愛知県を拠点とする葬儀社ティアは、2006年の上場から13期連続で増収を達成し、現在、中部を拠点に関東、関西に116店舗を展開(2019年10月末)、中長期目標200店舗体制の実現もそう遠くない。その背景には、創業から遺族からの「ありがとう」の言葉と、葬儀業界の価値観を変えることに重きを置いてきた事実がある。遺族に尽くす一人の“葬儀のプロ”に、葬儀の施行に懸ける思いを聞いた。
葬儀のプロは、おもてなしのプロでもある
葬儀は誰の人生においても必要なセレモニー。冠婚葬祭と言われるように、かかる費用などから、葬儀におけるサービスはウエディングのそれと比較されることが往々にしてある。葬儀社ティアの一級葬祭ディレクターの吉原誠さんは、かつてはホテルマンだった。そんな吉原さんは、準備期間の「点」を披露宴当日まで「線」でつなぐのが結婚式であり、突然の「点」から始まり「点」で終わるのが葬儀だと考える。
「ティアは地域密着型の葬儀会館です。地域で身近な存在となるために必要なこととして、社長の冨安(徳久)は『リッツ・カールトンのようなおもてなしを』と掲げています。私は前職で培った経験もあり、ご遺族にはきちっとしたおもてなしをしたいという気持ちが人一倍強くて。根底にあるのは『日本で一番ありがとうと言われる葬儀社』という弊社のスローガン。いつもそこに突き動かされています」(吉原さん、以下同)
会館は隅々までクリーンに保たれ、社員が清潔な身だしなみを維持することは、葬儀においてもサービスの基本。故人と遺族へ敬意を払う意味でも、吉原さんは当たり前のことをおろそかにしない。
「喪主様をはじめ、ご遺族の方を下のお名前で呼ぶようにしています。私自身、『ティアさん』と呼ばれるより『吉原さん』と呼ばれたいですから。高齢の方が立ったり座ったりするときは、先にイスに軽く手を添えサポートする。咳をしている方がみえればお水と飴をお持ちする。小さなお子さんが居れば、しゃがみ同じ目線になります。
さりげないことばかりですが、限られた時間の中でもできることはたくさんあります。お客様がアクションを起こす一歩先で求めていることをくみ取って動く。そんなふうにして悲しみが深く余裕の無いご遺族に寄り添い、フォローしたいというのが一番の思いです」
おもてなしは目配りと気配りから生まれる。加えてさりげない心配りもできることが、葬儀のプロといえるのだろう。
葬儀の施行は遺族ありき。聞き手に徹して思いを叶える
「葬儀は、葬儀社ありきではなくご遺族ありきです。私たちセレモニーディレクターは聞き手に徹することが大切です。故人様の葬儀は1度きり。ここでの葬儀を後悔しないでいただくためにも、少しでも多くご遺族に声を発していただく。特に故人様への思いをたくさん集めて、可能なことは実現したいです」
吉原さんは自他共に認める話し上手。紳士的な口調とやわらかな物腰で、これまでもたくさんの遺族の心の扉をノックしてきた。故人の好物だと聞けば、自らおにぎりを握ったり、早朝からすきやき鍋を作り、祭壇に供えたこともあったという。
「葬儀は毎回が初対面のご遺族。心を開いていただくための努力は惜しみません。最近、努めているのは棺を閉める前のお声掛けです。『最期にお棺にお納めされるもので忘れ物はございませんか?』とアナウンスすると、みなさん『ハッ!』とされて思い出コーナーに飾ってあった写真を持ってこられたり。おかげさまで故人様の思い出話を聞かせていただく機会が増えました」
ときには、通夜の席でMCとしてナレーションを読むこともある吉原さん。そんな先駆者に後進が続き、今ではすっかりティアの通例となった。
「参列者に配布する礼状があります。ご遺族さえも読まれないことが多く、『せっかくですので通夜で読み上げさせていただいてよろしいですか?』と、喪主様に許可を得て読んでいます。通夜の終盤に会場を暗転させ、3分ちょっとのBGMをかけながら読み終える。次の曲が始まる頃には照明を上げて翌日の葬儀のご案内と、演出もしっかり。何も特別なことではないですが、故人様をしのぶ気持ちがひとつになるきっかけになればと思っています」
葬儀キャリア16年。吉原さんのおもてなしの心が、こうして悲しみに暮れる遺族の心を和らげていく。
葬儀業界で“リピート顧客”をつくるという矜持
冠婚葬祭におけるリピート顧客づくりは、長らく難しいとされてきた。しかし、吉原さんはティアでも“有数のリピート率を誇るセレモニーディレクター”だという。
「先日、15年も前の私の名刺を持って訪ねてくださったご遺族がいらっしゃいました。『あのとき、喪主を務めたおじいちゃんが亡くなったので頼むわよ』と。お名前やお話を聞きながら、ご自宅の場所まで思い出しました。お声を掛けていただき光栄な反面、やはり知っている方の葬儀は寂しいものです。進行しながら涙してしまいました。経験を積んだからといって、葬儀に慣れるということはありません」
吉原さんのセレモニーディレクターとしての所作は社内でも高い評価を受け、吉原さんがモデルとなった教育用の映像も作成された。入社して16年、後進を育成する立場にあるが、現場第一主義は変わらない。
「ティアでは葬儀サービスのクオリティ向上のため、社員のブラッシュアップを推奨しています。1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査)の認定資格や、社内検定も設けられていて、セレモニーディレクター(CD)、シニア・セレモニーディレクター(SCD)、マスター・セレモニーディレクター(MCD)の3段階あります。私は最高峰のMCDの取得に現在チャレンジしています。葬儀会場の幕張りから葬儀後の相続まで内容も幅広く、難易度が高いですが、必ず合格してみせます」
プロフェッショナルと認められた後もなお、さらなる高みを目指し続ける吉原さん。何事にも真摯に挑むその姿は後進を育むための基盤となり、結果的に遺族からの多くの「ありがとう」と受け取ることにつながっている。