アメリカと中国の対立が深まっている。貿易戦争もさることながら、西太平洋への進出を目論む中国と、これを阻止したいアメリカとの軍事的軋轢も表面化、“新冷戦”と表現する向きも。第2次世界大戦以降、アメリカの国防費はぶっちぎりでどの国より多いが、ここ数年は中国の国防費が増えている。果たして両国の軍事力の差は。
国防費:第2位の中国もアメリカの半分以下
アメリカの国防費は世界1位。2018会計年度(10月~翌年9月)は6390億ドル(約70.3兆円)で日本の防衛費の10倍以上。
一方、世界2位の中国は2018年の公表値で1兆1100億元(約1750億ドル)。だが実態はこの1.5倍(2~3倍との説も)の約2600億ドル(約28.6兆円)と見られ、アメリカの半分弱に達する。近年、国防費を急増させる中国だが、高度経済成長に沸く反面、インフレ率や人件費も高騰、増額分の大半が相殺されている。
核戦力:「対露」念頭のアメリカは圧倒的
アメリカは核戦力も圧倒的で、
- ICBM(大陸間弾道ミサイル):ミニットマンⅢ(射程1万3000km)400基
- SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル):トライデントⅡ(同1万1000km)。オハイオ級SSBN(弾道ミサイル原子力潜水艦)14隻に各24基=計336基
- 核搭載(トマホーク巡航ミサイル)爆撃機:B-2ステルス機20機、B-52H70機
を持つ。
対して中国は、
- ICBM:70基。東風5A/B。B型は射程1万3000km)など
- SLBM:巨浪2(JL-2。同8000km)。晋型SSBN4隻に各12基=48基実戦配備
- IRBM(中距離弾道ミサイル)16基以上
- MRBM(準中距離弾道ミサイル)80基以上
- 巡航ミサイル:54基以上(一部は爆撃機搭載型)
を装備。
注目は巨浪2で、これを積む晋型SSBNを南シナ海に忍ばせてアメリカに対抗する狙いらしいが、南シナ海~米西海岸は1万1500km以上あり現状では届かないので射程延長に躍起だ。
総兵力:目下中国は大陸軍をリストラ中
アメリカの正規軍は約138万4000人で、その要目は、
- 陸軍約47万6000人
- 海軍約32万4000人
- 空軍約32万3000人
- 海兵隊約18万4000人
- 沿岸警備隊約4万1000人(軍隊扱い)
となる。また他に85万8000人の予備兵力が控え州兵がその主力。
一方、中国は約203万5000人でアメリカの約2倍、世界最大の大所帯。
- 陸軍約97万5000人
- 海軍約24万人(陸戦隊1万5000人含む)
- 空軍約39万5000人
- 戦略ミサイル軍約10万人
- 戦略支援部隊17万5000人
- その他約15万人
からなり、他に予備兵力51万人以上、人民武装警察66万人、民兵約800万人が控える。まさに“人海戦術”だ。これまで正規兵力230万人を維持して来たが、習近平体制は軍の近代化・効率化のため「30万人削減」を2020年頃までに達成する計画だ。
陸軍:中国の戦車の大半は“骨董品”
戦力の中核をなす戦車(MBT)は、アメリカ2380台(他に保管中3500台)に対し、中国は6740台。数的には後者が約2倍だが、アメリカの戦車は“世界最強”かつ実戦経験豊富なM1A1/A2エイブラムスで統一。
一方、中国の戦車戦力の半数は、半世紀以上前にソ連が開発したT-55を基にした国産の59式系列。M1A1/A2と何とか張り合える第3世代の98式、99式は900台ほどにとどまる。
海軍:他の追随を許さない米の空母艦隊
潜水艦
アメリカはすべて原子力推進で計68隻、原潜保有数は世界最大だ。SSBNのオハイオ級14隻に加え、攻撃型原潜SSGN/SSN(「G」は巡航ミサイル装備型)を54隻保有。
一方、中国は62隻だが原潜は13隻のみ(SSBNの晋型4隻、SSN9隻)。目下、晋型の後継SSBN(SLBM24基搭載)と商型の後継艦(静粛性が向上)を開発中で、近く就役の模様。また、通常動力型潜水艦は49隻だが、大半は静粛性に難があり、現代戦で通用するのはロシア製のキロ級12隻と宋型12隻だけとも。
空母
アメリカの空母戦力は世界最強で、すべて原子力推進。最新鋭のジェラルド・R・フォード級1隻とニミッツ級10隻の計11隻(いずれも満載排水量10万トン前後、戦闘攻撃機など70機以上搭載)。空母1隻だけで中小国の空軍に匹敵するほどの攻撃力を持つ。
同国はこの巨大空母を中核に巡洋艦や駆逐艦、潜水艦を数隻ずつ従え“空母打撃群”を編成、これを常時3~4個世界の海に展開する。まさに超大国アメリカの“力”の真骨頂だ。
一方、中国は現在、「遼寧」(りょうねい)1隻(同約6万7500トン、艦載機数約40機)のみだが、本格的空母を国内建造中で2020年の就役を目指す。加えて3隻の空母建造にも意欲的で、うち2隻は原子力推進とする模様。
その他主力水上戦闘艦(概ね同1000トン以上の巡洋艦、駆逐艦、フリゲイト)
アメリカは96隻で大半がイージス艦かつ同9000トン以上の大型艦。
対して中国は82隻で“中国版イージス艦”と呼ばれる旅洋Ⅲ型(昆明型。同7000トン)6隻が主軸。また小ぶりのフリゲイトを約60隻保有するのも特徴で、ステルス性重視の江凱(シャンガイ)Ⅱ型(同4050トン。艦隊防空ミサイル装備)27隻が主力。
大型揚陸艦
アメリカの外征能力(パワープロジェクション=戦力投射力)の要で、中型空母並みの強襲揚陸艦「アメリカ」1隻を筆頭に、巨大揚陸艦(同1万トン以上)を計31隻抱える。
これに対し中国の場合、同1万トン超の揚陸艦は玉昭型4隻のみ。
海軍航空隊
アメリカは艦上型戦闘攻撃機を740機保有。現代戦で通用する「第4世代」「第4.5世代」のF/A-18シリーズが大半で、さらに「第5世代」のステルス機F-35Cの配備も進む(現在50機)。また、地上発着型の哨戒機(潜水艦発見が主任務)が充実しているのも特徴で、P-3Cを65機、最新鋭のP-8Aを55機を有する。
一方、中国海軍は艦上型戦闘爆撃機20機(J-15。第4.5世代でロシア製Su-33の改良型)を筆頭に、地上発着型も加え280機の戦闘攻撃機を保有。また、巡航ミサイル搭載のH-6G、27機も注目で、近年“米空母キラー”とも目される。哨戒機は国産のSH-5が3機、Y-8Qが4機の計7機にとどまり、質量ともに対潜能力が貧弱であることがうかがえる。
海兵隊:陸上自衛隊を上回る米海兵隊
アメリカは18万4000人を誇り、これまた世界最強。自前で戦闘攻撃機を持つのが特徴だ。M1A1戦車450台、戦闘攻撃機455機、F-35Bステルス垂直離着陸機50機、F/A-18を250機、AV-8Bハリアー垂直離着陸機114機などを装備。
一方、中国では「陸戦隊」と呼ばれ兵力はⅠ万5000人と小粒でMBTは持たない。ただし陸軍は水陸両用師団3個(3万人以上)を擁しMBTも装備。
空軍:新鋭機への更新がままならない中国
アメリカは戦闘攻撃機を1310機(他に予備が470機)持ち、第5世代のステルス機、F-22Aを20機、F-35Aを122機を筆頭に、第4、第4.5世代のF-15、F-16などで固める。爆撃機は139機で超音速のB-1Bを61機、ステルス機のB-2Aを20機、B-52Hを58機。“空飛ぶレーダー”早期警戒機(AEW)戦力の充実ぶりも特筆でE-3を18機有する。
中国は戦闘攻撃機を1725機配備。数的にはアメリカを上回るが、ソ連が1950年代に開発したミグ21を基にした国産のJ-7、J-8が大半で、第4世代以降に当たるJ-10、J-11、Su-27(ロシアから購入)などは700機ほど。
ただし、第5世代と目されるステルス機J-20A(テスト用として6機)が近く実戦配備される模様。またAEWはKJ-2000の4機を始め国産機を計10機配備するが、質量ともにアメリカにはかなわない。
単純な比較では誰もアメリカにかなわないが…
改めて米中両国の軍事力を俯瞰してみたが、現状ではアメリカが圧倒的であることがわかるだろう。ただし、中国も対抗するかのごとく、大規模なリストラを展開して現代戦への適用に挑んでいる。また、最新兵器の導入にも意欲的なことから、10年後の「米中軍事力比較」の姿はガラリと変わる可能性は十分にあり得る。