香港市民は今、何に怒っているのか 区議選 民主派圧勝で大きな圧力に

2019.11.25

社会

1コメント
香港市民は今、何に怒っているのか 区議選 民主派圧勝で大きな圧力に

写真:AP/アフロ

「逃亡犯条例」改正案に端を発した香港デモは、法案自体は10月23日に香港政府が立法会で正式に撤回することを宣言。しかし、11月8日にはデモに関連した初の死者が出たほか、11月中旬に入ると、香港中文大学と理工大学では学生を中心としたデモ隊がキャンパス内に立てこもり警察と大きな衝突が起こった。そんななか11月24日に行われた香港区議選では民主派が圧勝、6月以降、初めてデモ以外の方法で民意が示された。しかしデモが収まる気配はない。香港市民のこの怒りは何なのだろうか?

林鄭行政長官はこれ以上要求を飲まないことを表明

「逃亡犯条例」改正案をめぐり、デモ隊からは5大要求があったことは「長期にわたるデモは香港経済にどんな影響を与えるか 日本企業は続々出店 」でも書いた。

香港デモ5大要求

  1. 「逃亡犯条例」改正案の完全撤回
  2. デモの“暴動”認定の取り消し
  3. 逮捕されたデモ参加者の釈放と不起訴処分
  4. 警察の暴力に関する独立調査委員会の設置
  5. 行政庁長官選挙、立法会議会選挙について普通選挙の実現

そのうち[1]は実現したが、民主派側は「1つも欠かすことはできない」というのが基本スタンスだ。なぜ、これほど怒ったのかについては、「香港市民がキレた本当の理由 「逃亡犯条例」改正200万人デモを引き起こした香港、我慢の歴史 」で書かせてもらった。改めて言えば、中国に対する小さな我慢が積りに積って、ついに爆発したといっていい。つまり、「逃亡犯条例」は火付け役であっただけで、「逃亡犯条例」がなくてもいつか爆発した可能性が高い。しかも、たまりにたまっていただけに爆発は“山体崩壊”レベルだったということだ。

一方、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、11月4日に習近平国家主席と会談し、習主席から支持を受けつつも、「暴力の制止と秩序回復が香港の最重要任務」とも言われている。それを受けて林鄭行政長官は11月11日の記者会見で「暴力を行っても何も得られない。あなたたちが口にしている要求は一切奪取することはない」と、事実上、残りの4つの要求を受け入れないことを表明したほか、デモ隊対応を一段と厳しくしたため、怒りを収めるどころか火に油を注いだ。

デモ隊は、警察隊を歩きにくくし、かつ警察車両の進入をしにくくするため道路にレンガをばらまき、ゴミなどを燃やす。

デモ隊も警察も聞く耳を持たない。負のスパイラルに

デモが収まらないもうひとつの理由として、警察の過剰な暴力がある。今となっては香港政府よりも警察に対する不満の方が大きい。

11月12日には、香港中文大学などで、一日で1567発もの催涙弾と1312発のゴム弾を発射(香港警察発表)したことが明らかになっている。6月の100万人のデモから約100日が2400発を放たれていることから、常軌を逸した数が撃たれたといえる。

ほかにも威嚇射撃無しで至近距離からデモ隊に対して拳銃を発砲する、無抵抗な人にペッパースプレーをかける、拘束している最中に過剰に警棒で殴る、教会に逃げ込んだデモ隊を教会内まで追いかけて、教会内で殴るといった動画などが多数サイトに上げられているほか、警察にレイプされたという女性が裁判を計画しているという報道もある。

“フルギア”でデモ隊を警戒する警察官。

人間というのは、同じことを繰り返していると感覚がマヒして、自然と暴力的なレベルが上がってしまうときがある。それはデモ隊も警察も同じだ。

デモ隊サイドは、平和的にデモをしても何も変わらないと感じた「勇武派」(過激な行動をする一部の若者)が、デモを過激化し地下鉄の改札機を壊す、信号機を壊す……などといった破壊行為を繰り返すようになったが、これが結果的に、条例撤回につながった。これは間違いなく勇武派にとっては成功体験だ。その上に、警察への憎悪が重なって、いま破壊行為が止まらない状況になっている。

一方、警察サイドも、市民からの罵声を浴び、憎悪を膨らませ、ユニホームにつけていたID番号を隠すようになり、かつマスクを着用するようになって身元が割れなくなったことでデモ隊に対する暴力行為がエスカレートした。

つまり、お互いが憎悪の連鎖に陥り、双方ともに聞く耳を持っていないという面もある。そもそも、市民は基本的に政府の対応に怒りを示しているため、デモ参加者が行うことを非難しにくく、エスカレーションを止める人は誰もいない。

区議会選は民主派が圧勝、しかしデモは収束しない可能性が高い

深夜1時ごろ、旺角(Mong Kok)という地区のデモ現場で警察の侵入を防ぐべく、ゴミなどに火をつけていた女性(30歳)に話を聞いてみると「昼間は飲食関係の仕事をして、仕事が終わったら夜にデモに参加することが多いです。理由はやはり警察への怒りですね。香港政府もひどかったのですが、警察が市民に対して行っている行為は許せません」と。これが現状を表している象徴的なコメントだろう。

11月24日に行われた香港区議会選挙では、民主派が全452議席のうち389議席と8割以上の議席を獲得した(投票率71.2%)。これにより、行政長官の選出にかかわる選挙委員会(1200人)のメンバーにこれまで以上に民主派議員が参加することになる。

しかし過半数には届かない。また、政策に直接かかわる立法会では今でも親中派が多数を占めている。区議会選挙で民主派が大勝したからといって、すぐに香港情勢が変わることはないのだ。それでも、今回の選挙結果は香港政府と中国政府には大きな圧力となることは間違いない。

デモは継続して行われると考えた方がいい。なぜならデモ隊は、「5大要求は一つも欠かすことができない」とずっと訴えているからだ。本当に林鄭行政長官はとんでもないトリガーを引いてしまった。