長期にわたるデモは香港経済にどんな影響を与えるか 日本企業は続々出店

2019.09.04

社会

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デモと共存する香港経済 デモ隊

「逃亡犯条例」改正に端を発する香港のデモは6月以降、大規模化し、過激化や経済活動への影響が懸念されている。2019年9月4日、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は現状の打開を図るため条例案の完全撤回することを発表。ただ、5大要求のうちの1つを受け入れただけであり完全収束するかは不明だ。

 

みずほ銀行が2018年9月に発表した香港の投資環境資料によると、香港に地域統括本部(RHQ)を置く外資系企業は1413社(2017年6月末現在)にも上り、うち日系企業は233社とアメリカの283社に次ぐ第2位。25年連続で経済自由度ナンバーワンの香港だが、デモによって経済的環境はどのように変わっただろうか。

中国側の圧力で企業経営者の辞任も

「逃亡犯条例」改正に反対するデモの長期化によって、香港経済にも徐々に影響が出始めた。香港政府統計処は、8月19日、2019年5~7月の失業率(速報値)は前期(4~6月)比で0.1ポイント上昇し2.9%と発表した。観光業が大きなウエートを占める香港だが、ホテルや外食業界の失業率が上昇している。

また、同統計処は8月26日に2019年7月の貿易統計を発表しており、輸出総額は前年同月比5.7%減の3386億香港ドルだったと明らかにした。これには米中の貿易戦争の影響も含まれているが、ネガティブな数字が表れた。

不穏なものを感じるのはキャセイパシフィック航空のルパート・ホッグ最高経営責任者(CEO)が8月16日、辞任に追い込まれた件だ。中国民用航空局はキャセイに対して、違法デモ活動に参加した職員を中国本土のフライトに勤務させないようにすることや、乗務員の身辺情報を提供するように要求。それ対しキャセイは中国当局の要求をほぼ受け入れ、当該職員は解雇、さらにホッグ氏自身は辞任することで混乱の責任を取ったかたちだ。

香港上海銀行(HSBC)のジョン・フリントCEOも8月5日に就任からわずか18カ月で辞任。HSBCの筆頭株主は中国最大手の保険会社の一つ中国平安保険の子会社の中国平安アセットマネジメントだが、同社との関係性でHSBCが望まないようなことが起こったと噂されるほか、ファーウェイの副会長逮捕に関連する情報をアメリカに提供したといわれるなど、対中ビジネスのリスクが表面化した。

デモの傍らで日系企業の進出が相次ぐ

冒頭に日系企業が地域統括本部を香港に多く置いていると書いたように、日系企業にとって香港はビジネスをする場所として魅力的な街だ。

デモ真っただ中の7月12日、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、香港1号店を出した。また、回転すし大手の「スシロー」が8月25日にグランドオープン。牛丼チェーン大手の「すき家」は年内に香港店をオープンさせる方針で、ドラッグストア大手の「マツモトキヨシ」も香港で出店準備に入ったことを発表している。ほかにも、ラーメン店の「鬼金棒」、天丼の「金子半之助」といった外食店も次々にオープンしている。

デモと共存する香港経済 ドン・キホーテ
ドン・キホーテの香港店は「Don Don Donki」という名前で進出。
デモと共存する香港経済 スシロー
香港のスシロー。

また、2019年8月15日~19日までは香港コンベンション&エキシビション・センターで「Food Expo2019」が開催され、吉川貴盛農林水産大臣がデモ中にもかかわらず香港を訪れた。この展示会には「ジャパン・パビリオン」というブースが設けられており、このパビリオン運営の中心である日本貿易振興機構(JETRO)の担当者は「(デモの影響で)来場者は確かに減りました。ですが、真剣にビジネスをしたい人は来場しています。売上は前年とほぼ同じです」と手応えを感じていた。

デモと共存する香港経済 吉川貴盛農林水産大臣
「Food Expo」での吉川貴盛農林水産大臣。

香港の人口は約750万人だが、2018年には、その約3割におよぶ約220万人の香港人が日本を訪れている。さらに、10回以上日本を訪れたことのある香港人は2割以上おり、日本に対する“リテラシー”は高い。

アメリカは日本にとって大きな市場だが、商品を紹介するときにゼロから丁寧に説明をしなければならないケースも少なくない。しかし、香港市民は例えば、「あまおう」といえばイチゴの品種であり、福岡が名産地であることも知っている。こういった環境は進出する企業にとって魅力的なのがわかるだろう。

今後の香港がどうなっていくのかは不透明なところはあるが、デモ収束後の社会構造がこれまでの香港と同じであれば、この傾向が止まることはまずないだろう。

平和裏と過激の間で揺れ動くデモ隊

時を追うごとに過激になったデモ隊の行動について香港市民はある程度寛容で、テレビでは過激な部分が報道されるものの、8月12日の警察の会見では「8月11日は過激なデモを率いる指導者15人を逮捕した」と答えているように、最大200万人というデモ参加者全体から見れば過激派はほんの一部であることも指摘しておきたい。

デモと共存する香港経済 女装グッズ
地下鉄の券売機の上に無造作に置かれた服。デモ隊の身分を隠すため女装してもらおうというサポート隊のアイデア。

ただ、8月13日に香港国際空港で行った座り込みは、やり方を誤ったと言わざるを得ない。何百という便が欠航し香港を出発する人に大きな影響を与えたためで、これにはさすがに寛容だった香港市民も首を傾げた。しかも、夜には警察との衝突も起きている。

その後のデモは、平和裏に行われるものと警察と衝突するものを繰り返しながら続いている。

長く続くデモということもあり、デモが与える効果については悩ましいところがある。過激なデモの後に行う平和的なデモは間違いなく素晴らしいと言えるが、香港政府に与えるプレッシャーは下がってしまう。再びデモを過激化すれば政府にプレッシャーを与えられるが、度が過ぎれば市民の支持を失う恐れがある。過激なデモ隊にとってはジレンマだ。

ただ、8月25日以降の動きを見ていると、若さゆえか圧力レベルを引き上げる方向を選んだように見える。政府の不誠実な対応が呼び起こした自業自得の状況とはいえ、あいにく、政府や有識者側にデモを収束させる妙案を持っている人は誰もいない。

香港人が日本語で作成してレノンウォールに張ったポスター。

デモと共存する香港人

条例案の撤回は、あくまでデモの参加者が求める「5大要求」の一つであり、かつすでに廃案になっていることから効果のほどは限定的だ。5つの要求で1セットと考える香港市民は多く、これでデモ活動が収束するかどうかは不明だ。

香港デモ5大要求

  1. 「逃亡犯条例」改正案の完全撤回
  2. デモの“暴動”認定の取り消し
  3. 逮捕されたデモ参加者の釈放と不起訴処分
  4. 警察の暴力に関する独立調査委員会の設置
  5. 行政庁長官選挙、立法会議会選挙について普通選挙の実現

香港市民のすごさは日常生活においてはデモの影響をまったく感じさせないことにある。普通に働き、普通に買い物をして、普通に遊ぶ。休日や夜にデモがあれば参加する人もいるが、それが自身の生活に悪影響を及ぼすことはない。このたくましさがあれば、今後何があっても乗り越えられるのではないか――そう感じずにはいられない。

(更新:2019.9.5)