普天間基地移設問題を横目に進む鹿児島・馬毛島の“不沈空母化”

2019.01.29

政治

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鹿児島県西之表市の「馬毛島(まげしま)」

沖縄・辺野古への普天間基地移設問題に注目が集まるなか、2017~2018年には、在日米軍再編の一環で厚木基地(神奈川県)にある空母艦載機部隊が岩国基地(山口県)へ移駐している。米海兵隊のF/A-18戦闘攻撃機の訓練地として、鹿児島県の無人島・馬毛島(まげしま)が候補に挙がっているのだが、ちょっとした問題が起きているという。

南西諸島をカバーする“第2の防空拠点”

世間であまり知られていない鹿児島西之表市の無人島・馬毛島(まげしま)に防衛省がラブコールを送っている。狙いは島の“不沈空母化”らしく、近年増強著しい中国海空軍の脅威に備え、尖閣諸島や沖縄など南西諸島をカバーする“第2の防空拠点”との思いが見え隠れしている。

翻って沖縄では、米軍普天間基地の辺野古(名護市)移転問題が山場を迎えている。計画を急ぐ政府は2018年12月中旬に辺野古沖の埋め立てを再開。片や県議会は移設の是非を問う県民投票の実施で対抗、一部自治体が不参加を表明する一幕もあったが、今年2月24日県内の全市町村で住民投票が実施される運びに。

あくまでも純軍事的に考えた場合、中国の軍事的脅威がますます強くなる現在、沖縄の米軍基地自体が中国を強力に牽制する存在であることは明らか。だが一方で、米軍基地に苛まれてきた沖縄県民の心情は重視すべきで、ここに普天間移設問題の難しさがある。

米軍、もっと近くに訓練場が欲しいってよ

さて、普天間移設問題を横目で眺めながら、政府は馬毛島の“不沈空母化”を着々と進める。島は種子島(西之表市)の西約12km沖合に浮かび、面積は約8平方km、周囲17kmにも満たない無人島だ。

本来は、米空母艦載機のFCLP(陸上空母離着陸訓練)施設の確保が目的で、2000年代初めから進められている在日米軍再編計画と、在日米軍厚木基地(神奈川県)の騒音問題に対処するもの。

米軍横須賀基地(神奈川県)を事実上母港とする米空母が帰港すると艦載機は近くの厚木基地に移動、ここから硫黄島(東京都)まで飛びFCLPを実施していた。たが、同基地周辺は住宅密集地で騒音や墜落事故への心配が社会問題化し、これを和らげるため、数年前から艦載機の移駐先を遙か西の米軍岩国基地(山口県)に変更した。

ところが、FCLP施設は太平洋上の遙か南にある硫黄島のまま。厚木~硫黄島でさえ実に約1200kmも離れており、さしものジェット戦闘機でも片道1時間は覚悟しなければならず、米艦載機パイロットの不評の的。岩国~硫黄島はさらに遠く約1400kmにもなり、パイロットへの負担や効率の悪さを憂慮する在日米軍は近場の代替施設を強く求めている。

そこで白羽の矢が立ったのが馬毛島だ。岩国基地からは約400km足らずで、ジェット戦闘機ならば20分ほどで到達でき申し分ない。しかも無人島だから住民の立ち退き交渉や反対運動、騒音対策などにかかる“手間・ヒマ・コスト”とはほぼ無縁。

ほとんど全島がタストン・エアポートという民間企業の所有であり、買収交渉も同社だけを相手にすればいい。しかも同社は同島のFCLP施設化を見越してか約140億円を投じて自前で滑走路も建設、日本政府にとってはまさに“渡りに船”の物件だ。

日本政府による買収計画は2010年頃から進められていた模様で、翌2011年には防衛省と同社は用地交渉に関する合意書を結び、日米安保協議委員会(2プラス2)でも、硫黄島に替わるFCLPの移転候補となっている。

防衛省の狙いは馬毛島の“不沈空母化”?

こうしてお膳立てを整えた政府は、今年に入り大きく動き出し、1月21日に原田憲治防衛副大臣が、同島が所属する西之表市長や鹿児島県知事と会談。ただ、西之表の八坂俊輔市長はFCLP受け入れ反対を掲げて2017年に初当選しただけに、政府側の思惑どおりに進むかは未知数だ。

一方、防衛省はFCLP施設にとどまらず“馬毛島の不沈空母化”も視野に置くのでは、との見方も一部で指摘されている。防衛省は中国の軍事的脅威に備え、南西諸島の防衛強化、いわゆる自衛隊の「西方シフト」を進めているが、沖縄には航空自衛隊基地が“軍民”共用の那覇空港1カ所だけ(米軍の嘉手納、普天間両基地は除く)」という点がネック。

仮に中国が尖閣諸島や南西諸島への侵攻に挑んだ場合、真っ先に那覇空港を攻撃、制空権を奪おうとするはず。しかも観光客を装った中国軍特殊部隊による破壊活動や、ドローンによる妨害で事足りるかもしれない。

那覇空港が使用不能となった場合、現状では那覇から750km以上も離れた宮崎県の新田原基地から空自は戦闘機を出撃しなければならず、非常に困難な戦いを強いられる。

そこで馬毛島を“不沈空母化”し、平時にはFCLP施設として使い、有事となれば空自戦闘機の出撃基地とすれば南西諸島防衛は飛躍的にアップできるという発想だ。もちろん給油タンクや弾薬庫、整備施設なども配置、 整備要員も常駐させ、ゆくゆくは空自の戦闘機部隊を常駐、というシナリオを防衛省は描いているのかもしれない。

ちなみに馬毛島~那覇は約600kmで新田原~那覇と比べて150kmほど近くなった程度だが、「南西諸島地域に空自基地が1カ所から2カ所に増えた」という事実は、中国に対する大きな抑止力となるはず。

怪しげな勢力がはびこった馬毛島の“暗い歴史”

ところで馬毛島には、かつて“魑魅魍魎”がはびこった暗い歴史がある。1970年代半ばに、旧平和相互銀行がリゾート開発のため全島を買収したものの計画は破綻、その後も石油備蓄基地や自衛隊のレーダー基地の誘致話などが持ち上がるが、この過程で反社会的勢力が暗躍、平和相銀の不正経理も露呈し政界をも巻き込んだ「馬毛事件」が1980年代半ばに発覚する。

これが元で平和相銀は旧住友銀行に吸収合併され消滅。1990年半ばに入ると平和相銀が作った馬毛島リゾート開発子会社を立石建設が買収、「タストン・リゾート」として再出発を図り、日本版スペースシャトルの基地や使用済み核燃料の中間貯蔵施設の誘致を目指すが結局失敗、多額負債の解消のため同社は一時中国系ファンドへの全島売却をちらつかせるなど、怪しさが常につきまとっていた。

直近では2018年に同社の債権者が破産申告を東京地裁に申請、保全管理命令が出され、その後、同社が債権者側に借金を支払って、鎮静化を図るなどいまだに周辺はきな臭い。

馬毛島南西で大噴火、火山灰が…

こうした“訳あり物件”の取得のために、防衛省は同社に160億円を提示とも言われ、その前のめりぶりが伝わってきそうだが、同省の期待に水を指すかのように、馬毛島の南西約60kmにある口永良部島では近年大噴火が頻発、馬毛島にも火山灰が降り注ぐ事態に。

ジェット機にとって火山灰は大敵。ジェットエンジンに吸い込むと高温で火山灰が溶解しガラス化してタービン(羽根車)にまとわりついてエンジン停止に陥り、最悪の場合、墜落の恐れも。降灰がひどければ“馬毛基地”は使用不能に陥る。

“いわくつき”の無人島が「不沈空母」となるには、まだまだひと波乱もふた波乱もありそうな雲行きだ。