守るべきは力士か文化か スター候補を葬るけがと番付システム

2019.02.01

社会

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写真/Osugi Shutterstock.com

関脇・玉鷲(片男波部屋)の優勝で幕を閉じた大相撲初場所。モンゴルからやってきた高齢力士が努力を重ねて徐々に力をつけ、30代で三役定着、そして初の賜杯という話は美しかった。だが、その陰で長年土俵を支え続けた横綱・稀勢の里は引退し、連勝中の御嶽海(出羽海部屋)や好調の千代の国(九重部屋)、そして終盤まで優勝争いのトップに君臨していた横綱・白鵬までもが休場を余儀なくされた。これらはどれもけがが引き金となっている。絶えないけがと、強行出場。なぜ力士たちは傷つきながら休まないのか。

番付を落としてけがのリスクを払った結果…

力士にとってけがと番付は悩ましい問題だ。

けがをする

出場しないと負け扱いになる

番付が落ちる

という構図がある。

昔とは異なり、けがをしても番付が守られるシステムは無く、力士は自らの地位を守るために強行出場している。今場所の御嶽海がその最たる例だ。

しかし、結果だけ見ると今の地位を守るために強行出場することで、将来の可能性が閉ざされていくことは誰の目にも明らか。

特に、突き押し相撲全盛の昨今、けがの大半は膝に集中する。14日目の御嶽海を見ての通り、膝を“やって”も攻めることはできるが、守れない。だから、守勢のときに勝てなくなる。要は大きく勝ち越せない“そこそこの力士”になってしまう、という単純な構図である。

地位を守るための強行出場を避け、休むのには勇気が必要だ。たとえそれができても、4場所休めば幕下の最下位くらいまでは落ちてしまう。

勇気をもって休んだ栃ノ心が逆にパワーアップして短期間で戻り、大関昇進したのは成功例。同じく長期欠場したものの、今場所で以前と同じ前十字靭帯断裂したといわれている宇良(木瀬部屋)や、けがから復帰後、幕下ですら苦戦している千代鳳(九重部屋)は、言い方は悪いが失敗例である。

客観的には、きちんと治すことが必要だと考えるが、ではきちんと治すことが元の力を取り戻すことを担保するかというと、必ずしもそういうわけじゃない。力士のプライドともいえる番付を落とすというリスクを払った結果、番付も戻らない、体も戻らないという事態も少なからずある。

スター候補最右翼は元貴乃花親方の最後の弟子・貴景勝

けがをした力士のケアというのは悩ましい話ではあるが、日本相撲協会は例のごとく悩ましい問題に着手などするはずもない。だから、私たちは言い続ける必要がある。

ただでさえ昨今の不祥事で大相撲への信頼は失墜し、人気が低迷しているなか、相撲の枠を超えたヒーローを作らないと大相撲の終わりは近い。

動員を支えているのは高齢者を中心にした既存ファンで、30代以下は大相撲を本当に見ない。彼らに訴えるには、大相撲という競技の枠を越えたスターが必要なのだ

その可能性があったのは、ルックスと相撲の“華”を兼ね備えた遠藤(追手風部屋)と、相撲じゃない相撲を取ってバラエティでも名を売った宇良だが、2人とも壊れてしまった。最後の希望は貴乃花親方が失意の下、土俵を去るなかで遺した最後の弟子・貴景勝(貴乃花部屋→千賀ノ浦部屋)である。

彼は幸か不幸か、元貴乃花親方が起こしたいわゆる“貴の乱”によって世間から認知されることになった。志半ばで角界から追放されたかつての大横綱のストーリーを継承した、22歳の若武者だ。知名度とドラマと強さを兼ね備えた彼だけは壊してはならない。

相撲協会はスター創造に消極的

話はちょっと逸れるが、相撲協会は貴景勝の大関昇進を嫌っている。昇進基準の3場所33勝以上という基準を超えたが、なぜか「連続優勝」などといったハードルを口にしている。

大関になれば責任は重大だが、けがしても1場所は休むことができる。責任の分だけ権利もある。相撲協会は、実力と実績に見合う権利を与えることに対する脅威、貴乃花の弟子が大相撲の中心に君臨することを恐れているようにしか見えない。

中長期的に見れば力士全体を保全するということ、そして短期的な視点で見れば貴景勝という宝を守るということ。この2つを相撲協会は真剣に考えなければいけないのに、自分たちが大相撲の文化を変える決定をするだけの度胸が無いから、大事なところで逃げてしまう。既得権益にしがみついて、退職することしか頭に無い。

力士をどのように守るのか。そして、新しいヒーローをどのように作るのか。あぐらをかいて待っているだけでは何も始まらないのだ。