作り手と読み手をつなぐ“本の文化祭” 「BOOK MARKET 2017」
社会

作り手と読み手をつなぐ“本の文化祭” 「BOOK MARKET 2017」

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2009年にスタートし、今年で9回目を迎えた「BOOK MARKET」。年々、出展社や来場者数が増加し、本と人との新しい出合いをプロデュースしている。当日の会場の様子や参加者へのインタビューから、本が持つ可能性を探る。

台風もお構いなしの本好きが熱狂する2日間

10月28日(土)、29日(日)の2日間、東京都信濃町のアートコンプレックスセンターにて、アノニマ・スタジオ主催による「BOOK MARKET 2017」が開催された。本が好きな人のために、本当に面白い本だけを集めたブックフェアで、会場には総勢32社の個性的な出版社が出展。

当日は台風22号が本州に接近し客足が懸念されたものの、そんな心配はどこ吹く風、午後になると、会場はにぎわいを見せはじめた。

来場者の中には、神奈川から2時間かけて来たという方も。

「以前から来たいと思っていたので、台風でも気にしませんでした。“本が好き”という共通の趣味を持つ人達が集まるので、初参加や初対面でも本の話で盛り上がりますし、『向こうのブースにはこんな本がありました』などの意見交換も楽しめます」

個性的な32の出版社が自慢の本・雑誌を揃えて読者を出迎え

会場では、出版社ごとにブースに分かれて本が並べられ、編集者や営業が自ら本を手売りする。絵本から文芸書、ガイドブック、趣味の本、写真集、詩集まで種類はさまざまだ。新刊やベストセラーもあるが、書店ではあまり見かけない本や雑誌のバックナンバーも目につく。

雑誌『ソトコト』を出版する木楽舎に、初出展を決めた理由を聞いた。

「木楽舎という社名と、どういう本を作っている会社なのかを一人でも多くの方に知ってもらえたらと思って参加しました。『ソトコト』に反応して立ち寄った方が、他の本も手に取って、『こんな本も作っているのか』と知ってくれるのは嬉しいですね」

また、『ノンタン』シリーズや、『はらぺこあおむし』などで知られる偕成社も出展。同社の絵本が好きという親子は、偕成社のホームページから本イベントを知り、遊びに来たという。「子どもがそろそろ絵本を卒業する年齢なので、今日は児童向けの本を探しに来ました」と母親。また、昨年来て楽しかったので今年も来たという常連や、知り合いが出展するというので駆けつけたという出版関係者も多かった。

通常、書店ではジャンルごとに本や雑誌が並べられていて、客は目的のコーナーに足を運び、タイトルや中身で本を探す。それに対して、本イベントでは出版社別に本や雑誌を見ることができる。つまり、出版社ごとの個性や得意分野を知ってもらうには格好の場なのだ。

そのため、あえて売れ筋や定番以外の“知られざるイチ押し本”や“隠れた話題作”を並べる出版社も多い。逆に言えば、読者にとっては“ここでしか出合えない一冊”に出合える可能性がある。

出展社一覧(五十音順)

アタシ社/アノニマ・スタジオ/エクスナレッジ/偕成社/かもめブックス/カンゼン/木楽舎/グラフィック社/京阪神エルマガジン社/作品社/G.B/自然食通信社/而立書房/青幻舎/誠文堂新光社/地球丸/夏葉社/西日本出版社/ニジノ絵本屋/PIE international/HaoChiBooks/ビーナイス/フィルムアート社/鴎来堂×藤原印刷/堀之内出版/本の雑誌社/ミシマ社/港の人/メリーゴーランド京都/雷鳥社/リットーミュージック/リトルモア

作り手と読み手が直接触れ合える“本の文化祭”

本と人との出合いのほかに、もう一つ、人と人との出会いがあるのも本イベントの特徴だ。7回目の参加となる京阪神エルマガジン社の担当者には、読者との忘れられないエピソードがあると話す。

「数年前のBOOK MARKETで20代の若い男性が来て、一人暮らし向けの料理本をじっと見ていたんです。一度去って、また同じ本を見ているので、『その本が気になりますか?』と尋ねると、『大学を卒業して一人暮らしを始めるまでの間、共働きの両親に夕食を作って楽をさせてあげたい』と言って、その本を買って行きました。一冊一冊売れていくのに物語があることを実感しましたね」

このように、作り手と読み手が本を媒介にして直接触れ合うことで、作り手はヒントがもらえたり、モチベーションが上がったりする。読み手は出版社のこだわりや本の成り立ちなどのバックボーンを知った上で買うことができる。

ちなみに、出版社側は単に本を並べて売るだけでなく、本や著者にまつわる雑貨を並べたり、どんな本が当たるかお楽しみの福袋を用意したりと、さまざまな演出をしている。そんなところからも「本を使って、何か楽しいことをしたい」という意気込みが伝わってくる。

また、会場奥の一角にはイベントスペースが設けられていて、刊行記念のトークショーや著者による対談、子ども向けの絵本イベントなどが行われる。言ってみれば、会場丸ごとが本をテーマにした文化祭の雰囲気だ。

「本と人の距離を近くに」主催者が仕掛ける本の可能性

なぜこのようなイベントを思い立ったのか、主催者であるアノニマ・スタジオの安西純氏に話を聞いた。

「東京ビッグサイトで毎年行われている東京国際ブックフェアに出展していたとき、もっと小規模で同じようなことができないかと思ったのがきっかけです。世の中にはメジャーでなくても面白い本や良い本がたくさんあります。それを読者に届けたいと思いました」

2009年の第1回は、社内イベントスペースで数社を集めての小さなものだったが、回を重ねるごとに少しずつ規模が大きくなり、会場も広いところに変わっていった。昨年と今年は32社が集結。年々、参加希望の出版社は増えているが、規模はこれぐらいが丁度良いという。

アノニマ・スタジオのブース

「一定の密度を維持し、本と人との距離を近くすることで、紙の本ならではの“温もり”を感じ易くなります。それが、このイベントの特徴です。今後も『この本は面白い』『新しい本を作っている』と思った出版社を厳選して、読者に提案していきます」

来年も再来年も「BOOK MARKET」は毎年恒例のイベントとして続いていく。次の開催地や開催日時は未定だが、情報は随時アノニマ・スタジオのホームページにアップされる。尖った本やコアな本、こだわりの本、一般書店では入手しづらい本など“特別な一冊”に出合うには、本イベントを訪れるのも近道。その本を見る度にイベントでの記憶がよみがえる――、そんな体験ができるのも「BOOK MARKET」の魅力だろう。

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