災害時の切り札に ポスト内燃機関はEVが有力候補

2019.11.14

技術・科学

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災害時の切り札に ポスト内燃機関はEVが有力候補

2019年は温暖化の影響なのか、15号、19号と大規模化した台風が日本を直撃し、甚大な被害をもたらした。特に台風15号においては千葉県で大規模な停電が発生し、日常生活に大きな支障をきたすことになった。

そんななか、10月24日~11月4日まで開催された「東京モーターショー2019(TMS)」では、各自動車メーカーが電気自動車(EV)を多数発表し、EV化の流れが強まっていることを感じさせたほか、緊急用電源としてのとしてEVの使い方も紹介されていた点が目についた。

EVを出品しなかったメーカーを探す方が難しい

2017年のモーターショーでは、内燃機関の代わりとなるパワートレインは何になるのかという“答え探しの旅”という感じがあった。EVなのか、ハイブリッドを続けるのか、全個体電池なのか……結局、その方向性は見えなかった。強いて言えば資本力があるトヨタだけが次世代パワートレインについて全方位で開発を行っているという具合だった。それから2年が経過し、次世代パワートレインの最終形としてEVが一歩抜けた印象だ。

EVといえば日産の「リーフ」だったが、今回はコンセプトカーを含めると、同じく日産が「ニッサン IMk」、ホンダが「Honda e」、トヨタが「超小型EV」(名前未定)や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の専用モビリティ「APM」、レクサスが「LF-30 Electrified」、マツダが「MX-30」、メルセデス・ベンツが航続距離700キロのEVである「VISON EQS」、メルセデス・ベンツ傘下のスマートがSUVの「EQ fortwo」などEVが勢ぞろい。

日産「ニッサン IMk」
ホンダ「Honda e」
マツダ「MX-30」
メルセデス・ベンツ「VISON EQS」

さらに、スイスのマイクロ・モビリティー・システムズという企業による「Microlino(マイクロリーノ)」、環境省ブースに展示された小型EV「All GaN Vehicle(AGV)」、神奈川県で創業した総合モビリティ・カンパニーは水陸両用だ。

マイクロ・モビリティー・システムズ「Microlino」
FOMM「FOMM ONE」

また、モンスター田嶋の愛称で知られているレーシングドライバー、田嶋伸博が代表を務めるタジマモーターコーポレーションからは超小型EV「E-RUNNER ULP1」などベンチャー系の企業からもたくさんのEVが出品された。逆を言えば、EVを出さないメーカーを探す方が難しいくらいだ。

EV市場を席捲しようという中国&欧州の動き

多くのメーカーがEVに注力する理由はいくつか考えられるが、世界最大の自動車市場である中国が国策としてEVを推進していることがある。EVは内燃機関に比べて技術のすり合わせも少なく、コモディティ化しやすいので開発が容易。内燃機関では欧米、日本企業に勝てないが、EV開発に補助金を出しまくって開発をどんどん推進させ、一気にオセロの目を変えようという戦略だ。

ヨーロッパは、2015年のフォルクスワーゲンによるディーゼルゲート(ディーゼル車の排出ガス規制に関する違法行為)で、燃費に優れたディーゼルを広めるというのは難しくなった。EU各国も環境対応技術を引っ張ることで、ハイブリッドで先行する日本を抜いて世界のリーダーになるという国家戦略を描く。しかも、EU最大の経済国であるドイツは中国と仲が良く、中国市場で多くの売上を上げている。

調査会社の富士経済は、2035年にEVの世界市場(新車販売台数)が2018年比で16.9倍の2202万台に拡大するというレポートを発表した。そして中国が市場全体の5割を占めると推測している。

EVを後押しするため、ヨーロッパは2014年に電気自動車のF1ともいえる「フォーミュラe」まで創設。2019‐20年シーズンは、メルセデス、日産、アウディ、ジャガー、ポルシェ、BMWなどヨーロッパメーカーのオールスターが参戦することが決まっている。

日本では台風の影響がEV普及を後押しする可能性も

台風15号では、千葉県で送電線や電柱が折れるなど、約2000本の電柱が損傷したといわれ、復旧に予想以上に困難を極めたことから日常生活に支障をきたした人が大勢、現れた。

停電が復旧するまでの解決方法として、EVを使用することが挙げられる。つまり、EVを走る蓄電池として活用するというものだ。具体的には「V2H(Vehicle to Home))」といわれるもので、簡易な充電スタンドのようなものを屋上にソーラーパネルがある家に設置する(商品によるが100万円ほど。リースもある)。そして、家、V2H、EVの3つをつなぐといろいろなことができるようになる。

例えば、普段はソーラーパネルと電柱からの電気をV2Hに蓄え、そこから家に電気を供給し、EVにも充電をする。停電になったら、EVに蓄えられた電気を、V2Hを通じて家に電気を供給するのだ。これで、エアコンもコンピューターもテレビも普段の生活通りに使える。

三菱電機は「SMART V2H」というEV用パワーコンディショナを発売しており、日産とタッグを組んで「ニッサン インテリジェント モビリティ」というプロジェクトを行っている。ブースの担当者は「リーフとつなげると3~4日ほどは使えると思います。ただ、停電時は自発的に電気の使用量を抑える人が多いでしょうから、実際にはもっと長く停電が続いても大丈夫だと思います」と語った。実際、過剰に利用しない=太陽光発電からの発電能力以上の電気を利用しなければ、理論上、永遠に停電が来ても大丈夫という事になる。

三菱電機はグループ企業に三菱自動車があり、同社はプラグインハイブリッド(PHEV)の「アウトランダー」を展示。PHEV=ガソリン車でもあることから停電時に自動車側に充電をする必要もない。つまり、家への給電だけに集中できるので、こちらとV2Hを組み合わせると、10日近くも電気の供給を行えるそうだ。

三菱「アウトランダーPHEV 」

ここ数年、台風も大型化し、これまでの家の建設基準や各種設備の設置基準では対応できない風により施設が破壊されてしまい、停電する可能性が出てくる。北海道では2018年の北海道胆振東部地震で全道がブラックアウトになった。

不測の事態が頻発することが今後増えると考えると、ヨーロッパとは理由が異なるが、結果的にEVが持つ蓄電池機能が切り札となり、EVが次世代エンジンとして主役になる可能性が出てくる……かもしれない。