“世界一集中できる”といわれるワークスペースが東京・飯田橋にある。アイウエアブランドのジンズがプロデュースした「Think Lab(シンク・ラボ)」だ。構想段階では自社の社員が使うためにつくられたオフィスだったが、会員登録すれば社外の人でも利用できる。最先端の科学知識をフル活用した、集中力を最大化するための工夫とは?
集中することに特化したワークスペース
「Think Lab(シンク・ラボ)」 は、アイウエアブランド「JINS」で知られる株式会社ジンズが、“世界で一番集中できる場”をコンセプトに作り上げたワークスペース。集中力を測定できるメガネ「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」 を開発したジンズが、集中力アップを目的に取り組んだ試みだ。
ここには、集中力をアップさせ、それを持続させるための工夫がふんだんに盛り込まれている。
黒を基調としたエントランスを入ると、その先には照明を抑えた、ほの暗い廊下が続く。利用者はこの空間を通り抜けることで適度な緊張状態に入る。そして、ワークスペースの入口のドアが開いた瞬間、目の前に神社仏閣をイメージして設計された、緑あふれる開放的な空間が広がる。
緊張状態を解き放ち、一転してリラックスした気分に染めるのが狙いだと、Think Labのプロデュースを手がけた井上一鷹さん(ジンズ)は話す。
「集中するには、適度な緊張とリラックスのバランスが大切です。交感神経と副交感神経が、同時に高いレベルにないと集中は持続できません。緊張とリラックスの最適なバランスを求めて、行きついたのが神社仏閣でした。凛とした緊張感がありながらも、静謐なリラックスできる空間は、正に集中力を最大化するのに打ってつけの空間といえます」
視界に占める緑の力
緊張とリラックスの最適なバランスを実現するため、Think Labが導入に踏み切ったのが、パソナ・パナソニック ビジネスサービス株式会社が提供するオフィス緑化サービス「COMORE BIZ(コモレビズ)」 だ。
「コモレビズ」は、視界に占める緑の割合『緑視率』とストレスの関係性を証明した研究結果に基づき、理想的な植物の配置を算出。ストレス軽減につながる植物を選定し、最適な緑視率を確保するためにオフィスをデザインするサービス。
◇緑視率(りょくしりつ)
2013年8月に日本建築学会で、豊橋技術科学大学の松本名誉教授が、緑視率が増えることで心理的リラックス効果が高まるという研究結果を発表。建築学会による定義では、人の視界に占める緑の割合で、緑の多さを表す指標とされている。
「視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の順で、人が得る情報量は多いとされています。特に、現代人にとって目から入る情報は重要度が高く、全体の87%の情報が視覚から得られると言われています。つまり、集中を最大化するためには、視覚情報のコントロールが不可欠。PCで作業しているとき、ディスプレイの周囲に何が写るかで、集中の度合いも変わってきます。科学データに基づいた“緑視率の最適解”を持っていて、確実に集中を高めてくれるのが『コモレビズ』でした」(井上さん)
コモレビズによると、最適な緑視率は10%~15%。Think Labに入ると、体感的には森林の中に足を踏み入れるたような感覚を覚える。コモレビズが演出する植物の葉がふんだんに取り入れられた空間は、利用者に「別な空間に来た」と思わせ、やる気のスイッチを入れる効果があるだけでなく、周囲との接点を適度にさえぎってくれる。
一般的なパーテーションだと、確かにコミュニケーションは遮ってくれるが、周囲が見えなくて逆に息苦しさも覚える。その点、植物の葉なら視界を完全にシャットアウトすることもなく、植物越しに人が見えても気になりにくい。Think Labが目指す「“ゆとり”と“ゆらぎ”と“ゆるし”がある空間」を実現するには、コモレビズによる植物の導入は自然な流れだったといえる。
»環境次第で生産性は向上する? オフィス緑化サービス「コモレビズ」の挑戦
「人間は何かに集中しようとしてから、実際に集中するまでに23分かかると言われています。しかし、現代人は11分に1回、誰かに話しかけられるか、チェックしなければいけないメールやチャットが届きます。つまり、多くの人が1度も深い集中状態に入らないまま一日を終えているのです。
中でも、知り合いが多い職場は、特に集中しにくい場所。みんな『ちょっといいですか?』という魔法の言葉を使ってきます。データによると、そう声をかけられた瞬間、集中力の値は一気に下がります」(井上さん)
さらに、音や香りも集中力を高めるように設計されている。音は、鹿児島・屋久島や東北の白神山地など、日本各地でレコーディングした森、川、波の自然音をハイレゾ・クオリティで流し、豊かな自然を再現。また、和歌山・高野山の高野槇(コウヤマキ)の香りを漂わせ、森林感を高めている。井上さんによると、JINS MEMEで測定した結果、深い集中に入った割合、度合は、2倍近くの数値を示したという。
集中力を最大化するオフィス家具
高い集中力を持続的に発揮するためには、数十種類の要素があるとされているが、Think Labでは、それらの要素をクリアするため、緑や自然音を活用した空間演出のほかにも、さまざまな取り組みがなされている。そのひとつがいすへのこだわりだ。
人は、作業に集中したり、ロジカルに物事を考える際、目線が水平より下にあるのがベストで、アイデアを生み出したり、直観的なヒラメキが欲しい際には、反対に視線は斜め上にあることが望ましい。Think Labでは、視線の角度が異なるいすを複数タイプ用意しており、利用者は自分が行う作業に合わせて選ぶことができる。
「日本の会社のオフィスは、その大半がコミュニケーションの活性化を念頭に設計されていて、一人で何かに没頭するには不向きです。だから、作業に集中したいときは、カフェのワークスペースを活用する方が多いと思います。しかし、いすや机が最適化されていないため腰を悪くします。
Think Labのいすは、日本人の骨格や筋肉の構造を把握した上で、日本人が作業を行う状況にフィットした設計がなされ、肩こり・腰痛にならないようしっかりとした姿勢をサポートしてくれます」(井上さん)
Think Labではほかにも、体内時計(サーカディアンリズム)を整えるために、自然光に近いバランスで照明を調整する“光マネジメント”や、集中しやすい脳の状態を作り出すために最適な間食アイテムを常備した“血糖値マネジメント”など、集中力を最大化するための工夫がされている。
オフィスは戦うための道具!プロのオフィスワーカーとしてすべきこと
プロのアスリートはパフォーマンスを最大化するため、最高の道具を揃え、最適な食事を摂り、毎日の睡眠にも気を配る。トップアスリートほどその管理は徹底しているだろう。では、会社勤めのビジネスパーソンはどうか。デスク周りに最高の道具を揃え、午後の仕事に全力で向かえるよう昼食に気を配っているだろうか? 「働き方改革」が叫ばれる昨今、プロのオフィスワーカーならば、最も多くの時間を過ごすオフィス環境にもっと敏感になるべきではないか。
日本の企業は、ファシリティマネジメントや総務に関して、まだまだ守りの姿勢が見受けられる。それは、オフィスの環境整備に関して定量化がされておらず、因果関係も判然としなかったためだ。しかし近年、JINS MEMEにみられるように仕事の“見える化”が進み、オフィスワークにおいて最大のパフォーマンスを発揮するための環境整備に着目する企業が増えている。
「現代の日本人の仕事は、コミュニケーションに寄っている」と井上さんは指摘する。8時間の勤務時間のうち、約8割が会議や打ち合わせ、メール・チャットなどのコミュニケーションにあてられているのだ。人が一日に集中できるのは4時間が限度といわれているが、今の働き方では深い集中などできるはずもない。そして、それこそが生産性に歯止めをかけているともいえる。
「日本のビジネスパーソンは、正しい武器を与えられていません。オフィスは戦うための道具です。イノベーティブであるためには、コミュニケーション(連携・伝達)とコンセントレーション(集中)の両立が不可欠との研究結果もあります」(井上さん)
従業員を思う企業の中には、ワークスペースとは別に、コミュニケーションを生むための「カフェスペース」なり「リラックススペース」なりを作る企業は多い。しかし、実は逆なのではないだろうか。オフィスがコミュニケーション過多に陥っているなら、Think Labのように“集中スペース”を作る新たな取り組みこそが、生産性向上へのカギなのかもしれない。
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2024.1.31 19:03