次代を担う外国人力士不足という「危機」 新たな外国人枠新設の提案

2019.6.19

社会

0コメント
次代を担う外国人力士不足という「危機」 新たな外国人枠新設の提案

写真/Victor Decolongon/Getty Images

令和初の大相撲は、平幕の朝乃山の初優勝で幕を閉じた。横綱白鵬の全休に始まり、新大関貴景勝の取組中のケガによる途中休場からの再出場、再休場。大関の豪栄道と高安の不調、栃ノ心は世紀の大誤審を乗り越えての大関復帰、そして米トランプ大統領の観戦と悪い話題の中に光明が見えるような、大荒れの夏場所だったように思う。ただ、この15日間で、令和の大相撲を揺るがしかねない大きな問題が進行していることを多くの方はご存じないだろう……。しかもそれは、不祥事ではないのだ。

皆、外国出身力士の優勝に慣れてしまった

朝乃山の初優勝というニュースは大きく報じられた。だが、このニュースは米トランプ大統領観戦よりは小さな扱いだった。

トランプ大統領が良くも悪くも(大体が悪い方ではあるが……)ニュースバリューがある存在であり、「レイワ、ワン」という表現に代表されるように一挙手一投足が注目され、朝乃山どころか大相撲そのものを完全に“食って”しまったということはある。ただ、それを差し引いたとしても、朝乃山の優勝というのは大相撲の枠の中で大きなニュースだったように思う。

朝乃山はかなりいい男で、大卒ではあるがキャリアも浅いために伸び代が期待できることに加えて、日本出身力士である。少し前ならば日本出身力士として、そして大相撲の次代の担い手としての期待が掛かるところではあるが、そういう次元にまで話が及ばない。過度な期待を背負わせないのはいいことのように映るが、そこまで話が及ばないのには理由がある。

一言で表すと、外国出身力士の優勝に“慣れてしまった”のだ。

日本人の優勝は、10年の空白を経て琴奨菊を皮切りに豪栄道、稀勢の里、御嶽海、そして弱冠22歳の貴景勝までもが成し遂げている。そして、期待の若手力士たちが貴景勝を除いて横綱はおろか大関にすら昇進していないのが実情だ。何よりここ数年の優勝は、世代交代の過渡期によるものであることを皆わかっているのである。

平成の大相撲は、外国出身力士の歴史だ。

小錦・曙・武蔵丸のハワイ勢と二子山部屋をはじめとする日本出身力士が対抗するという構図は、力が拮抗していたために大相撲人気が沸騰したが、その世代が衰えてからは朝青龍の時代だった。そして2003年前後のモンゴル出身力士や東欧系力士が大量入門して、平成後半の大相撲は外国出身力士たちが席巻することになった。

2006年に栃東が優勝してから、永らく日本出身力士は優勝から遠ざかった。朝青龍の独走に“待った”を掛けたのは、白鵬だった。朝青龍が度重なる不祥事で土俵を去るまでは2人の時代が続いた。国技館から日本出身力士の優勝額が消え、ようやく現れた稀勢の里は期待を背負いながら終盤に崩れて優勝を逃し続けた。

日本出身力士にとって優勝が悲願だったあの頃、毎場所のように白鵬が“壁”として君臨していた。白鵬が不調でも、そこには日馬富士がいた。鶴竜もいた。彼らが不調でも、把瑠都や照ノ富士が立ちはだかった。彼らが総崩れの最大のチャンスでさえ、平幕優勝を関脇の旭天鵬にさらわれたことすらあったのだ。

いつから外国人力士が増えたのか

時代的背景を考えると、大相撲の世界は一般社会に先駆けて人材不足に陥った。1976年生まれの世代の入門者が200人を超えたのをピークにその数は減少を続けて、ここ10年は80人程度で推移している。これは人口減少を理由に相対的に減少しているという下がり幅を遥かに超える数字だ。

サッカーやバスケットボールなどに代表される平成の人気スポーツの台頭により、スポーツエリートの獲得は困難になった。衛星放送の始まりと海外移籍により、人々が世界のスポーツに目を向ける時代が到来した。日本国内のスポーツリーグで頂点に立つことに価値を見出だす者は次第に減少し、巨人戦ですら地上波から姿を消した。

このような時代で、相撲部屋は担い手が少ないなか、質の高い力士を求めた結果、外国人力士のスカウトに走った。朝青龍や旭鷲山の活躍を見て、モンゴル人の中で大相撲という選択肢ができたことと時代的背景が重なり、モンゴル人力士が大量に入門するというトレンドが生まれた。そしてこの頃はまだ、東欧からの入門も多かった時代だ。それぞれの部屋に、将来性のあるハングリーな外国出身力士が在籍し始めた。

だが、外国人力士が台頭するようになったことで日本相撲協会は2002年に「外国人力士の採用は各部屋1人」という制限を掛け、さらに2010年には「外国人力士」を「外国出身力士」に変更して帰化した力士も含めて「外国人出身力士の採用は各部屋1人」としたため、外国人力士にとって大相撲の世界は狭き門になった。力士の引退を待つか、新しい部屋に入るか。いずれにしても入りたくても入れないという状況だ。それでも、狭き門を通過した彼らによる時代が続くのではないかと思われた。

だが、実際は違った。

有望な若手の不在、揺らぎ始めた外国人力士の文化

10年前に20人余りいた幕内在籍の外国人力士は、今は10人前後で落ち着いている。そして、幕内の下位の地位である十両についても同じく10人前後だ。現在在籍している外国人力士の総数が40人以下というなか、半数以上が関取というのはやはりすごいが、一方で課題もある。現在の外国人力士の分布を紐解いてみたい。

現在、横綱の外国人力士は、白鵬と鶴竜だ。大関は、名古屋場所から栃ノ心が復帰することになる。三役に定着している力士は初場所に優勝した玉鷲と230キロに迫る巨漢の逸ノ城がいる。だが、逸ノ城以外の力士はすべて30代だ。さらに幕内の上位に在籍する碧山も、現在帰化している魁聖も30代。幕内下位に目をやると20代半ばの千代翔馬と大翔鵬がいるが、上位にはまだ遠いのが実情である。

十両でさえほとんどが30代であり、若手といえるのは水戸龍と霧馬山くらいだ。彼らも徐々に力をつけているが、少し下の世代に貴景勝や阿武咲といった日本人力士がいて、すでに台頭している。

また、さらに下の世代に目を向けても夏場所に十両優勝を果たしてブレイク間近の貴源治と、幕下優勝を果たして十両昇進が決定した貴ノ富士もいる。下を見れば琴櫻の孫の琴ノ若や貴闘力の息子である納谷もいる。今のところ彼らに対抗できそうな若手外国人力士は朝青龍の甥である豊昇龍くらいだ。

つまり、平成を支えてきた外国人力士という文化がここに来て揺らいでいるのである。

今の時代は曙も白鵬も入門することは難しい

日本人力士も先に有望株を紹介したが、大関や横綱になるような速度で昇進している力士は今のところ貴景勝だけだ。最近の大相撲は、以前であれば衰えるような年齢の力士たちが実力を保てるように進化していることも事実。それ故に貴景勝以外の横綱・大関はほとんど30代だという実情があるが、若手力士の昇進スピードが総じて遅いというのは、逸材が成長できる状態で入門していないことを意味している。

現在の制度を考えてみると、ある程度致し方ない部分もある。外国人出身力士は各部屋1人という制約があり、しかも日本人力士は質量ともに不足している実情を考えると、ある程度実力と伸び代が期待できる力士を欲しいと考えるのは自然なことだ。すると相撲に親和性があり、かつ日本文化にも親しんだ経験もある、日本のアマチュア相撲の経験と日本滞在経験のあるモンゴル人力士を獲得する方向で動くことになるわけである。

日本のアマチュア相撲を経由した力士で規格外の相撲を取る力士は少ない。相撲の型を覚えた分だけ、彼らは上手い相撲を取ることができる。しかも運動能力に優れているので、総合力の高さで幕内十両に安定して昇進することになる。ただ、そこから伸びることがなかなか難しい。

実際、彼らの中で曙や朝青龍、白鵬ほどのスピードで伸びた力士はこの10年でほとんどいない。大関に昇進した照ノ富士と、三役に定着している逸ノ城くらいだろう。彼らが安定して強さを発揮しているのは間違いない。だが、大相撲の顔になれる逸材がこのルートでは発掘できなかったこともまた事実なのである。

考えてみると小錦も曙も武蔵丸も白鵬も日馬富士も鶴竜も、来日してから本格的に相撲に取り組んだ力士たちである。彼らのような潜在能力があり、それぞれがそれぞれの長所に合わせた規格外の相撲を身につけたからこそ、圧倒的な成績を残すことができたのだ。

相撲未経験の外国人枠を新設したらどうか

日本人力士さえ若乃花以降、稀勢の里が横綱に昇進するまでに19年を要した。日本人力士も外国人力士も質が低下するなか、次代を担う力士は、指をくわえて見ているだけでは出現しないことは明白だ。

それでは、今の時代に曙や白鵬を入門させるにはどうすればいいか。

一つの案としては、外国人力士の入門制限を緩和することだ。1人しか入れないからこそ計算できる力士をスカウトしている実情があるのだから、潜在能力が高く相撲経験の無い力士にも門戸を開くようにすることが現実的な対策といえるだろう。

ただ、これをするにはリスクがある。外国人力士に対する教育の問題だ。過去には薬物で角界を追放された力士もいたし、無免許運転をした力士もいた。八百長問題を起こした力士も暴力問題で力士としてのキャリアを終えた力士もいた。

これらは外国人力士に限ったことではないが、処分を受けた力士の割合で見るとその比率が日本人力士よりも高かったことも事実。彼らを受け入れるのであれば罪作りになるようなことは未然に防ぐべきではないかと思う。ただ、文化的背景の異なる力士に向き合うことを考慮すると、やみくもにスカウトしたのでは管理しきれなくなるリスクが向上してしまう。どこかで制限を設けるのが現実的なところだろう。

そこで一つ考えたのが、旧来の1人枠に加えて相撲未経験の外国人枠を1人分新設してはどうか、ということである。相撲未経験の“金の卵”とともに部屋としても成長していくことを目的とするならば、まずはこの辺りから始めて、実績ができてきたら枠を拡大するというのが過去の事例を踏まえた現実的なラインなのではないかと思う。

日本人力士も外国人力士も質量ともに不足しているなかで、相撲協会は手を打たねばならない時期に来ていることは間違いない。貴乃花引退後、一向に改革の進まない相撲協会がいつ動くのかはわからないが、数年前の不祥事の際に代表されるように歴史上外圧が無ければ改革が進まない組織であることは間違いないので、私は事あるたびにこの問題について取り上げていこうと思う。