河野太郎外相が12月11日の記者会見で、日ロ関係に関する質問への“無視”を繰り返したことが波紋を広げている。外相は18日に謝罪したものの、「今後もお答え差し控える」と発言。外交と対外発信のあり方が今、問われている。
12月11日、河野外務大臣会見記録
まずは問題となった記者会見でのやりとりを振り返ってみる。
【時事通信】日露関係について伺います。先日、ラヴロフ外務大臣が日露平和条約の締結について、第二次世界大戦の結果を認めることを意味すると、日本が認めることが最初の一歩になるというような発言をされていますけれども、この発言に対する大臣の受け止めをお願いします。
【河野外務大臣】次の質問どうぞ。
【読売新聞】今のに関連して伺います。大臣、国会答弁等でも日露関係については交渉に資することはないので、発言は一切控えるというふうにおっしゃってますけれども、今のように、ロシア側ではラヴロフ外相、ペスコフ報道官等々、いろいろな原則的立場の表明があります。これに対して反論を公の場でするおつもりもないということでよろしいんでしょうか。
【河野外務大臣】次の質問どうぞ。
【共同通信】引き続き、関連の質問なんですけれども、大臣は良い環境を整備したいということで、発言をこれまで抑制的あるいは抑えてこられたと思うんですけれども、一方でロシア側からは、どんどんこれまでとおりの発言が出てきます。こういった端から見たらアンバランスな状況が、実際の協議にも影響を与えるという懸念もあると思うんですが、その点に関してはどうお考えでしょうか。
【河野外務大臣】次の質問どうぞ。
【共同通信】大臣、何で質問に「次の質問どうぞ」と言うんですか。
【河野外務大臣】次の質問どうぞ。
(外務省HPより抜粋)
国民の理解を深めるために言えることはあるはず
日ロ間では北方領土問題と日ロ平和条約の締結問題がにわかに動き始めている。11月にシンガポールで行った首脳会談では、「今後3年以内の平和条約締結」に向け、交渉を加速させることで合意した。
安倍晋三首相は「1956年の日ソ共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させることで合意した」と説明。平和条約を締結すれば北方四島のうち、歯舞群島と色丹島が先行で返還されるとの見通しを示した。
外相記者会見では、平和条約に関するラブロフ外相の発言への受け止めを聞かれたものの、河野外相は質問に一切答えず「次の質問どうぞ」と発言。その後も3度にわたって「次の質問どうぞ」を繰り返した。
外交は国と国との“交渉”であり、今回のように交渉の渦中にある案件に関しては記者会見や国会審議で回答しないことも珍しくはない。言えないことがあるのは当然だ。しかし、その場合も「こういう理由で詳細は明らかにできない」と答えればいいだけで、今回のように“無視”する必要はない。
外相の態度は、交渉が日本側の思うように進でいないからなのか、いら立ちを記者にぶつけているように見える。外相は18日の記者会見で「『お答えは差し控えます』と言うべきだったのだろうと反省をしている」と語ったが、その通りである。
ただ、仮に答えを差し控える場合でも、言えることはあるはずだ。そもそも、なぜ、多忙な大臣が週に2回も記者会見を開いているのか。それは大臣自身が語ったように「日本の外交政策について,国民の皆様の理解を深めていただくため」である。
であればこそ、直接交渉の中身について話さなくても、国民の理解を得るために話すべきことがたくさんあるはずだ。なぜ、平和条約が必要なのか。なぜ、二島先行返還なのか。仮に二島が先行返還されたら国後、択捉両島は二度と日本に帰ってこないのではないか。国民には理解できていないことがたくさんある。
国民目線や親しみやすさを売りにしてきた河野氏だからこそ、タフな外交交渉中であっても、国民のためになるような答弁を期待したい。