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障がい者スポーツの振興へ トップアスリートたちが次世代に託すもの

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2016年11月、スポーツを通じて親子のコミュニケーションを活性化させるイベント「父子チャレンジアカデミー」と、障がい者スポーツの普及活動を支援する三菱商事のプロジェクト「DREAM AS ONE.」のコラボイベントが開催された。イベントには、大会アンバサダーで元陸上選手の為末大氏をはじめ、世界大会で活躍するトップアスリートが参加。子どもたちは、トップアスリートからの指導を受けるとともに、障がい者スポーツについての理解を深めた。

DREAM AS ONE.とは

三菱商事が2014年にスタートさせた、障がい者スポーツ支援プロジェクト。競技大会やイベントを通じてスポーツを楽しむ機会を提供し、障がい者スポーツの裾野を広げるほか、一般参加者への障がい者スポーツに対する理解を深めることを目的としている。

DREAM AS ONE.公式ホームページへ

DREAM AS ONE.×父子チャレンジアカデミー SPECIAL FES.【November 2016】

DREAM AS ONE.は、為末氏がアンバサダーを務める父子チャレンジアカデミーに協賛。親子でスポーツを楽しむなかで、障がい者スポーツに触れ、体験する機会を提供した。

イベントリレーのアンカーを務めるトップアスリートにバトンを渡す子どもたち。風を切るアスリートたちの走りに会場は多いに沸いた。

夢の島陸上競技場で行われたイベントには、500人を超える子どもたちと、その父親・母親ら約1000人が参加。「トラック種目」「走り高跳び」「走り幅跳び」「ウィルチェアーラグビー(車いすラグビー)」など、各競技のトップアスリートたちのデモンストレーションを見学し、それぞれの種目の体験指導を受けた。また、「義足体験ブース」では、歩きにくさに戸惑いながらも、義足アスリートとともにその感触を体験。

イベント

イベント陸上十種競技の右代啓祐選手による走り幅跳びのデモンストレーション。迫力あるジャンプに子どもも大人も喝采。

イベント「競技用の義足は扱いが難しい」そう鈴木徹選手が説明するなか、付け外しの瞬間に子どもたちは目を凝らす。

参加アスリート

伊藤友広:アテネ五輪男子陸上1600mリレー4位入賞
高橋 慧:リオ五輪男子陸上200m走出場
佐藤圭太:リオパラリンピック男子陸上400mリレー銅メダリスト
鈴木 徹:パラリンピック5大会連続出場 陸上男子走り高跳び4位入賞
右代啓祐:リオ五輪日本選手団旗手 陸上十種競技日本記録保持者
池崎大輔:ウィルチェアーラグビー日本代表 リオパラリンピック銅メダリスト
今井友明:ウィルチェアーラグビー日本代表 リオパラリンピック銅メダリスト

イベント

 

Interview with Top Athlete[1]

為末 大「障がい者スポーツ振興のためには”ヒーロー”が必要」

為末大プロフィール父子チャレンジアカデミー アンバサダー 為末 大(ためすえ だい)
陸上スプリントトラック種目における世界大会での日本人初メダル獲得者であり、男子400メートルハードルの日本記録保持者(2016年10月現在)でもある。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。

陸上スプリントトラック種目における世界大会での日本人として初メダル獲得者であり、男子400メートルハードルの日本記録保持者(2016年10月現在)でもある為末大氏は、障がい者スポーツの認知度を上げるためには、”ヒーロー”の存在が不可欠だと語る。

「障がい者スポーツを今よりも一層発展させるためには、もっともっとヒーローが必要です。障がい者スポーツの選手と話をすると、『自分と同じ障がいを持った人が、スポーツの分野で活躍しているのを見て、自分も頑張りたいと思って前向きになれた』という選手が多いんです。

だから、世界を舞台に活躍するトップアスリートたちが、今回のようなイベントやメディアでの活躍を通じて、同じ障がいを持つ人たちの憧れの存在、つまりヒーローになることで、将来のトップアスリートを生み出すきっかけになるかもしれません。また、こうしたイベントは、障がい者スポーツ自体の魅力を拡散できることも意義深い。そして何よりも、障がいのあるなしにかかわらず、悩んでいる誰かを、元気を失っている誰かを励ますことにもつながります」

今は引退して陸上競技、そしてスポーツ全般を楽しんでもらうためにイベントを企画したり、講演会に出演したりと積極的に活動する為末氏。今回のコラボイベントの開催について次のように語った。

「父子チャレンジアカデミーは、7年前から全国各地を回って、トップアスリートの方々と一緒に親子でスポーツを楽しんでもらってきました。そして今回、東京での開催が決まり、これまでにない新機軸を加えようという話が持ち上がり、以前から興味を持っていた”スポーツにおける垣根を取り払う”をコンセプトに加え、同じような主旨で障がい者スポーツ支援を続けているDREAM AS ONE.と一緒にイベントを作り上げることにしました」

為末大イベント

障がい者スポーツが発展するためには、ヒーローの存在だけでなく障がいを持つ人がスポーツに参加する楽しさを知り、そしてスポーツをできる環境を作ることも重要だと為末氏は考えている。

「障がい者スポーツの世界大会において、観客の大半は障がいのない人たち。障がい者スポーツを発展させるには、障がいを持っている人たちがもっと興味を持って参加したほうがいいと思っています。

現役時代、ヨーロッパのハーグという町に滞在し練習していたときに、朝は子どもが、昼からは高齢者が、夜は大人たちが競技場でスポーツを楽しんでいました。中には松葉杖でサッカーを楽しんでいる人も。年齢、性別、国籍の違いや、障がいのあるなしを乗り越えて、みんながゴチャ混ぜになってスポーツを楽しんでいるんです。そんな世の中を作り上げたいという気持ちを持って活動しているので、今後も障がい者スポーツを広めるため、積極的にかかわっていきたいです」

Interview with Top Athlete[2]
鈴木 徹「選手とじかに触れ合うなかで認識は変わっていく」

鈴木 徹プロフィールリオパラリンピック 走り高跳び日本代表 鈴木 徹(すずき とおる)
高校時代、交通事故により右足を切断。リハビリがきっかけで走り高跳びを始める。それからわずか1年余りで、シドニーパラリンピックに日本人初の走り高跳び選手として出場。以降、アテネ、北京、ロンドン、リオパラリンピックに出場し、5大会連続入賞。自己最高記録の2メートル02センチは、日本ならびにアジア記録。

シドニーで開かれた世界大会に日本人初の走り高跳び選手として出場して以来、シドニー、アテネ、北京、ロンドン、リオの世界大会に出場し、5大会連続入賞を果たした鈴木徹選手。多くの世界大会を経験した人間として、障がい者スポーツを取り巻く環境の変化を感じることがあるという。

「シドニー、アテネの頃は、観客数も今に比べれば驚くほど少なかったです。観客席もガラガラで、これが世界大会なの?と疑いたくなるレベルでした。そんななか、変化があったのは2008年の北京大会。チケットも完売し、競技大会として日本でも存在感を示せるようになりました。日本の近くでの開催ということもあり、日本メディアの注目度もそれまでとは違いましたね」

リオでの世界大会が日本でもテレビ放映されるなど、障がい者スポーツの認知度は確実に広まっている。しかし、まだまだ障がい者スポーツ振興のためにやらなければいけないことはたくさんあると鈴木選手。

「世間一般への障がい者スポーツの認知に関して、”壁がある”というよりも”距離が遠い”というイメージを持っています。距離を縮めるという意味でも、今回のような障がいのあるなしにこだわらないで、アスリートたちが集まって子どもたちと触れ合う機会は大切だと思います」

今回のイベントでもたくさんの人との交流を通じて、彼らの意識が変化する様をひしひしと感じたという。

「イベントに参加してくれた人たちは、大人も子どももいつしか僕が義足かどうかを問題にしなくなっていました。シンプルに走り高跳びの選手として見てくれているのを感じましたね。そうやって、じかに触れ合っているなかで、認識は変わっていくのだと思います。最初は、『義足のこんな選手がいたよ』といった程度の認識でOKなんです。まずは、知ってもらうことがすべて。そして、それがきっかけとなって、障がい者スポーツとの距離感が縮まっていけばうれしいです」

イベント

選手として好成績を残すように努力する一方、鈴木選手はテレビに出たり、ファッションショーに出演したりと、幅広い場面で障がい者スポーツを知ってもらうために行動している。

「取材があっても、昔は事故を乗り越えて、立ち上がったストーリーばかりでした。けれども、最近は義足の性能や、家族との話にスポットを当てた取材など、いろんな切り口で取り上げていただけるようになりました。特にテレビのバラエティ番組に出演させていただいたのが大きいと感じています。出演者たちは、遠慮なく突っ込んで話を聞いてくれるんです。

僕は義足であることを隠していませんから、遠慮しないで何でも聞いてほしい。人にもよりますが、僕はそのほうが気も楽です」

スポーツをきっかけに障がいを持つ人とコミュニケーションが生まれれば、障がいに関する正しい知識も広まっていく。

「僕は義足で活動していますが、学校などに呼ばれて訪問すると、2階に上がれますか?とか、車を用意しましょうか?とか、皆さんあれこれと気遣いをしてくださいます。そんな姿を見ていると、ありがたい気持ちと同時に、障がいに関する正しい情報はまだまだ少ないのだと痛感します。

今回のようなイベントやメディアを通じて、僕たち障がい者スポーツに関係する人間との間にコミュニケーションが生まれ、それがきっかけで障がいに関する正しい知識を広めていければなと思っています」

イベント