価格の適性化や生前見積りなど、革新的なサービスで葬儀業界に新たな流れをつくった葬儀社ティア(愛知)。1997年の創業以来、「日本で一番『ありがとう』と言われる葬儀社」を目指し、遺族の想いに寄り添った心に刻まれる葬儀を提案している。葬儀実績は年間約15000件以上(2017年10月〜2018年9月、FC含む)。創業以来、葬儀件数は例年増加しているが、どのような企業努力がなされているのか。その極意を2店舗の支配人を兼務する大門誠道さんに迫った。
葬儀の仕事は、遺族の話を聞くことから始まる
年会費や積立金不要の「ティアの会」の会員数は現在38万人。その再加入率(※)は96.2%を誇る。これらの数字は顧客の満足度に裏打ちされるが、「オンリーワンの葬儀」をモットーとした社員たちによる質の高いサービスへの評価でもある。
※「ティアの会」は1回の葬儀で1口分の会員特典が利用できる。「再加入」は一度特典を利用して効力が失われた後、再度入会金を支払って登録することを指す。
2店舗の支配人を務める大門さんは、セレモニーディレクターとして葬儀を担当する際、顧客との距離感を意識しながら遺族の心に寄り添う。
「ティアでは新人でも支配人でも、担当になったお客様の通夜・葬儀に全力で取り組みます。私たちは葬儀のプロです。お客様は最期のお別れの場にティアを選んでくださったのに、心のこもったサービスをお届けできなければプロ失格です。そのために大切にしているのはご遺族とのコミュニケーション。ご遺族のお話を聞きながら、丁寧にご要望をくみ取っていきます」(大門さん、以下同)
通夜・葬儀は一般的には2~3日。家族を亡くしたばかりの遺族とのコミュニケーションの機会は限られるが、短期間ながらも濃密な時間を過ごすなかで要望が見えてくることもある。実際、苦労して要望を聞き出した遺族からの「ありがとう」の言葉は、何よりモチベーションにつながると大門さんは語る。
ホスピタリティあふれるサービスは、社員の日々の研鑽とプロ意識から紡ぎだされる。
遺族の求めることに忠実に。その余白から「感動葬儀」が生まれる
「通夜・葬儀は最短で2日間。そこで故人様のすべてを知り尽くすのは、正直難しいことです。ご遺族の気持ちに立って考えると、悲しみの淵で故人様について根掘り葉掘り聞かれ、果たして答えられるのかと。そこで担当者ができるのは、着かず離れずの距離で心に寄り添うこと。ご遺族が何か相談したいときに近くにいる。
そのためのテクニックもマニュアルもありません。実際、ご遺族は足を運んでくださった参列者に失礼が無いよう、通夜・葬儀を何ごともなく進行してほしいという思いが第一です。『自分が大切な人が亡くなったと思いなさい』と、いつも社長の冨安が指導していますが、私たちがやれることはその言葉に集約されると思っています」
オンリーワンの葬儀はティアの真骨頂。しかし、経験値が上がるほど担当者は「感動葬儀」をつくり上げる難しさにぶつかるという。支配人でありながら、葬儀の現場にも立つ大門さんは、経験を重みながら「感動葬儀とは何か」を今も自問自答し続ける。
「ティアは『感動葬儀』で知られています。私も入社当時は“これ”をしたら感動してくれるのではないかと、さまざまなことをやってみました。でも、担当者がご遺族を感動させようと思っている時点で、それが過剰な演出になってしまう場合があります」
大門さんは、これ見よがしの演出は参列者の感情に水を差す可能性があり、最期のお別れにふさわしくないのではという考えにたどり着いた。
「通夜、葬儀の流れの中で、自然に生まれた言葉や行動が感動を生むと思っています。新人でもベテランでも、一所懸命やる、その姿にご遺族は感動してくださいます。もちろん、『感動葬儀』は担当者一人だけではつくれません。生花の担当者や霊柩車の運転手、お葬儀に携わる協力会社のサポートも不可欠です。だからこそ私たちは、ご遺族はもちろん、協力会社やスタッフ間とのコミュニケーションも大切にしながら、その2日間に全力を懸けています」
2、3日間の儀式に数十万~300万円という対価に見合ったサービスを提供する。「それはプレッシャーであり、やりがいでもある」と、大門さん。今も初心を大切に、すべての葬儀に謙虚な姿勢で取り組んでいる。
通夜・葬儀の施行におけるブレない芯を持つということ
大門さんは、施行においてはスタッフそれぞれがやりたいことをやるべきだという考えだ。成功体験や失敗の積み重ねが、セレモニーディレクターとしての成長につながる。
「葬儀の施行で宗教上のことや進行で覚えなければいけないことはありますが、時間とそれさえ守れば、葬儀のマルバツはないと思っています。ですから、スタッフたちの『どうしたい』という自発的な思いは尊重しています」
大門さん自身は特技を生かし、故人の似顔絵を必ず描くようにしている。
「出棺前のお別れのとき、『最期に故人様にお言葉を掛けてください』と言いますが、掛けられない方もいらっしゃる。でも『棺に納める前に、ひと言書いてくださいませんか』と似顔絵色紙をお渡しすると、不思議と愛のある言葉が書かれています。そこからご遺族同士で故人様の思い出話が膨らむこともあります。それは本当に描いて良かったと思う瞬間です」
似顔絵色紙は、遺族が故人を思う時間をつくる。大門さんにとっては、寄せ書きされたメッセージが故人の人となりをうかがい知るツールとなる。
「ただ、すべてのご遺族様に伝わるかといったらそうでもなくて。でもそれでいいと思っています。そこは私の自己満足の部分なので。感動までは至らなくても、色紙を通じて故人様にご遺族の思いが届けばと思っています。それで喜んでもらえたら本望ですし、これからも私が担当する葬儀は毎回描き続けます」
大門さんは、「施行において『これだけは絶対にやる』ということを持つスタッフは強い」と言う。その背中を見なる後進が、それぞれの特技や個性を生かし、心を尽くした「感動葬儀」をつくり上げていくことになるだろう。