東京・港区に建設予定の「(仮称)港区子ども家庭総合支援センター」について、12月14日・15日、区内在住・在勤・在学の人たちに向けた説明会が行われた。前回、10月に行われた住民説明会では、反対派が怒鳴ったり大勢で拍手したりするなどの動向が目立ったが、結局紛糾することになるのだが、今回は割と冷静に話をする参加者が多かったように思う。一方で、限られた時間内で多くの人に説明しようとする港区の姿勢に、行政の考え方が見えた気がした。
地元民の理解を得るための説明会
12日14日(金)の夜、東京・港区赤坂にある赤坂区民センターで行われた説明会には、キャパ400人のホールが半分埋まるほどの人が集まった。これまでに行われた説明会は、昨年12月の近隣住民向け、今年10月の区民向け、そして今回の区内在住・在勤・在学向けと実質3回。開催数は決して多いとは言えず、金曜の夜にもかかわらず多くの人が参加した。
前回の紛糾した説明会の様子をメディアが取り上げたことで、港区以外にも世間の興味を集め、その直後から港区役所の子ども家庭課児童相談所設備準備担当にはメディアからの取材申し込みが殺到。一部のマスコミを除いて間もなくシャットアウトされ、それ以来、初めての説明会ということでメディアの注目度は高く、港区も力を入れていた。
施設の設置目的や概要等の説明は、見やすいパワポ資料が用意され、それに沿って担当の職員が代わる代わる説明。増加する児童虐待の問題点や、社会養護における児童相談所や子ども家庭支援センターの役割や必要性を過不足なく伝える内容だ。
また、識者として子どもの虹情報研修センター研究部長の川松亮氏を招き、「地域子育て支援と児童相談所設置の意義」をテーマに講演。最後には質疑の時間も45分間設けられ、地元民の理解を得るための構成だとうかがえた。
土地購入の経緯説明はそれで十分か
職員による説明では、批判の的になった約72億円をかけて購入された南青山の土地についても改めて言及された。港区による土地購入の経緯は以下だ。
- 「子ども家庭支援センター」「児童相談所」「母子支援施設」が複合施設として整備できる土地を探したが、区の所有する土地でふさわしい土地はなかった。
- 平成28年8月に、国から南青山5丁目用地についての情報提供があり、区として国に取得要望書を提出。12月に国から区を売却相方とする通知があった。
- 平成29年9月の財産価格審議会で評定した適正価格に基づき、国との契約が整った。
- 平成29年10月の港区議会定例会で補正予算が議決され、11月に土地売買契約を締結。
さて、これらは反対する地元民の「なぜあの一等地を選んだのか」という疑問を払拭するに足るだろうか。経緯は事実そうなのだろうが、「なぜ」という点において説明不足なのは否めない。
港区の平成29年度予算 では、「夢と希望に満ちた子どもの明るい未来につなげる取組」として約103億円が、早期の児相設置に向けた取り組みや保育・教育環境の整備にあてるものとして予算組みされている。こういった予算を策定し、実施するなかで、あの一等地に土地を購入する理由は明確になっているはずだが、経緯は明らかにしても理由が明らかにされていない。
これでは、「ほかに土地がなかったから」と受け取られても仕方がないのではないか。
正直、反対派の「非行少年が脱走したらどうするのか? 犯罪防止対策は」「なぜ高齢者ではなく子ども(が対象の施設)なのか」「地域の見守りがあればうまくいくというが、ただの理想ではないか」といった、児相の意義を理解していない自分本位の質問には呆れるが、立地の件について疑問をぶつける反対派の意見は真っ当に思えた。
行政の説明したいこと、したくないこと
やはり質疑で問題は起きた。司会の職員が挙手した人に当てて質疑をするスタイルなのだが、質疑に入った時点で10分ほど押していたこともあり、7人ほどの質問に答えたところであっという間に「質問者は残り1~2人に……」という展開になってしまった。ほかにもまだ手は挙がっている。
すると、前方に座っていた参加者の中から「反対意見も全部聞いたほうがいいですよ」と促す声が。続いてそれに賛同する拍手が起こる。18時半から始まった説明会はその時点で21時を回っており、施設の時間制限があるのか、港区は「質問だけ聞いて、後日ウェブで回答する」と閉会に向けた対応をとることに。
純粋なQ&Aのための会なら百歩譲ってそれでもいい。しかし、賛成派、反対派を問わず、こういった場で多くは話を聞いてもらいたいのであって、質問だけをしたいわけではない。港区はそのくらいの反対意見を受け止めることを想定していなければならなかった。想定していたのかもしれないが、見積りを誤っていた。ここに行政の考え方があるように思う。
区の説明は丁寧で、配られた資料やホームページには施設の意義や目的を知るための情報がたくさん載っている。一度に大勢に伝える内容としては申し分ない。しかし、今回の説明会を見ても伝えることばかりが先行し、受け止めきれていない。
子ども家庭支援部長の有賀健二氏は、「施設整備に関する反対意見は区民の皆さまの不安の声だととらえている。一つひとつ払拭する努力をしていきたい」と発言していたが、それは“質問を受ける”ということではないはずだ。
行政がこのような姿勢になるのは、おそらく、聞いたところでそれを反映することはかなわないからだろう。土地はすでに購入済みで、平成33年4月開設に向けてプロジェクトは刻々と進んでいるのだ。反対派の一人が言っていた「説明した既成事実を作りたいだけ」という言葉はまさに図星だったのかもしれない。
一方、声を荒げる反対派も目に余る。今回は説明会であって謝罪会見ではない。時間無制限であらゆるメディアの質問に答えなければならない企業等の謝罪会見とは違い、限られた時間の中で行われていることは誰もが承知だったはず(事前に配られた資料にもそう書いてある)。反対をするためだけに参加しているのであれば、説明会には邪魔なだけだ。
また、反対する理由に「オシャレで高級な地域と合わない」「近所迷惑になる」「治安が悪くなる」といった意見を挙げることは、とても地域を考えているとは言い難く、児童虐待の現実や児相の必要性に対する理解を改めるべきだと言いたい。
立地には地元民の存在も含まれる
「(仮称)港区子ども家庭総合支援センター」について問題になっているのは、施設を作ること自体ではなく“立地”だということ。選定されたのは都内有数の一等地であり、話を聞く限り港区における立地選定のプロセスはほぼなかった。そして立地には当然、そこで生活する地元民の存在も含まれる。
ふと、「地域の見守りがあればうまくいくというが、他人の子どもに対して何かの現場を見たときにかかわれる人はどれだけいるか。そんな幻想のような話はやめてほしい」という反対派の意見と、それに賛同する人たちの拍手が思い出される。
今回の複合施設建設の目的は、「都心港区の家庭が楽しくいきいきと子育てを楽しむことができるよう、多様な文化や人との出会い・交流や学習の場として子育てを応援するとともに、子どもと家庭の状況に応じ、迅速、丁寧な相談、支援を総合的に行うため」で、地域との連携は不可欠だ。
港区に問いたい。交通の便の良さや土地の広さを理由にする前に、こういった意見を持つ人たちがいる場所は、本当にこの施設を作るにふさわしいだろうか。