米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の移設をめぐり、政府は移設先である名護市辺野古沿岸部の埋め立て工事を再開した。沖縄県の玉城デニー知事らの反対を押し切った形だが、政府の対応には全国的に批判の声が強まっている。
行政不服審査を請求、政府の強引な対応に約8割が「対話不十分」
普天間基地移設問題の原点は、この基地特有の“危険性”である。普天間基地は在日米軍海兵隊の軍用飛行場だが、周囲には住宅地が密集。“世界一危険な基地”とも称され、周辺ではたびたび墜落事故が発生している。
1995年の沖縄米兵による少女暴行事件を機に米軍基地への反対運動が起こり、日米両政府は辺野古周辺に移設する方針を決定。しかし、工法などがまとまらず、この計画は頓挫してしまった。その後、紆余曲折を経て、政府は元通りの辺野古移設案を決めた。
政府にとって誤算だったのは、2014年の沖縄知事選で、辺野古移設反対を公約に掲げた翁長雄志(おなが たけし)氏が当選したことだ。翁長知事は翌年、前の知事による辺野古埋め立て承認を取り消したため、工事は中断。これに対して政府は行政不服審査を請求し、石井啓一国土交通相が「承認撤回の効力停止」を認めたために今回、工事再開が可能となった。
ただ、行政不服審査というのは政府の対応に対し、国民が異議申し立てをするための制度。政府が審査を申し立てるというのは異例だ。政府の強引な対応からか、朝日新聞が12月の世論調査で「政府が辺野古沿岸部に土砂の投入を進めること」への賛否を聞いたところ、60%が反対と回答。賛成は26%にとどまり、約8割が「政府と沖縄県の対話が十分ではない」と答えた。
来年2月の沖縄県民投票がボーダーラインか
政府にも言い分がある。政府がアメリカや沖縄の地元関係者と協議を重ねてきた結果、辺野古以外の代替案を見つけることはできなかった。沖縄の求める海外移設はアメリカがのまない。そして、全国的には辺野古移設は一定の支持を得てきた。「普天間基地の危険性を除去するためには一刻も早い移設を実現すべきだ」というのが政府の基本的な考え方だ。
しかし、背景には「移設を実現するには今しかない」との計算ものぞく。沖縄県は来年、2019年2月に移設の是非を問う県民投票を行う方針。沖縄の民意が“反対”に決まってしまうと対応が難しくなる。また、来年春には統一地方選、夏には参院選を控える。選挙に悪影響を及ぼさないためにも今のうちにこの問題にけりをつける必要がある。
移設反対派の根拠のひとつが辺野古周辺海域の自然破壊だが、いったん埋め立ててしまったらキレイなサンゴ礁の海を取り戻すことはできない。政府はこのまま既成事実をひとつずつ積み重ねていくのだろうが、そこに“待った”をかけることはできるだろうか。
芸能人らの呼びかけで米ホワイトハウスに埋め立て中止を求める署名が10万人分以上、集まったという。ポピュリストで知られるトランプ大統領の目にとまったら……、トランプ大統領が急に関心を示したら……。あるいは想定外のことが起きるかもしれない。