ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の不適切販売の問題が発覚し、日本郵政グループのガバナンスが問われている。7月10日の謝罪会見以降、日本郵政株は7月23日までに9営業日連続で下落し上場来安値を更新。不祥事が発覚したのは金融庁が日本郵政グループのガバナンスに切り込んだ結果だが、SNS箝口令が敷かれるほどの内部告発の多さからしても問題の根は深そうだ。
高齢者ら契約者に不利益を与える保険10万件超を販売
日本郵政グループをめぐる不祥事が立て続けに露呈した。
6月下旬、ゆうちょ銀で勧誘時に健康確認を怠るなど、不適切な手続きで高齢者などに投資信託を販売していたことが明らかになった。不適正な販売は約230ある直営店のうち実に約9割の店で行われており、社内ルールに抵触したケースは1万5000件以上に及んでいる。
また、かんぽ生命でも新旧契約の重複加入による保険金の二重徴収や顧客を一時的に無保険の状態に置くなどこれまでに10万件を超す契約で顧客に不利益を与えた可能性が指摘されている。
7月10日には、日本郵便とかんぽ生命のトップが揃って記者会見し謝罪。当面の間(7~8月)は積極的な営業を自粛するとともに、かんぽ生命の2900万件に上るすべての契約者に手紙を出し、契約内容が意向に沿っているか確認する。その上で意向の沿っていない契約については、契約の取り消しや保険金の返還に応じるという。
両社は早期に第三者員会を設置し、社内の調査結果を年内に経過報告するとしており、調査が進むにつれ不適切な販売件数はさらに拡大する可能性がある。
過剰なノルマ、星の数で社員の階層を区分するやり方も
こうした一連の不適切な販売の背景には過剰なノルマと営業を奨励する手当があることは明らかで、日本郵便の横山邦男社長は、超低金利など販売環境が変化しているにもかかわらず「営業推進体制が旧態依然のままだった」と謝罪した。
郵便局の支店では、各店独自の評価制度があり、中には販売実績に応じて社員を星の数で5段階に分け、優秀な成績者は旅行やパーティーに招かれる一方、成績が振るわない社員は研修受講が課されるところもあった。星の数で社員の階層を区分するやり方は、かつての日本陸軍の階級制を彷彿とさせる。
日本郵政グループではこれらノルマや手当を廃止する意向である。しかし、より根本的な問題は、なぜそうした過剰なノルマと手当が長く温存されてきたかという点であろう。そこには、郵政省から日本郵政公社そして日本郵政へと政治に翻弄され、強引な民営化が推し進められた歴史的な経緯が影を落としていると言っていい。
郵便局は民営化が進められながら、全国でサービスを維持するユニバーサルサービスが義務付けられている。かつ、業務範囲は制限されながら政治的意図によって限度額は相次いで引き上げられる。まさに日本郵政は経営のジレンマを抱えたままの状態で走っている。ガバナンス改善の最大の処方箋は、皮肉ながらできるだけ早く国が日本郵政グループの株式を放出し、完全民営化を実現することかも知れない。
金融庁の遠藤俊英長官は昨年9月、2018年事務年度の「金融行政方針」に、「日本郵政におけるガバナンスの発揮が重要である。こうした観点から、ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険の経営方針の実現に向けた日本郵政のガバナンスの発揮状況についてモニタリングを行う」と、ガバナンスに切り込む姿勢を鮮明にしたのも、同様の問題意識であろう。
今回の不適切は販売実態が露呈したのは、こうした金融庁の切り込みによる結果であろう。金融庁はかんぽ生命や郵便局の募集人(契約の募集を行う者)の行為が保険業法に抵触するかどうか慎重に調査し、必要であれば業務改善命令等を発出する意向だ。
業績への影響は深刻
日本郵政グループでは、内部告発も多発していることから、かんぽ生命を販売する日本郵便では11日付けで全社員に対してSNSなどで社内情報の書き込みを禁止する通知を文書で出したことが明らかになっている。しかしその結果、SNSでは経営陣に対するさらなる批判が噴出。手が付けられない状況になっている。
営業の自粛や不適切販売の補填などのコスト増による業績への影響は深刻だ。一方、営業の現場ではインセンティブとなってきた手当の廃止に対する抵抗感は根強い。国が進める日本郵政の株式売却や日本郵政によるゆうちょ銀、かんぽ生命の株式売却への影響は避けられないだろう。