有権者の意識低迷目立った参院選 与野党ともに“期待”させる政党になれるか
2019.7.23
0コメント写真/Tomohiro Ohsumi
参議院通常選挙が7月21日に投開票され、与党である自民、公明両党で改選議席の過半数を上回る71議席を獲得して勝利。ただ、与党に日本維新の会など憲法改正に前向きな勢力を加えた“改憲勢力”は参院全体の3分の2議席を割り込み、安倍晋三首相が意欲を見せる任期中の改憲は大きく遠のいた。また、有権者の政治に対する意識の低さも目立った今回の参院選。48.8%という史上2番目の低投票率を、政治家は重く受け止めなければならない。
与党勝利も改憲勢力3分の2割れ、国民民主の取り込み狙う
今回の参院選で注目されたのは4つの数字。1つ目は首相が目標に掲げた「53議席獲得=与党で非改選を含めた過半数」、2つ目は与党幹部が目標に掲げた「63議席獲得=与党で改選数の過半数」、3つめは衆参両院で改憲の発議が可能となる「85議席獲得=改憲勢力で3分の2」、そして最後が「野党各党の比例代表の獲得議席数」だ。このうち、首相と与党幹部が目標に掲げた2つの目標は大きく上回ったが、最初から低いハードルだったので当然といえば当然。むしろ、最も注目だったのは3つ目の数字だ。
安倍首相が意欲を燃やす憲法改正の実現には、最低条件として衆参両院で3分の2以上の議員の賛成を得る必要がある。与党は過去2回の参院選で大勝したことにより、選挙前の時点で参院の3分の2議席を確保していたが、今回の選挙で自公与党と改憲勢力とされる日本維新の会が獲得した議席は81。自公維の非改選と改憲に前向きな無所属議員を含めた79議席を足しても160となり、3分の2以上となる164議席を割り込んだ。
選挙結果を受けて、首相は21日夜のテレビ番組で「期限ありきではないが私の任期中に何とか実現したい」と引き続き改憲に意欲を示した。首相の自民党総裁としての任期は2021年9月まで。実際、任期中に改憲を実現するとなれば来年末か2021年春までに衆参両院で3分の2以上の賛成を得て憲法改正を発議し、60~180日の周知期間を経て秋までに国民投票を行わなければならない。
首相は衆参両院で3分の2以上の賛同を得るため、国民民主党などとの連携に意欲を示すが、国民民主内も意見が分かれており短期間で賛同を得るのは難しい。改憲に前向きな議員を“一本釣り”するのにも時間がかかる。首相が意欲を見せる憲法9条改正には与党内にも異論があり、任期中の改憲の実現は大きく遠ざかった。与党内ではさらなる総裁任期の延長を求める「総裁4選論」も出ているが、首相は21日のテレビ番組で党総裁4選に「まったく考えていない」と否定した。
参院選の翌22日の首相会見では、与党で改選過半数を獲得したことに触れ「少なくとも議論は行うべきである。それが国民の審判だ」と与野党による幅広い憲法論議を呼びかけた。それに対し公明党の山口那津男代表は、「(選挙)結果を改憲について論議すべきだと受け取るのは少し強引だ」と慎重な姿勢を示している。改憲への前途は多難だ。
“諸派”議席獲得、頭打ち感のある野党は再編へ?
注目の4つ目の数字である「野党各党の比例代表の獲得議席数」は、立憲民主党が8議席で最多。事前予測では10議席前後とみられていたが、伸び悩んだ格好だ。同じ民主党系の国民民主党は3議席。両党を合計すると11議席で、前回2016年の参院選で両党の前身である民進党が獲得した議席数と同じだった。一時は立憲民主が勢いを見せていたが、結局は「安倍一強」を崩せるほど有権者の期待を集めきれていないことがわかる。
その他の野党は共産党が前回より1少ない4議席、日本維新の会が1多い5議席、社民党が前回と同じ1議席だった。社民党は政党要件を失いかねない瀬戸際だったが、今回の比例区で得票率が2%を上回り、かろうじて要件を満たした。
参院議員だった山本太郎氏が立ち上げ、インターネットなどで注目を集めた諸派の「れいわ新選組」は比例区で特定枠(個人の得票にかかわらず優先的に議席が得られる)に登載した2議席を獲得し、得票率も2%を上回って政党要件を満たした。比例区で3議席目に立候補していた代表の山本氏は落選。れいわは今後、政党扱いとなるが“党の顔”が議員ではなくなったことで今後の活動に不透明感が漂う。ただ、山本氏は次期衆院選への立候補を示唆している。
同じ諸派でNHKの受信料に反対する「NHKから国民を守る党」(N国)も比例区で1議席を獲得し、代表の立花孝志氏が当選した。N国も政党要件を満たした。諸派が比例で議席を得るのは現行制度で初めてとなった。
選挙結果を受け、比例区で3議席にとどまった国民民主党では危機感が強まりそうだ。立憲民主党の比例での得票率が15%強だったのに対し、国民民主党は約7%。支持率の低迷で参院選前から立憲民主に鞍替えする動きがあったが、今後、こうした動きが加速する可能性がある。
ただ、立憲民主も議席を大幅に伸ばしたとはいえ、当初の期待ほどではなかった。党内で勝敗ラインとみていた20議席も下回り、勢いが頭打ちにあることが明白となった。野党4党で共闘した一人区でも前回2016年(11勝21敗)を下回る10勝22敗。
立憲民主の枝野幸男代表は「連携をさらに強化して、次の総選挙では政権選択を迫れるような状況を作っていきたい」と述べ、立憲民主、国民民主、共産、社民、衆院会派の「社会保障を立て直す国民会議」の野党5党派による政権交代を目指す考えを示したが、一部の選挙区で立憲民主と競合した国民民主内には不満もくすぶる。野党内の駆け引きが今後、活発化する可能性がある。
過去2番目に低い投票率は、票を託したい政党が無いのが要因
4つの注目数字を見てきたが、最後にもう一つ注目すべき数字を挙げたい。それが48.8%という、史上2番目に低かった投票率だ。前回2016年参院選より約6ポイント下回り、24年ぶりに50%を割り込んだ。
これまでの最低は自民・社会・さきがけの連立政権下で、主だった争点が無かった1995年の44.5%。今回は九州で続く大雨の影響があったとはいえ、ここまで低かったのは有権者の関心が高まらなかったからに他ならない。野党が分裂し、政策の違いがわかりにくかったのも有権者の足を投票所から遠ざけた一因だろう。「安倍政権は積極的に支持できない、かといって票を託したい野党が無い」というのが棄権した多くの有権者の本音ではないだろうか。
安倍首相は21日のテレビ番組で「衆院解散は選択肢から外しているわけではない」と述べ、任期中の衆院解散の可能性に含みをもたせた。しかし、今のままでは何回選挙をやっても「安倍一強」を崩せそうにない。