サプリメントの機能性表示はメーカーの悲願だと言っても過言ではないだろう。厳しい薬事法があって、消費者にその商品力を訴えるすべがないからだ。しかし、それぞれの思惑もあり、一気に前には進まない。政治も巻き込んで消費者不在にならないとも限らない。
巨大産業に育ったサプリ業界の悩み
サプリメント市場をめぐって、関係者の動きが騒がしくなっている。サプリメントといえば、その市場規模は2兆円とも言われる巨大産業だ。モバイルコンテンツ産業、ブライダル産業と概ね同程度の規模だと考えれば、その巨大さはイメージしやすいだろう。その、サプリメント市場で起こっていること、それは、「機能性表示」を巡る攻防である。
現在、サプリメントは「○○に効きます」など、具体的な効果を謳うことが許されていない。これは、薬事法による規制があるためだ。これに対して、特定保健用食品、いわゆるトクホは一定程度、効果の表示を許されている。これは、研究成果に基づき効果が期待されるものであること、疾患の改善に効果を有することまでは謳わないことなどを条件に、消費者庁が効果の表示を許可する制度が存在しているためだ。近い将来、サプリメントにも一定の機能を謳える制度が導入される可能性がある。
本当に効果があるかどうか疑問のものも
平成25年6月、政府は規制改革会議(議長:住友商事 岡相談役)の検討を受け、サプリメントの機能性表示を可能とすべく、具体策を検討することを閣議決定した。これは、業界関係者の悲願であり、度重なるロビイングの成果でもあった。関係者は語る。
「アメリカには健康食品の機能性表示に関する制度が既に存在している。このままでは、日本の健康食品産業はグローバルマーケットで負けてしまう」
しかし、サプリメントの効果には、疑問の声もある。科学的根拠の薄い商品が、あたかも健康に良いとの印象を与え、消費者に誤解を招いている、との指摘があるのも事実だ。ある専門家は言う。
「典型的な例がヒアルロン酸だ。経口摂取しても、消化器官等で分解されてしまい、患部に届く頃には既に効果はほとんど無くなってしまっていると考えられる。コラーゲンを摂取すればお肌がプルプルに、という巷の噂もかなりの眉唾ものだ」
それぞれの思惑がぶつかり合う構図
これに対して、機能性表示に前向きな関係者は語る。
「ある程度の効果が期待できるサプリメントもある。むしろ、禁忌情報や飲み合わせに関する注意事項を消費者にきちんと提供できていない現状がおかしい。正しい情報を消費者に伝えられる制度が求められている」
機能性表示検討の閣議決定を受けて、いち早く動き始めたのは抗加齢学会だ。規制改革の主導権を握るべく、サプリメントの機能性表示に関するガイドラインの検討を始めている。
この学会の常務理事には上述の規制改革会議の委員であり、大阪大学医学部の森下竜一教授が就いている。森下氏は、遺伝子治療を手がけるバイオベンチャー「アンジェスMG」の創業者として知られるが、関係者の間では医療系のロビイストとしても有名。また、スキャンダルの噂の絶えない彼がサプリメントの規制改革に精力的に動いていることに対しては、「裏に何かあるのではないか」といぶかる動きもある。
この、抗加齢学会の動きに対して、サプリメント業界は警戒を隠さない。関係者は、「ロビイストとして政治に影響力を持つ森下氏が暴れ回るのは諸刃の剣。業界や行政との関係でうまく着地するといいのだが。」と語る。
一方で、業界団体も静かではない。先の閣議決定を受け、公益財団法人の日本健康・栄養食品協会では、サプリメントの機能性表示に第三者認証制度を導入すべきとの独自の主張を始め、関係者を困惑させている。
これらの動きに対して、制度設計に向けた検討を行っている消費者庁は、「認証機関がチェックするための明確な基準を示すことは極めて困難であり、第三者認証制度はあり得ない」とバッサリ。現在、消費者庁では、企業の自己責任で機能性表示を行うアメリカ型の制度を軸に検討を進めている。
消費者にとって、商品に関する適切な情報を与えられることの重要性は議論の余地がない。しかし、科学的根拠に基づくことのない、いい加減な情報が氾濫することになればかえって混乱を招くだけである。現在の医学的知見に基づけば何をどこまで正しいと言えるのか、冷静な議論に基づく制度設計が求められている。