3年に1度の参議院通常選挙が2016年7月10日に投開票され、与党が改選議席の過半数を獲得した。選挙結果を受けて安倍政権が早期解散も視野に大型経済対策の検討を本格化させる一方、”共闘”で狙ったほどの効果を出せなかった野党は戦略の見直しを迫られる。選挙結果を受けて改憲論議は今後、どう進むのか。そして間もなく始まる東京都知事選の行方は。今後の政局を大胆に予測する。
改憲勢力で3分の2議席達成も実現には障害
参議院は全議席(242)の半数を3年ごとに入れ替える制度。今回は野党に転落していた自民党が政権与党の民主党に一矢報いた、2010年参院選の当選者が対象だった。
注目されていた勝敗ラインは3つある。1つ目は与党が最低ラインとして設定した「自公で改選議席の過半数」(61議席)。2つ目は自民党幹部が内々で目標としていた「自民で単独過半数」(57議席)。3つ目がおおさか維新の会と日本のこころを大切にする党を含めた改憲に前向きな4党で「非改選を含めた全体の3分の2議席」(162以上)を確保できるかどうかである。
非改選議席は自公で76、おおさか維新と日本のこころを合わせると84議席。つまり、今回の選挙で改憲勢力が78議席を超えるかどうかが最も注目されていた。非改選の無所属・諸派議員のうち4人は改憲に前向きな意向を示しており、74議席超で3分の2を超えるかどうかが最大の焦点だった。
結果は自民56(追加公認を含む)、公明14で、「自公で過半数」は達成、「自民単独で過半数」には1議席及ばなかった。野党では日本のこころが獲得議席ゼロだったものの、おおさか維新が7議席を獲得したため、改憲勢力で全体の3分の2を占めるという目標も達成した。衆議院ではすでに与党が3分の2を超えているため、衆参両院で憲法改正の発議に必要な議席を確保したことになる。
「私の任期はあと2年だが、自民党としての目標だから落ち着いて取り組んでいきたい」
安倍晋三首相は参院選の結果を受け、持論である憲法改正について慎重にコメントした。問題は公明党の存在。今回、改憲勢力で3分の2議席を超えたとはいえ、公明党の25議席を除けば大きく割り込んでしまう。公明党の支持母体である宗教団体では改憲に慎重な声も根強く、今後、自民党の思うように改憲論議を進めていけるかどうかは不透明だ。
2016年 参議院選後の議席数
キャスティングボートが微妙になった公明党
一方、憲法以外の問題では公明党の存在感が低下する可能性がある。選挙前までは自民党が115(議長を含む)、公明党が20議席で、自民党単独では過半数を割っていた。法案の成立には公明党の協力が欠かせないため、少数政党である公明党の意向が政権運営に色濃く反映されていた。
ところが今回の参院選の結果、自民党単独で半数に達したことから、安倍政権は公明党の意向に過剰に反応する必要がなくなった。公明党は実質的に法案の行方を決める”キャスティングボート”の立場が微妙に。
公明党は今後、自らの存在感を発揮するために”改憲”カードをちらつかせ、自民党を揺さぶろうとするだろう。そのときは、おおさか維新など改憲に前向きな野党、そして前原誠司氏、長島昭久氏ら民進党内の改憲勢力が再編に向けて動き出すかもしれない。憲法改正をめぐる与野党のうごめきは、安倍晋三首相の解散戦略にも影響を与える可能性がある。
都知事選の結果次第で政権運営に支障あり
もう一つ、今後の政局の行方を左右しそうなのが7月14日に告示される都知事選だ。”公私混同疑惑”で辞職に追い込まれた舛添要一氏の後任には、自民党の小池百合子衆院議員が立候補の意思を表明したほか、増田寛也元総務相も11日に出馬表明する見通し。実務経験の無さから否定的な声も多いが、俳優の石田純一氏も「野党統一候補なら出馬したい」との意向を示している。
自民党は増田氏を推薦する方針で、17年ぶりの分裂選挙となる。増田氏が当選すれば、安倍政権にとっては大きな安心材料だ。4年後に東京五輪というビッグイベントを控えるなか、国政と都政が緊密に連携できるかどうかは五輪を成功させるうえで大きなポイント。その点では元建設官僚で、自民党政権で総務相も務め、”スタンドプレー”の少ない増田氏なら安心して都政を任せることができる。
逆に自民党の説得を振り切り、無所属で立候補した小池氏が当選すれば、安倍政権にとっては頭痛のタネが増える。安倍政権の意向を唯々諾々とは聞かず、都の独自色を出すことが予想されるからだ。小池氏の仕事ぶりが都民に支持されるかどうかにかかわらず、安倍政権の政権運営には負の影響をもたらしそうだ。
衆院解散の幻影に張り詰める永田町
参院選を終え、永田町には地元で選挙対応に忙殺されていた国会議員たちがポツポツと戻り始めた。参議院議員にとっては秋の臨時国会までつかの間の”夏休み”となるが、衆議院議員に安穏としている余裕はない。ダブル選挙は見送られたとはいえ、安倍首相がいつ解散・総選挙に打って出るかわからないからだ。
秋までに大型経済対策を策定し、世論を引き付けて早期解散に打って出る――。改憲の実現に向け、政界再編にらみで解散に打って出る――。さまざまな憶測が飛び交うなか、永田町では眠れない熱帯夜が続く。
民意は改憲に向けての議論を解禁した
衆参両院で3分の2以上の数が獲得できるということは、不可能に近い数字だと思われていた。一院(特に衆議院)で3分の2が取れたとしても、3年に1度、半数だけ改選される参議院はバランス感覚が働き、民意がブレーキを掛けるからだ。
しかし、改憲に対するアレルギーも随分となくなってきたのだろう。民意は改憲に向けての議論を解禁した。これは大きな一歩だし、安倍自民党にとっては千載一遇のチャンスだ。
それにしても、野党はだらしない。これほど、支持をされていないということだ。株価は下がり、与党が推す都知事は失政して、野党の追い風には事欠かないのに、この体たらく。一刻も早く党首の顔を変えなければ、挽回は不可能。自らの責任を論ずるのではなく、これだけ負けても総理の批判をしている、野党第一党の党首ではどうしようもない。
個人的には、自民党があと1議席獲得して、もっと公明党の影響力を削いでほしかったし、なんなら早く連立を解消してもらいたいと切に願っている。