実は日本こそMMT(現代貨幣理論)を体現する国?

2019.7.25

経済

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実は日本こそMMT(現代貨幣理論)を体現する国?

最近、MMT(現代貨幣理論)が注目されている。現在の日本は、一般会計歳出総額が過去最大を更新していることから積極財政に見えるが、国債発行額も増えており、プライマリーバランスの黒字化や10月に予定されている消費税増税は緊縮の面があるため、財政的にアクセルとブレーキを同時に踏んでいる状態ともいえる。MMTが掲げる理論は「財政赤字はインフレになるまで問題なし」という極端なもので、日銀総裁や財務相は否定的なものの、実は日本こそMMTを体現しているという見方もされる。世界が注目する異端の経済理論とはどんなものだろうか?

欧米を中心に賛否入り乱れの世界的ムーブメントに

アメリカ大統領選挙を控え議論が沸騰しはじめたのが現代貨幣理論「MMT(モダン・マネー・セオリー)」だ。

この理論を提唱しているのはニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授などの経済学者で、政治家では民主党の大統領候補にふたたび名乗りを上げたバーニー・サンダース上院議員や昨年11月の中間選挙で当選し、史上最年少の米女性下院議員として一躍時の人となったオカシオ・コルテス議員などがいる。ちなみに、ケルトン教授は両議員の主要な経済ブレーンでもある。

MMTの理論を平易にいえば、「独自の通貨を持つ国の政府は、通貨を限度なく発行できるため、デフォルト(債務不履行)に陥ることなく、政府債務残高をどれだけ増加させても問題ない」という考え方だ。一見暴論と映るが、「EU(欧州連合)から緊縮財政を強いられ、苦境に喘ぐギリシャなど欧州の一部ではMMT理論を支持する動きが見られる」(エコノミスト)など、世界的なムーブメントとなっている。

これに対し、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は「自国通貨での借り入れが可能な国にとって赤字は問題ないという人もいるが、私は間違っていると思う」と明確に反対している。また、ハーバード大のケネス・ロゴフ教授は、「経済理論とすら呼べない」と酷評しており、ローレンス・サマーズ元米財務長官にいたってはMMTが国債の無限増発を容認していることから「フリーランチ(ただ飯)」とまでこき下ろしている。

異端の経済理論がなぜ、いま再び注目されているのか

先の参院選で、消費税廃止、奨学金徳政令(チャラ)等の公約を掲げ2議席を獲得したれいわ新撰組(党首:山本太郎氏)は、財源として法人税の増税とともに新規国債の増発を謳っており、MMTのムーブメントが追い風になった面もある。「どうせ選挙のときだけ」とポピュリズム批判もあるが、“今っぽさ”を感じさせる打ち出し方ではあった。

MMTをポピュリズム政策と退けるのは簡単ではない。MMTは、ケルトン氏など数人の学者が30年近くをかけて構築してきた理論で、1990年代に最初に提唱された。その後、“異端の経済理論”としてお蔵入りしたように見えたが、来年の米大統領選を控え再浮上した。その歴史的な背景を考慮する必要があろう。“時代がMMTを求めている”という側面は見逃せない。

MMTの伝道者ともいえるケルトン教授、その理論をもって大統領選に打ってでたサンダース議員、そしてサンダース議員を支援するヒスパニック系アメリカ人女性で元ウェイターのオカシオ・コルテス議員が揃って訴えるのが、「富の偏在と格差の拡大」という資本主義の病巣にほかならない。

学生や女性に絶大なる人気を誇るオカシオ・コルテス議員が提唱する「グリーン・ニューディール」は、10年以内に再生可能エネルギーへ完全に転換し、国民皆保険制度を導入し、学生ローンの徳政令を実施するという内容だ。その財源としてMMTによる財政出動が位置付けられている。

国債を大量発行し異次元緩和で国債の大量購入を続ける日本は…

翻って、日本におけるMMTの評価はどうか。日銀の黒田東彦総裁は「財政赤字や債務残高を考慮しない考え方は極端な主張で、なかなか受け入れられない」と否定的で、麻生太郎副総理兼財務相は「財政規律がなくなる」と警戒感を示している。しかし、国債を大量発行し、GDPの2倍を超す赤字を抱えながら、異次元緩和で国債の大量購入を続け、超低金利を続ける日本は、あたかもMMTを実施している先駆者のようにも映る。

実際、ケルトン教授は、「政府債務は過去の財政赤字の単なる歴史的記録だ」とし、この理論を実証してきた日本を“成功例”として挙げている。そのケルトン氏は7月16日に東京都内で開催されたMMTをテーマとしたシンポジウムで講演し、「財政赤字は悪でも恐怖でもない」と強調。日本が10月に予定している消費増税を「適切な政策ではない」と批判した。

果たしてMMTは亡国の経済理論なのか、それとも救国の経済理論なのか、皮肉にもその答えは日本の行く末によって証明されるかも知れない。