財政検証が明らかにした年金100年安心プランの終わり 制度改正は厚生年金適用拡大が焦点

2019.09.04

経済

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財政検証が明らかにした年金100年安心プランの終わり

写真/StreetVJ / Shutterstock.com

8月27日、厚生労働省は公的年金の財政見通し(財政検証)を公表した。将来、年金がいくらもらえるかについて“6つのシナリオ”が提示されたが、大部分が政府を支持するためかのような楽観的なものだと言わざるを得ない。どういう数字を並べようが従来の年金制度のままでは近く行き詰まることは明白で、今後の社会保障を考えるにあたり見直しは絶対に必要。次の組閣で社会保障改革の司令塔となる担当閣僚ポストを新設するというが、現実的な解決策は出てくるだろうか。

前回検証より悪化も、政府が約束する50%は維持

安倍晋三首相は9月11日に内閣改造・自民党役員人事を行う。この中で社会保障改革の司令塔となる担当閣僚ポストを新設する予定だ。同時に社会保障のあり方を議論する有識者会議を創設する方針である。「団塊世代が75歳以上の後期高齢者になりはじめ公費支出が急増する2022年を見据え、医療費や年金制度の見直しなどが中心テーマになろう」(自民党関係者)という。

社会保障費は今や一般会計の約3割超を占め、最大の政策経費になっている。その社会保障費の中で最も注目されているのが年金制度の見直しだ。ちょうど今年は5年に1回の年金の財政検証が行われる応答年にあたり、その結果が8月27日に公表されたばかりだ。

財政検証は、経済や人口の先行きに一定の前提を置いて、年金財政への影響や給付水準の変化を試算するもので、公的年金の“定期健診”と言っていい。今回は経済前提の異なる6つのケースを想定して2115年までを見通した。

試算する際のモデルは、夫が会社員で60歳まで厚生年金に加入し、妻が専業主婦の世帯。年金を受給しはじめる65歳の時点の「所得代替率」が将来どう推移するかが計算されている。

「所得代替率」とは現役世代の男性の平均手取り収入(ボーナス込み)に対する、夫婦2人の基礎年金と夫の厚生年金を足した年金額の割合で、政府は長期にわたって所得代替率50%以上を確保することを目標にしている。ちなみに、2019年度の所得代替率は61.7%である。

財政検証で示された6つのケースは、経済成長率に応じて、最良の0.9%成長のケースで所得代替率は51.9%となる。0.2%成長のケースで同46.5%と目標の50%を割り込み、最悪のマイナス成長のケースでは同36~38%に沈む。5年前の前回検証よりも状況は悪化している。

何においても将来の見通しを立てることは必要だろう。しかし、そもそもモデル世帯が現状の家族のあり方と乖離していることや、100年後を見通すことなど無理な話で、意味があることなのかどうかの疑問は残る。

最大の焦点はオプション試算に基づく制度改正

「(今回の財政検証では)オプション試算がポイントだ」

自民党の小泉進次郎・厚生労働部会長は、財政検証を受けこう答えた。

オプション試算とは、厚生年金保険の対象外であるパート・アルバイト等で働く人が、将来、低年金者になるのを避けるため、厚生年金を適用する労働者を拡大することについて試算したもの。現状の加入条件を緩和する度合別に3つの仮定を置いて、それぞれどの程度、所得代替率を押し上げるかが試算されている。

現在、パートタイマー・アルバイト等の短期労働者に対する厚生年金保険の適用条件は、[1]従業員501人以上の企業に勤める[2]労働時間が週20時間以上[3]月額賃金が8万8000円以上――などとなっている。

オプション試算では、これらの適用条件を、企業規模の要件を廃止した場合(125万人増)、企業規模の要件に加えて賃金要件も無くした場合(325万人増)、さらに、月収5万8000円以上の労働者すべてに広げた場合(1050万人増)について試算。

いずれのケースも年金財政は大幅に改善される。政府は年末までに年金改革の具体案をまとめる予定だが、その最大の焦点はこのオプション試算に基づく制度改正と見ていい。ただ、保険料を負担する企業の中には制度改正が死活問題になる場合も考えられるため、安易な適用拡大は経済に打撃を与えることにもなりかねず、慎重な議論が必要だ。

GPIFの運用益でどこまで支えられるかは不明

ではなぜ、こうした苦肉の策ともいえる見直しが必要なのか。答えは簡単で、「このままでは日本の年金制度は破綻する」からである。

日本では働く現役世代の掛け金でリタイヤした高齢者の年金支給を賄う「賦課方式」が採用されている。つまり世代間の相互扶助が基本精神だ。

公的年金制度は“保険”であり、民間の貯蓄商品とは異なる位置づけだ。だが、移民を受け入れず、人口減少が世界最速のスピードで進む日本では、賦課方式は早晩、行き詰る。その綻びを取り繕うために、公的年金の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の株式等のリスク資産への運用比率は2014年に50%まで引き上げられている。

危ない橋を渡って運用益を上げなければ公的年金を維持できないようでは、日本の年金制度はすでに構造的に破綻しているといっても過言ではなかろう。実際問題として、ここにきての米中経済戦争の影響等から、世界的に市場が混乱、GPIFの運用も大きなマイナス圧力が加わっている。

新設の社会保障担当相や有識者会議では何を議論するのか

しかし、年金制度を抜本的に見直すことは難しい。仮に「賦課方式」を改め、若い現役世代に払い込んだ年金を積み立て、老後にその資金を受け取る「積立方式」に変更しようとした場合、一旦、旧勘定である現在の賦課方式の年金を閉じ、新勘定となる積立方式の年金をスタートすることになるが、その移行に際して、旧勘定を時価評価すれば、少なくとも500~800兆円もの巨額な欠損が顕在化すると指摘される。すでに現状の年金制度は大きな穴が開いているわけだ。

税金投入は避けられず、責任問題に波及する。これを断行する政治家が現れない以上、結局、現状のまま賦課方式を続けるしかない。減少していくとはいえ、ニューマネーの掛け金が入り、資金が回っている限り破綻は先送りできるためだ。

厚生労働省は2004年の年金制度改革で、社会情勢に合わせて年金の給付水準を自動的に調整する「マクロ経済スライド」を導入し、当時の自公与党は小泉政権下で「年金100年安心プラン」を掲げ、今後100年間は、現役世代の収入の50%程度の年金は保証することを明言した。

構造的に破綻しているのに、所得代替率50%程度の年金を確保するためには、掛け金を引き上げるか、給付額を引き下げるか、パートや非正規労働者など加入者の範囲を広げるか、支給開始年齢を引き上げるしかない。今回の財政検証で明らかになったのはまさにこの点で、冒頭の社会保障担当相の新設や有識者会議の創設はその布石にほかならない。