中国ファーウェイ包囲網 アメリカが力づくで抑えにいった「安全保障上の懸念」と複雑化するハイテク戦争

2018.12.18

経済

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中国ファーウェイ包囲網 アメリカが力づくで抑えにいった「安全保障上の懸念」と複雑化するハイテク戦争

写真/Barcroft Media

経済関係者を驚愕させた中国の通信大手、華為科技(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟副会長がカナダで逮捕された事件。アメリカは安全保障上の懸念からファーウェイ社製品の不採用をアメリカ国内のみならず同盟諸国に要請。日本でもNTTドコモなど3大キャリアが第5次世代移動通信システム(5G)でのファーウェイ社製の製品の採用を見送ることを決定したほか、オーストラリアやニュージーランド政府が中国企業の不採用を決定。フランスの通信大手オレンジも同社製品を使用しないことを発表したほか、ドイツテレコムが調達について見直す方針を打ち出すなど、アメリカと中国の貿易戦争がついに他国にも飛び火しはじめた。

アメリカが中国に逆転されることは許されない

なぜ孟副会長は逮捕されたのだろうか? 表面的には孟副会長が対イラン制裁を逃れるため英金融大手HSBCを利用して金融取引に関与した疑いがあり、アメリカ政府が孟副会長の身柄の拘束を要請していた。

しかし、すべての根本は中国の習近平主席が“中国の夢”と表し、簡単に言えば覇権国家を目指すというところから始まる。それを実現するものとして「一帯一路」や「中国製造2025」がある。

中国製造2025は2015年から始まり、ハイテクなどで2025年までに世界のトップグループに入るという野心的な計画で、ファーウェイはそれを体現する企業だった。つまり、世界の覇権を握るアメリカが中国に逆転を許さないということが摩擦を引き起こした。

5Gのサービスは、ブロードバンドサービスにおいて、すでにアメリカの一部で始まっており、いずれスマホでもサービスが始まる。デロイト トーマツによると、5G対応の新しい基地局の設置数は、中国は国内に35万カ所に新基地局を設置したが、アメリカは国内3万カ所に設置しただけで後塵を拝しており、5Gの標準規格を中国に握られてはまずいと力づくで抑えにいったというのが実情だろう。

そして、「国家百年の計」は中国の得意とする考えだが、中国製造2025年の先には月面開発についても世界のトップを取る、宇宙の覇権も狙うというのがあり、アメリカはそれをさせまいとするという面もありそうだ。

アメリカが懸念するバックドアと通信基地局

今回、ファーウェイの件で懸念されているのは「バックドア」だ。2016年ごろに連邦捜査局(FBI)が米アップルに対してiOSへのバックドアを作るよう要請したというニュースを覚えている人もいるだろう。

バックドアを直訳すれば、「後ろのドア=裏口」をこっそりと作るプログラムを意味し、遠隔操作で裏口から進入し、サイバー攻撃、個人情報の収集などが可能になる。

個人レベルでいえば、Amazonなどでのスマホ決済、Facebook上での「いいね!」、無料電子メールの送受信などのサービスを提供しているメーカーに対して情報はすでに筒抜けで、自分以上に自分のことを知っていると考えていい。利用する前に「同意」ボタンを押している以上、企業があなたのことを知っていることをあきらめるしかない。

しかし、国家レベルになると話が変わってくる。自衛隊外務省、FBI、中央情報局(CIA)など、機密性が高いレベルで必要な政府機関で情報漏れがあったとしたら大問題になるからだ。

一般的には身近な存在のスマホの個人情報流出に目が行きがちだが、今回問題視されているのは、実際には、ファーウェイがシェアトップを走る通信基地局の話と考えた方がいい。ファーウェイが関連している基地局が増えるほど、中国政府に情報が漏れるのではないかというのをアメリカ政府は特に懸念している。

孟副会長の逮捕はどんな影響を与えるか

ビジネスをする人ならすぐわかると思うが、B2CビジネスよりもB2Bビジネスの方が景気の変動を受けにくい。つまり、ファーウェイとしてはスマホ販売よりも、ある程度収入が安定している基地局ビジネスを中心にした収益構造にしたいはずなので、通信基地局のビジネスが展開できないことはファーウェイの業績に悪影響を及ぼすだろう。

最新スマホ、Mate20Proの発表会での呉波(ご・は)ファーウェイデバイス 日本・韓国リージョンプレジデント(中央)

エンジニアリングレベルでみれば、孟副会長は財務畑中心なので、技術のレベルが落ちることはないが、お金が入ってこなくなると開発スピードが鈍くなるという流れになる。

他方、中国経済にとってみると、影響はあるもののそれほど大きくはない。ファーウェイは大企業なので関連企業は影響を受けるが、中国は全体的には依然として製造業が中心で、ハイテク産業のシェアはまだ低いからだ。日系企業でみると、ファーウェイを顧客としている京セラや村田製作所などへの影響を与える可能性はある。

ハイテク戦争は魑魅魍魎な世界

このハイテク戦争は、中国政府内の権力闘争のように魑魅魍魎としたところがある。アメリカ政府はファーウェイをターゲットとする前に、同じく中国のハイテク大手国有企業ZTE(ゼットティーイー)をやり玉に挙げた。

ZTEと中国政府は一心同体と言っていいのだが、ファーウェイとZTEはしのぎを削るライバル関係にある。中国はビジネスにおいて、日本のように共存共栄という考えはないので、お互いに倒産してほしいと思っているだろう。

もちろん、上述したように、ファーウェイは中国政府にとっても中国製造2025を進めるための重要な企業なので、中国政府はZTEとファーウェイの関係について、それなりに頭を悩ませているかもしれない。

一方、ファーウェイとアメリカの半導体大手クアルコムは、スマホ向けのプロセッサをめぐる強力なライバル関係にある。そのクアルコムは1990年代から中国に進出し、ZTEもクアルコムと提携するなど仲が良い。つまり、クアルコムと中国政府の関係も良い。

また一方、同じアメリカの企業であるクアルコムとアップルは知的財産をめぐり係争中で仲が悪く、12月10日に、クアルコムはiPhone6S、7、8、Xの中国での販売差し止めを勝ち取ったほか、アメリカ国内でも差し止めを求めている。

もう誰が味方で誰が敵なのかわからなくなっている状況に加えて、孟副会長の逮捕が絡み、事態が複雑化した。ポイントのひとつになりそうなのが、孟副会長のアメリカへの身柄引き渡しだ。

孟副会長はカナダで保釈されただけで、カナダ側の判断でアメリカに身柄を引き渡された場合、中国は両国に対して強硬な対抗措置をしてくると思われる。ファーウェイは中国本土の若者に支持されており、技術でも世界を相手に負けない力を持っていると誇りに思われているため、そうしないと国内世論が収まらないからだ。

この事件に関連して、中国政府がカナダ人2人を拘束したことで人権問題にまで発展しそうだが、カナダがアメリカに孟副会長の身柄引き渡しをすれば、中国が中国在住のアメリカ人を拘束することなども考えられる。一方、アメリカは関税問題にお得意の人権問題を絡めて対抗してくると思われる。

戦争終結には五分のディールが必要

今後の世界経済だが、2018年12月1日のG20が閉幕した後に、米トランプ大統領と習国家主席の間で2019年1月からの追加関税拡大については90日の猶予期間が設けられたが、それは関税が拡大しなかっただけであり、これまでの高い関税がかかり続けていることから、ファーウェイの一件がなくても悪化する流れになると考えるのが自然だ。

ただ、少しだけ希望の光も見えた。孟副会長をめぐって非難の応酬が続くなか、12月14日に中国政府がアメリカからの輸入車に関する報復関税について2019年1月から3カ月間停止すると発表した。関税は中国をボディブローのように襲っていることが証明され、中国政府もこれ以上の関係悪化は避けたいという思いだろう。

実は、中国人とトランプ大統領には、共通点が少なからずある。例えば、他国に対して強気であること、それと面子が大事である点だ。つまり、トランプ大統領の言葉を借りていうと、お互いに面子を保てる「ディール(取引)」であれば、チキンレース状態にある貿易戦争が終わるという可能性もあるかもしれない。