東京~大阪間で充電5回 大型トラックのEV化はまだまだ先か?

2019.11.5

技術・科学

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東京~大阪間で充電5回 大型トラックのEV化はまだまだ先か?

物流を担う大型トラックの将来的な駆動システムが何になるのか、というのはロジスティクスの最適化を考える面で大きな要素だ。乗用車の電気自動車(EV)は珍しくもないが、大型トラックの方向性はいまだ定まっていない。EV、ハイブリッド、燃料電池……各トラックメーカーが打ち出す“未来のトラック”の姿とは?

独フレートライナー社のEV大型トラック

「東京モーターショー2019」(TMS、10月24日~11月4日)と同時期の10月28日から、米国のアトランタで「北米商用車ショー2019」が開幕されたが、ここではドイツ、ダイムラー・グループ系列のフレートライナー社が放ったEV大型トラック「eカスケーダ」が話題をさらった。

バッテリー容量550kWh、最大出力730馬力、航続距離400㎞で、2021年の量産化を目指すという。乗用車や中小型トラック、バスのEV化はもはや真新しくもなく、残るは“実用化に耐えるEV大型トラックの出現”が待たれていただけに、「eカスケーダ」のインパクトは大きい。もちろん、“SDGs貢献企業”としてダイムラー・グループに対する世間、特に欧米の機関投資家(年金基金など)の評価は跳ね上がること間違いなしだろう。

国内トラックメーカーに大型EV化の予兆はなし@TMS

翻ってTMSに出展した日系トラックメーカー4社(いすゞ自動車、三菱ふそう、日野自動車、UDトラックス)はどうかというと、残念ながら“EV大型トラック”を全面アピールするブースはなかった。

例えば、いすゞはサメをモチーフにしたコンセプト・トラクター(トレーラー牽引車)、「FL-IR」を出品、「安心・安全で生き生きとした長距離ドライバーの新しい働き方」を謳い文句に、インターネットと常時接続しAIを駆使してネットワーク化も実現する「コネクテッド能力」や、隊列走行性能をアピール。2025年以以降の実用化を目指すという。

いすゞ「FL-IR」

また、日野自動車は大型トラックに関する“近未来カー”の展示はなく、代わりに「Transporting Every Happiness」のコンセプトのもと、汎用性の高い中小型トラック向け共通車体(プラットフォーム)「FlatFormer」を出品。

日野自動車「FlatFormer」

スウェーデン、ボルボ・グループ傘下のUDトラックス同社は、「INNOVATION FOR SMART LOGISTICS」をモチーフに、実用可能な「風神」「雷神」と、近い将来のコンセプト車両「Quon Concept 202X」を出展。「風神」は「L4自動運転車両」、「雷神」「ハイブリッド実験車両」でどちらも既存のQuon(クオン)がベース。「202X」はスマートロジスティクスに軸足を置いた味付けを重視、AIやディスプレイのパーソナライゼーション、カメラモニタライジング・システムなどを採用した点をアピール。

UDトラックス「Quon Concept 202X」

また、ドイツ・ダイムラー傘下の三菱ふそうは、大型トラックのコンセプトカー展示を行っておらず、中小トラックを対象にした将来FC(燃料電池)車「Vision F-CELL」を宣伝した。

三菱ふそう「Vision F-CELL」

現時点ではEVよりハイブリッドに軍配が

この件に関し、某トラックメーカー幹部は、こう耳打ちする。

「決まった短距離区間を往復する路線バスならEV化は十分現実的ですが、中小型はともかく、10t超の大型トラックやトラクター(トレーラー牽引車)の完全EV化はまだまだ先。もしかすればハイブリッド(HV)の方が、CO2削減のためのより現実的な回答かもしれません。

EVは1にも2にも費用対効果が悪すぎます。高速充電でも2~3時間、通常は一昼夜(約8時間)が必要で、おまけにリチウムイオン電池はまだまだ非常に高価。最新型の某HV式大型トラックに搭載の、縦横高さ各1m程度のリチウムイオン電池1個の値段はほぼ100万円で、これだけでは数十㎞の走行が限界」

前述の「eカスケーダ」の航続距離は400㎞だと謳うが、実際はこの半分、200㎞程度と見るのが無難。一方、現行の一般的な10t超ディーゼルトラックの航続距離は、軽油満タン(約400リットル)で1300㎞超程度なので東京~大阪間(500㎞)を無給油で往復できる。だが、EVの場合最低でも5回の充電が必須で、現実的でない。

大型トラックの将来の姿は、「電気自動車(EV)」か、「ハイブリッド(HV)」か、はたまた「燃料電池(FC)」か。まだまだ予断を許さない。