを踏まえれば、10回近くの利下げを同時に行ったのと同等の政策効果を持っている」と力説した。しかし、肝心な物価は思うように上がらず、2年で2%の物価上昇率は未達となった。

“2年で2%”の物価上昇は絶望的か

日銀は2015年6月19日に金融政策決定会合の運営を見直した。これまで年14回開催していた同会合を、2016年1月から年8回に少なくする一方、経済・物価の見通しを示す展望レポートを従来の年2回から四半期毎(年4回)公表する。また、金融政策決定会合後に審議委員の”主な意見”を作成し、1週間後を目途に公表するという。

この見直しに対し「金融政策変更の機動性が低下するのではないか」(市場関係者)と訝しがる声も聞かれる。

突然、開催頻度を大幅に減少させた背景には、海外の中央銀行と足並みを揃えたという表向きの理由以外の意図があることは確かだろう。それは、未だに黒田総裁が公約した”2年で2%”の物価上昇目標が達成できていないことである。

当初は2015年4月までに2%の物価上昇が達成され、名実ともにデフレ脱却となる予定であったが、原油価格の下落などもあり、達成時期は2016年度前半に後ずれ。このままでは16年度の達成も難しいというのが市場の見方だ。

このため市場では、日銀の”追加緩和観測”が根強く残ったまま。また、出口戦略について黒田総裁は国会でも”時宜尚早”として明言を避けている。「金融政策決定会合の開催頻度を減らすのは、政治からの圧力やマスコミの追及をかわす意図があるのではないか」(市場関係者)と囁かれている。

日銀の異次元緩和から2年が経過し、政策は一定の効果を生んでいるが、それは日銀の財務に過大なリスクを溜め込んだ結果でもある。そのひずみが暴発しない保証はない。ネバーランドの夢はいつか覚める。”黒田バズーカ”の賞味期限もそろそろ限界が近いかも知れない。

“異次元の金融緩和”は2年程度しか使えない劇薬

2013年4月に日銀は”異次元の金融緩和”を宣言し、市場に出回るマネーを2倍に引き上げた。そして、”2年で2%の物価上昇”を目標に掲げた。2年が経った今、物価上昇目標は達せられずにデフレからの脱却は遠い。しかし、金融政策のみで物価上昇を果たせるとは思えず、円安や株価上昇で市場を引っ張ってきたことは評価されてもいいと思う。

しかし、黒田総裁はピーターパンを比喩に出して、「いつか飛べるはず」と言いたかったのだろうが、自身の発言(2年で2%)に縛られて、引き締め時期を誤ると、大きなバブルが弾けることになりかねない。ギリシャの問題、アメリカの金融引き締め、中国の経済減速など、世界のリスク要因は多々潜んでいる。一つ引き金が引かれれば、日銀が抱える資産が不良債権化しかねない。異次元緩和というのは2年程度しか使えない劇薬だから、期限を区切ったのではなかったか。