経済復興なくしてオリンピック開催はあり得ない 残り少ない安倍政権の意義は

写真:アフロスポーツ

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経済復興なくしてオリンピック開催はあり得ない 残り少ない安倍政権の意義は

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今夏に予定されていた2020年東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まった。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続くなか、安倍晋三首相が国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と2021年夏までに1年程度延期することで合意した。日本にとって最悪のシナリオである中止は免れたものの、延期に伴う追加費用の負担や重複する国際的なスポーツ大会との調整、代表選手の選出など課題は山積みだ。さらに、1年後といえば安倍晋三首相の任期満了時期でもあり、国内政治への影響も大きい。

オリンピック史上初めての延期へ

安倍首相は大会組織委員会の森喜朗会長や東京都の小池百合子知事らとともにバッハ会長と電話で協議。首相側から「世界のアスリートが最高のコンディションでプレーでき、観客が安全で安心な大会とするために、概ね1年程度、延期することを軸として検討していただけないか」と提案。バッハ会長は「100%同意する」と応じたという。

IOCは直後に開いた理事会で2021年夏までに開催すると理事会で決定。東京五輪の延期が確定した。1986年から130年以上にわたって続く近代五輪史上、延期は初めてだ。

選手からの批判受け、急な方針転換

IOCは3月17日の臨時理事会では、予定通り開催する方針を確認していた。22日には「延期を含めて検討し、4週間以内に結論を出す」と発表したばかりだった。それからたった2日後の急な方針転換は、新型コロナウイルスの感染が欧米などで急拡大し、各国の代表選手や関係者から中止や延期を求める声が急激に膨らんだことが背景にある。

カナダの五輪委員会とパラ五輪委員会は22日、東京五輪の1年延期を要請。今年開催される場合は選手団を派遣しない方針を表明していた。2016年のリオ五輪で金を獲得したカナダが不参加となれば、安倍首相が強調していた「完全な形での実施」は不可能となるからだ。

安倍首相は延期決定から一夜が明けた3月25日、トランプ米大統領と電話で協議。首相が東京五輪を1年程度延期する方針を説明したところ、トランプ氏は「素晴らしい決定だ」と同調した。当初は新型コロナウイルスの影響を楽観視していたトランプ氏だが、アメリカ内でも感染が急激に拡大。今年11月に控える大統領選への影響を避けるため対応に追われている。

追加費用、選手の選出…課題は山積み

最大の課題は延期によって必要となる追加費用を誰が負担するかという点だ。IOCは競技会場の借り換えや組織委員会の人件費などで最大3000億円の追加費用が必要となると試算している。組織委員会の武藤敏郎事務総長は「IOCと組織委、都、国、関係者で協議していく」と語るが、いずれの組織にとっても簡単に調達できる金額ではない。「追加費用を払いたくないから、誰も自分から延期を言い出さなかった」という見方もあるほどだ。

東京五輪を1年後の2021年夏に開催する場合、2021年7月~8月に福岡で開催予定の世界水泳選手権や同年8月に米オレゴン州で予定されている世界陸上などとの日程調整も課題となる。日本のプロ野球やJリーグなど、各国で人気のプロスポーツにも大きな影響が出ることとなる。

代表選手の選び方も難しい。日本代表の場合、総勢600人のうち、約100人が内定済み。すでに内定した選手は大半が来年の五輪でも出場するとみられるが、来年まで好調を維持し続けられるかどうかわからない。選考中の競技でも新型コロナウイルスの影響で大会日程が大幅に変更になっており、来年に向けてどのように選考するのか早急に検討する必要がある。条件が変わることで選手に有利、不利が発生しないよう配慮するのも大変だ。

経済復興できなければ五輪どころではない

国内政治への影響も大きい。東京五輪・パラ五輪が予定通り、今年の夏に開催された場合、衆院解散・総選挙は直後の9月頃との見方が多かった。五輪を機に安倍首相の露出が高まり、祝祭ムードが盛り上がれば与党にとって有利となるからだ。東京五輪を花道に“後継”に禅譲し、新たな顔で衆院選を勝ち抜けばスムーズな政権移行も可能となる。

ところが、1年延期するとこのシナリオが大きく狂う。安倍首相の自民党総裁としての任期は2021年9月まで。そして衆院議員の任期は来年10月までとなっている。五輪がちょうど1年延期とするとパラ五輪が閉会するのが9月上旬で、自民党総裁選と重なるため安倍首相によって五輪直後に解散、というわけにいかなくなる。先に総裁選を行うとすれば国民人気が高く、首相と対立する石破茂元幹事長が選ばれる可能性もある。

ただ、国民にとって最大の関心事はまず、国内で新型コロナウイルスを完全に封じ込めること。そしてこの数カ月間、感染拡大防止に向けて国民が自粛を余儀なくされたことで大打撃を受けた経済への影響をどう、緩和するかだろう。その2つに成功しなければ、来年の東京五輪・パラ五輪どころではない。安倍政権や与党が自分たちの都合を優先して五輪日程を検討することなど絶対にあってはならない。

こうしている間にも、著名芸能人をはじめとする新たな感染者が全国で発覚している。飲食業や観光業を中心に、事業の先行きに頭を抱えている経営者もたくさんいる。ようやく延期を決めたのだから、当面は感染症対策と経済対策に集中して取り組むべきだ。