佐藤尊徳が聞く あの人のホンネ

『若者を導く、社長のコトバ』アサヒグループホールディングス 代表取締役 兼 CEO 泉谷直木

2014.5.12

経済

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写真/片桐 圭

今回は、「政経電論」読者に事前アンケートを実施して質問を募り、泉谷社長に質問させていただいた。経済記者とは違った視点からの質問に返ってくる、人生訓のような話。20年弱のお付き合いなのに普段聞かないような話で、こちらも面白かった。

アサヒグループホールディングス代表取締役社長 兼 CEO 泉谷直木氏×佐藤尊徳編集長【電子雑誌『政経電論』巻頭インタビュー】

アサヒグループホールディングス 代表取締役兼CEO

泉谷直木 いずみや なおき

1948年8月9日生まれ。京都府出身。72年に「朝日麦酒(現アサヒビール)」入社。広報部で視野を広げ、その後、経営戦略部長などを経て、2003年取締役に就任。2014年3月に代表取締役社長 兼CEOに就任。

株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。

Twitter:@SonsonSugar

ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

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「”物語”を提供してこそメーカー」

尊徳 最近若者がお酒を飲まないと言われていますが、メーカーはなにか努力をしているのですか?

泉谷 「飲めない」のと「飲まない」のは違います。「飲めない」人に強要はできませんが、我々(メーカー)も飲む機会や楽しさを提供する努力をもっとすべきでしょう。

例えば、今、友好企業の皆さまの、新入社員研修の一環として、全国のビール工場を見学してもらい、正しい飲み方をお伝えするという活動をしています。アルコールに強いかどうか簡単なテストをすることで、限界の酒量を知っていただく。そうすれば適量を楽しく飲んでいただけるようになります。

また、21歳の人を対象に、都内100店舗以上の飲食店で生ビールが1杯無料になるというビール体験企画「ビアマジ!21」を、リクルートライフスタイル社と組んで実施しています。ビールや酒場に興味を持ってもらう取り組みです。また、「エクストラコールド」(氷点下のビール)や「トルネード」(渦を巻きながら生ビールが注がれる)などの、いろんな飲み方提案も若者にビールに触れてもらう努力の一環です。

尊徳 商品力だけでなく機会も提供すると。

泉谷 そうです。「モノ」プラス「コト」の”物語”を提供しないと。今は情報ツールがたくさんありますから、情報を発信していかないと。

泉谷直木

「僕の人生観では10年は修行(笑)」(泉谷社長)

写真/片桐 圭

「結果はすぐに出ないので諦めない」

尊徳 最近の若い世代に思うことは?

泉谷 敢えて言うとしたら、情報がすぐにたくさん取れるせいか、生の経験が足りないと思います。五感で本物を感じてほしいですね。組織のなかで実際の現場を見せて、行動させていけば若者が持つ強みが出てくると思います。

あと、多少諦めが早いと感じています。我慢が足りないので、じっくりと仕事をさせることで結果が伴うということをわからせてあげないと。(現在流行っている)バーチャルの世界は、結果がすぐに出ますが、リアルは相手があったり、自分が思うこととは違う方向に行ったり予測がつきませんから、時間が掛かるのです。僕の人生観では10年は修行ですから(笑)。

世代間のギャップは必ずあるので、話をよく聞いてからこちらの意見を言わないといけません。昔、よく言われたのですが、何で口は1つで目と耳は2個なのかというと、よく見て、聞いてから喋れということなんだ、って(笑)

「チャンスは3つ、リスクは4つ」

尊徳 社長として判断基準の決め事、また仕事をする上で気を付けていることは?

泉谷 事実に基づいて仕事をするということです。現場を知らない人同士が議論をしたところで何の意味もないです。また、自分の先入観があると、事実を曲げて見ることもあるので、謙虚にものを見るということを心掛けています。

経営者として業績が悪くてもチャンスは3つくらいあるし、業績が良くてもリスクは4つくらいあると考えています。まず、「負うべき」リスクです。品質事故、コンプライアンス違反は会社の屋台骨を揺るがします。経営として常に心にとめ、背負っていかなければいけません。次に「負える」リスクです。投資がすべて成功するとは限りませんから、失敗した時にも耐えられるなど、バッファーを持っていないといけません。厄介なのは「負えない」リスクです。天災など予測できないものですが、普段の訓練やシミュレーションをしっかりやることで、軽減することはできます。そして、「負わないことによる」リスクは最悪です。今やらなければいけないことを先送りして、大きな問題になってしまうことです。

悪いときでも先行きの光明を示せれば人はついてきます。示すときの考え方も3つあって、1つが今やっている強みに集中すること、2つ目は事業ドメインを変えて、時代の変化に対応すること、3つ目は持っているキャッシュでどこかを買収して、事業ごと変えてしまうという考え方もあります。

その判断基準は、それをやることによって誰かを幸せにしているかどうか。そうでなければ、企業の存在価値はなくなりますし、誰かを幸せにすることで社会からお礼がいただけるのです。

「辞めたいと思ったら経営者失格」

尊徳 そんななか、失敗したこともあると思いますが、思い出話をひとつ。

泉谷 30歳前後に仕事も覚え、部下もできました。燃えるのはいいのですが、やり過ぎて疎ましがられたり、空回りをしたことがあります。ある人に「抜き身の刀をふりかざすな。振り回すから自分も傷つくんだ。刀は鞘に入れておけ」と言われて、なるほどと思ったことがあります。

社長になってからは……正直に言えば、やはり悩むこと、考えることはあるわけで。眠れない夜を過ごして、先ほど申し上げた「負わないことによる」リスクを冒したことはあります。経営に響くようなことではありませんが、そういう経験があるから余計に、リスク管理をきちんとしなければいけないと感じます。

尊徳 辞めたいと思ったことはないのですか?

泉谷 社長になってからはないです。そんなことを思ったら(社長を)やってはいけません。社長になった時にいくつかの覚悟が必要でした。時間が自由にならない、体力的にきつくなる、逃げられないなど、失うものもたくさんあります。できない、知らない、わからない、という3つの「ない」は言えないのです。先頭で荒野を切り拓く覚悟でやっているわけで、辞めたいと思ったら最後です。

質問をすれば、迷いなくすぐに明快な答えが返ってくる。道を示してくれる人に、人はついていく。経営者の資質だと思う。次号も、明快な答えが返ってきます。一緒に勉強しましょう。

【後編】Special Interview アサヒグループホールディングス社長・泉谷直木