米中貿易摩擦のスケープゴート、ファーウェイ 包囲網はより厳しくも自社で打開可能?

2019.05.22

経済

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huawei「P30 Pro」と「P30」

NTTドコモ、au、ソフトバンクが予約停止や発売延期を決定したP30シリーズ

激しさを増す米中の貿易摩擦。第5次世代移動通信システム(5G)や人工知能(AI)など次世代のテクノロジーの開発は、この先の覇権争いのカギを握るからこそ競われている。先日、米中貿易協議がもの分かれになったが、今後、交渉が合意しても一旦、小休止程度で長期的にみれば米ソの冷戦のように数十年続く戦いの始まりと見た方がいいだろう。そのなかで、アメリカのスケープゴート的に扱われているのが中国の通信大手、華為科技(ファーウェイ・テクノロジーズ)だ。

 

2018年、孟晩舟副会長がカナダで逮捕された事件は記憶に新しいが、米商務省は5月16日、米政府の許可なく米企業から部品などを購入することを禁止する「エンティティーリスト」にファーウェイと関連68社を正式に追加した。それを受けて、米グーグルのスマートフォン用基本ソフト(OS)Androidの最新版の提供停止も発表。中国製品の関税引き上げに続き、強力な攻勢をかけてきた。

スマホ販売で年々存在感を増してきたファーウェイ

アメリカの調査会社IDCが2019年4月30日に発表したスマホのシェアを見るとトップはサムスン(韓国)の23.1%、ファーウェイ(中国)が19%、アップル(アメリカ)が11.7%、シャオミ(中国)が8%だった。表を見てもわかるように、シェアをほぼ一貫して伸ばしているのはファーウェイだ。

スマートフォン企業のシェア 世界トップ5

スマートフォン企業のシェア 世界トップ5

スマートフォン企業のシェア 世界トップ5
出典/IDC[Smartphone Market Share]

ファーウェイは通信技術で培ってきたノウハウを武器にスマホの分野に進出。2015年に、それまで中国スマホの代名詞であったシャオミを中国市場で逆転したほか、年間販売台数も1億台を超えた。年間1億台超えを経験したことあるメーカーはサムスン、アップル、ノキア(フィンランド)だけであることからもファーウェイの勢いがわかる。

ファーウェイは日本市場でも強く、「P20 Lite」という製品は日本市場でこれまで最も売れたAndroidスマホであるほか、同社製のスマホは日本のSIMフリー市場で2017年、18年と2連連続でシェアナンバーワンとなっている。その強さの源泉は、コストパフォーマンスの高さだ。

5月21日、東京都内でファーウェイ・ジャパンによる「P30」シリーズの新製品発表会が行われた。NTTドコモから独占販売される「P30 Pro」と「iPhone XS Max」で比較すると、カメラは前者が4つに対し後者は2つ、Ramは6GB対4GB、バッテリーが4100mAh対3174mAh。iPhoneは指紋認証を廃止したが、P30は採用を続けている。価格は契約内容にもよるが、約89000円対約10万円だ。安くて性能が良いのであれば、アメリカが指摘する情報漏えいの話は別として、ファーウェイの製品を買おうとする人が世界中に大勢いるのは必然だろう。

新製品を掲げる呉波プレジデントとモデル
新製品を掲げるファーウェイデバイス 日本・韓国リージョンプレジデント呉波(ご・は)氏

これが実現できるのは、110億3000万ユーロという(2018年)、サムスン、アルファベット、フォルクスワーゲン、マイクロソフトに続く世界第5位の研究開発費を投入しているからこそ。この投資額はインテルやアップルもしのぐ。また、世界知的所有権機関(WIPO)によると申請数も5405件(2018年)と世界一だ。そういう意味では米トランプ大統領が脅威に思うのは当然かもしれない。

中国ファーウェイ包囲網 アメリカが力づくで抑えにいった「安全保障上の懸念」と複雑化するハイテク戦争

2018.12.18

注目度の高い今回のファーウェイの新製品発表会、広報に取材陣の数を聞くと「公表していないので……」と言われたが、用意されたテーブルの数などから推測すると約200人もの人が詰めかけたようだ。発表会が終わった後の製品を試す場所では、熱気が感じられたことは間違ない。

熱心にファーウェイの新製品を試す報道陣
熱心に新製品を試す報道陣

日本の消費者に対し「安心して」

従来、ファーウェイの製品発表会が終わった後は呉波ファーウェイデバイス 日本・韓国リージョンプレジデントへの囲み取材が行われてきたが、今回はAndroidの提供が停止になったというニュースが前日に流れた影響なのか、その時間を設けなかった。本社との回答をすり合わせる時間がなかったからだと思われる。

発表会の最中「会見の時間を設けなくて申し訳ない」と呉波プレジデントが謝罪したことが、それを表している。広報に話を聞いても製品の話はしてくれるが、それ以外は答えてもらえなかったが、「前日はドタバタで大変でした……」とだけは話してくれた。

発表会の壇上に立った呉波プレジデント
発表会の壇上に立った呉波プレジデント

発表会の最後に呉波プレジデントは「ファーウェイはアメリカ商務省産業安全保障局の決定に反対する。これは誰の利益にもならない。ファーウェイと提携しているアメリカの会社に対して経済的損失をもたらし、アメリカの10万人に及ぶ雇用に影響する。グローバルのサプライチェーンの協業も分断する」とした。

事実、2018年にファーウェイが調達した約700億米ドルの部品のうち、アメリカ企業からは約110億米ドルあったことを念頭においたコメントだ。アメリカ側もダメージを受けることも意味する。

また、「全世界で販売済、販売中のスマートフォン、タブレットPCにおいて、その使用と継続的なセキュリティアップデート、アフターサービスが影響を受けることはない。日本の消費者の皆様は安心してご購入、使用してほしい。アメリカの制裁に粘り強く対応していく。われわれにとっての再出発になると信じている」とも語った。

OSもチップも自社製か?

先日、アップルがスマホ向けのモデムチップについて訴訟中だった米半導体大手クアルコムと和解を結んだニュースが流れたが、事実上、あれはアップルの敗北といえる。あのアップルでさえも頭を下げざる得ない企業があったことを世に知らしめたが、ファーウェイは自社のグループ会社、ハイシリコンに「Kirin」というプロセッサーを専用に作らせており、クアルコムからも提供は受けているものの、モデムチップでの影響は大きくはない。

ただ、Androidの停止は間違いなくダメージだ。ソフトウェアだけで見れば、Androidはオープンソースであり、中国国内においてはグーグルの検索などはもともと使えないため、中国国内においてはほとんど影響ないだろう。問題は海外市場だ。GoogleマップやGmailはグーグルと契約しなければいけないため、供給停止となった場合は、スマホ自体の利便性が下がることは避けられない。

最終的には自社のOSを使うということになる。以前から開発を進めてきているようだが本腰を入れることになるだろう。昔、サムスンが作った独自OSは市場に受けられなかったが、ファーウェイは受け入れられる、受け入れられないにかかわらず開発せざるを得ない状況に追い込まれつつある。

中国本土ではグーグルの検索だけではなく、フェイスブックも使用できないが、その代わりに、百度(バイドゥ)や微信(WeChat)など自国企業で似たようなものを作ってしまった。日本の場合は、自分で作ってもグローバル戦略が甘いせいで“ガラパゴス”に終わってしまうが、中国は10億を超える人口があるためガラパゴスでも十分にやっていける。

そういう下地があるため、ファーウェイも「お金はかかるし、人材の確保も必要だから時間もかかるなあ」とは思いつつも、自社でOSを作ることに特に抵抗感はないだろう。

トランプ大統領が提示した3カ月の猶予期間の意味

大変なのは、部品など物理的なものだ。スマホはグローバルなサプライチェーンを駆使した製品の最たるものであるため、ファーウェイがいくら在庫を抱えていても3カ月以上この状況が続けば生産が厳しいといわれる。

米商務省は、ファーウェイの輸出禁止規制について一部の取引を3カ月間、猶予することを発表した。2018年12月1日のG20が閉幕した後に、トランプ大統領と習国家主席の間で2019年1月からの追加関税拡大については90日の猶予期間が設けられたが、それと同じ3カ月だ。

ファーウェイが根を上げるまでの時間が3カ月というのを見透かしているのかもしれない。ファーウェイと取引している米企業へのダメージを減らし、その間にプレッシャーを与えて譲歩を引き出そうというトランプ大統領らしいやり方だ。

どちらも引くに引けないチキンゲーム状態のなか、両者とも取引がある日本企業はしっかりとアンテナを張らなければ自社の業績を悪化させてしまうことは間違いない。