IWC脱退、強硬姿勢の陰に大物議員への“忖度”

2018.12.25

政治

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IWC脱退、強硬姿勢の陰に大物議員への“忖度”

日本の調査捕鯨船団の母船「日新丸」 写真/Bloomberg

政府は「捕鯨」に反対する国際捕鯨委員会(IWC)から脱退し、商業捕鯨を再開する方針を固めた。国際協調を重視する日本が国際機関を脱退するのは極めて異例。まるで米トランプ外交のような強硬姿勢の背景には、政権中枢の大物議員への“忖度”がある。

規模縮小も批判にさらされ続ける日本の捕鯨

IWCは1946年に設立された国際機関で、日本は1951年に根拠となる条約に加入した。現在の加盟国は89。「クジラ資源の保護と持続的な利用」が目的だが、近年は“捕鯨推進国”と“反捕鯨国”の両社が激しく対立してきた。

紀元前からクジラ漁を行ってきた日本は積極的な捕鯨推進国の一つだが、年々反捕鯨国が増加。1982年に決議された商業捕鯨の停止(モラトリアム)を受けて日本は1980年代後半に商業捕鯨を停止し、現在は調査捕鯨とイルカを含む小型クジラの沿岸漁だけとなっている。

大幅に縮小した日本の捕鯨だが、それでも国際的な批判にさらされている。2009年には和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を批判的に描いたドキュメンタリー映画『ザ・コーブ』がアメリカで製作され、その年のアカデミー賞で「長編ドキュメンタリー映画賞」を受賞。イルカ追い込み漁は“残酷”だとして世界から批判の目が向けられた。

鯨資源の調査を目的に行っている調査捕鯨についても捕獲後にクジラ肉として販売したり、学校給食等に提供されたりしていることから「実質的な商業捕鯨」との批判もある。積極的な反捕鯨国であるオーストラリア等との国際摩擦も強まっている。

こうしたなか、2018年9月に反捕鯨国がIWC総会で「いかなる捕鯨も認めない」と宣言。このままではいつまでたっても商業捕鯨が再開できないと判断し、来年6月末で脱退する方針を固めたという。脱退以降、日本の領海等で30年ぶりの商業捕鯨再開を目指す。

IWC脱退は日本の国益に資するのか

長年、商業捕鯨の再開を目指してきたとはいえ、「認めないなら脱退する」というのは日本らしくない。まるで米トランプ大統領の手法だ。そんな大それた判断を官僚ができるはずもない。背景にいるのは安倍政権で権勢を誇る自民党の二階俊博幹事長だ。

二階氏の地元は太地町を含む和歌山3区。地元の声を受け、かねて党内で捕鯨推進を主導してきた。二階氏は9月のIWC総会を受け、10月に自民党開いた捕鯨関連の会合であいまいな答弁を繰り返す外務省幹部を叱責。「党をなめている。もっと緊張感をもって会議に出てこい」と怒声を浴びせた。その結果が“IWCからの脱退”なのである。

また、捕鯨船の拠点がある山口県下関市は安倍晋三首相の地元。その首相は10月29日の衆院本会議で「一日も早い商業捕鯨の再開のため、あらゆる可能性を追求していく」と表明しており、政治判断での脱退が決まったということだ。

ただ、「IWCから脱退して商業捕鯨を再開」することが本当に国益に資するかは不透明だ。一部の世論調査では捕鯨を支持する声が多いが、捕鯨自体を支持しているというよりは「他国に口を出されたり、妨害されたりするのはおかしい」という側面が強いとの指摘がある。学校給食でクジラの竜田揚げなどを食べた世代はクジラ肉へのなじみが強いが、若者世代では「一度も食べたことがない」という声が多い。

実際にクジラ肉の消費量はピーク時の1960年代に20万トンを超えていたものの、現在は5000トンに過ぎない。「他国に食文化のことを言われる筋合いはない」というのはその通りだが、日本国内で近隣国の「犬肉」文化への批判が強いのも確か。クジラ肉にこだわるあまり、国際的な信用を下げるべきなのかどうかは慎重に判断されるべきだ。

特に今回は一部の有力議員への“忖度”により、外交政策に関する大きな政策判断が決まったという点がおかしい。いっそのこと党派を超えて国会で真剣に議論し、採決してみてはどうか。その結果の“IWC脱退”なら国民からも批判されないはずだ。