「グリーンランド買いたい」バカげた買い物を提案した米トランプ大統領

写真/ホワイトハウス

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「グリーンランド買いたい」バカげた買い物を提案した米トランプ大統領の真意

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毎度お騒がせの“爆弾発言男”、米トランプ大統領が突然、極北にある世界最大の島・グリーンランドを「欲しい」と言い出し世界を慌てさせた。8割以上が氷で覆われた人口6万人足らずのこの極寒の地を、なぜ今? その思惑の背景には、やはりあの大国との覇権争いが隠れているようで……。

米トランプ大統領のバカげた買い物提案にデンマーク首脳が憤慨

2019年8月18日、デンマーク訪問を前にしたトランプ氏は「(グリーンランド買収を)政権内で協議している」「戦略的に興味がある」などと放言、「本質的に大きな不動産取引だ」と家業も絡めたアメリカン・ジョーク(?)も披露した。

この島を領有しNATO(北大西洋条約機構)にも加盟するアメリカの同盟国・デンマークにとってこの発言はまさに青天の霹靂で、同国のメッテ・フレデリクセン首相は「バカげている」と一蹴、キム・キールセン・グリーンランド自治政府首相も「売りに出してない」と、エスプリを効かせて回答。拒否されるのは当然だろう。

だがトランプ氏にとっては想定外だったのか、「(フレデリクセン首相は)話し合う気はないようなので」とへそを曲げ、何とデンマーク訪問自体を延期、さらに「『バカげている』とは許さない」と逆ギレした。

なぜ急に「グリーンランドが欲しい」と言い出したのか

グリーンランドはカナダ北東部にあり、面積は約216.7万km²で日本の6倍弱、オーストラリア大陸のざっと3分の1という広さを誇る。大半が北極圏内にあり地面の8割は厚さ1000m以上の氷に埋もれる不毛の地で人口も6万人足らず。1700年代にデンマークによる本格的な植民化が行われ、20世紀前半に同国が何とか島全体を支配下に置く。

その後、1979年に自治権を確立するが、自治の範囲は世界にある他の「非自治地域(海外領土)」と比べてもかなり先進的。2003年には防衛・安全保障分野で一定の発言権が認められ、2009年には何と自立法も制定、基本的にいつでも本国デンマークから独立できるという。ただ現状では人口と税収が少な過ぎて自立できないとのこと。

さて、ではトランプ氏はなぜ急に「グリーンランドが欲しい」と言い出したのだろうか。その理由として多くのメディアは、

  1. 経済的価値:豊富なレアアースや海底油田が眠る
  2. 北極海航路:温暖化で航行可能となった北極海域での覇権
  3. 中国への牽制:「一帯一路」構想と絡めて同島の交通インフラ建設や資源開発に触手を伸ばす中国への牽制

の3点を挙げる。だが、これらはむしろ“二の次”の理由で、

  1. ロシア・プーチン政権に対する「核ミサイル開発への牽制」
  2. デンマーク本国に対する圧力

の2点がどうやら“本丸”ではないか。というのも、「グリーンランド買収」発言の日が、絶妙なタイミング、つまり2019年8月18日だからだ。

ロシアの原子力巡航ミサイル実験に対する挑戦状?

何が絶妙なのか。まず、「ロシアが条約に違反して巡航ミサイル開発を進めている」とトランプ氏が怒り、2019年2月にロシアとの間で交わしていたINF(中距離核戦力)全廃条約の破棄を宣言。そして半年後の8月2日に同条約から正式に離脱した。

すると偶然にも間髪入れぬ8月8日、ロシアで謎の大爆発事故が発生し大量の放射性物質が放出された。これに対しトランプ氏は「スカイフォール(9M730ブレヴェスニク)の試験中の事故だ」とネット上で懸念を表明。

SSC-X-9スカイフォールは原子炉を搭載した“超長距離”巡航ミサイルで射程は事実上無限。しかも飛翔コースが放物線を描く既存の弾道ミサイルとは異なり、巡航ミサイルは予期せぬコースを選べるため、現在アメリカが装備する各種迎撃ミサイルでは撃墜は極めて困難だといわれている。もちろん核弾頭も搭載可能だ。

つまり、一見突飛に思える「グリーンランド買収」発言は、こうしたロシア側の核開発競争の“挑戦状”に対し、「受けて立とうではないか」というメッセージを込めたものだったのではないだろうか。

グリーンランドは、アメリカとロシアの中間にある

北極点を中心に描いた正距方位図法の地図(先の地図は違うが)を見ればわかるが、グリーンランドはちょうどワシントン~モスクワの中間にあり、万が一、米ロ両国が核戦争に陥れば、この島の上空は双方のICBM(大陸間弾道ミサイル)が飛び交う主戦場となる。

実際アメリカは同島の北西部にチューレ空軍基地を構築、冷戦時代から弾道ミサイル早期警戒システム(BMEWS)用レーダーを置き旧ソ連/ロシアの動きを監視する。そのグリーンランドを買収して手元に置きたい、という意思表示をトランプ氏が見せたのだから、プーチン氏にとってはそれなりの圧力となったはずだ。

「グリーンランド買いたい」バカげた買い物を提案した米トランプ大統領の真意 チューレ基地
グリーンランドの北西部にあるチューレ基地。 写真/アメリカ空軍

一方、チューレ基地については、第2次大戦直後から、存続を望むアメリカ側と撤去を求めるデンマーク・グリーンランドとの確執が続いている。大国間の戦争に巻き込まれることを嫌うデンマークは、先の大戦直後に結成されたNATOに加盟したものの、平時には外国軍基地を置かない、という国是を表明、現在も本土に米軍基地などは無い。

だが前述のようにグリーンランドには米軍基地があり、矛盾する。加えて1950年代デンマークは国内に核兵器を持ち込まないという方針を打ち出したにもかかわらず、1968年にチューレ基地付近で水爆を搭載した米空軍のB-52爆撃機が墜落、放射性物質を撒き散らすという事故が発生。しかもこの事実は1995年まで極秘とされ、デンマークでは国を揺るがす大問題となったという複雑な経緯があり、もちろんグリーンランドの自治権問題にも深く関連している。

今後ロシアとの核開発競争が本格的となり、チューレ基地の重要性が再び増した場合、核兵器の持ち込みに関して、発言力を増したグリーンランド自治政府が「ノー」という可能性が高い。つまり、トランプ氏はデンマーク本国側に「何とかしろ」と暗に圧力をかけた……というのが、どうやら真相ではないだろうか。

極寒の地を舞台にした米ロの“鞘当て”がまさに始まろうとしている。