実は夫婦より“貯蓄力”が低い!? 「おひとりさま」の資産形成術

2020.3.23

経済

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実は夫婦より“貯蓄力”が低い!? 「おひとりさま」の資産形成術

近年増えてきている“生涯独身”という生き方。子育てでかかる出費もないし、一生独身を通せば金銭的にも余裕がありそうだし、何よりひとりだと気楽で羨ましい−−。こんなイメージを抱く既婚者もいるだろうが、現実は必ずしもそうではない。実は、独身者の方が既婚者よりも“貯蓄力が低い”、というデータもあるのだ。 今回は、生涯独身者のお金に関する現実と対処の方法についてお伝えする。

男性の3人に1人が結婚しない時代へ

ひと昔前、“おひとりさま”という表現が流行語となったが、もはや珍しいことではなくなり、あまり使わなくなった感がある。内閣府が公表している「少子化社会対策白書(2018年版)」によれば、1970年の時点で「50歳時未婚率」は男性が1.7%、女性が3.3%にすぎなかった。

ところが、それから男性の数値は一貫して上昇しており、女性のほうも1990年頃から目立って増えるようになったという。2010年には男性が20.1%、女性が10.6%、2015年には男性が23.4%、女性が14.1%に到達しており、今後も未婚化・晩婚化の傾向が続けば、2030年には男性が28.9%、女性が18.5%に達すると推測されている。

こうして独身者が占める割合が増えているわけだが、既婚者と比べて金銭的に余裕があるという先入観は正しいのだろうか? 確かに子育てのお金はかからないものの、それは子どものいない既婚者にもいえることだ。

一方で、生活費や住宅費の既婚者の家庭のほうが金額としては大きくなるものの、家族で共有しているので、費用効率は単身家庭よりも高いのも確かだろう。しかも、子どものいる家庭と比べれば金銭的には余裕があるとはいえ、それは現役時代に限定されたことのようだ。

実は生涯独身者のほうが“貯蓄力”が低い

“生涯独身者が金銭面にゆとりがあるのは現役時代限定”といえる客観的データの裏付けについて見てみたい。「総務省家計調査年報(2018年)」によれば、高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)の無職世帯では月間平均の実収入が22万2834円であるのに対し、消費支出は23万5615円、非消費支出は2万9092円で、4万1872円の赤字だった。

一方、高齢単身者(60歳以上)の無職世帯では実収入が12万3325円、消費支出 が14万9603円、非消費支出が1万2392円で、月々の赤字額は3万8670円となっていた。夫婦で暮らしている年金生活者の赤字額のほうが大きいとはいえ、3000円程度にすぎない。

どちらも赤字分は貯蓄の取り崩しで補てんしていることが考えられるが、その“貯蓄力”においては、むしろ生涯独身者よりも既婚者のほうが有利な側面がある。ダブルインカムとシングルインカムの違いがじわじわと効いてくるのだ。

むやみに浪費を重ねなければ、“貯蓄力”においては子どものいない夫婦が最強だといえよう。生涯独身者がそれに続くかと思われるが、子どもが社会に出た後の夫婦も一気に家計が楽になるので、それから老後に向けて貯蓄力がかなりアップするのだ。

独身者のアテは自分だけ。親の介護の援助も!?

しかも、生涯独身者の場合は夫婦で助け合ったり、子どもに援助してもらったりすることは、当然ながら期待できない。すべてを自分でどうにかしなければならないうえ、親の介護という問題が降りかかってくる可能性もある。

自分以外に兄姉がいなければ、介護施設への入居しか選択肢がないことも想定されよう。その場合、月額費用における自己負担額は数万円程度にとどまったとしても、民間施設では数百万円〜数億円の入居一時金がかかるケースもある。

もちろん、要介護者自身に相応の蓄えがあってこそ、高額の入居一時金がかかる施設を選択するはず。親にまとまった貯蓄がなくて援助しなければならない場合は、入居一時金がかからなかったり、あるいは少額で済んだりする施設を選ぶことになりそうだ。

すべての高齢者が要支援や要介護の状態に至るわけではないが、生涯独身者はその可能性も念頭に置いたうえで、親と自分自身の将来(老後)のために資産形成を進める必要があるだろう。では、具体的にどういった手段を用いて資金を蓄えていくのが最も有効なのだろうか?

老後の資金作りはiDeCoとつみたてNISAを最優先!

生涯独身者に限った話ではなく、老後を見据えた資産形成においてはiDeCoつみたてNISAをまず選ぶというのが正解だといえよう。なぜなら、税制上の特典が設けられており、その分だけ有利な運用が可能となっているからだ。

iDeCoは「個人型確定拠出年金」の愛称で、自分自身の老後資金を蓄えるための制度だ。任意(自分の意思)で加入し、預金や保険、投資信託の中から希望の金融商品を選ぶ。

月々の掛金はその金融商品で運用され、成果に応じた金額を60歳以降に受け取ることになる。掛金は所得から控除できる(差し引ける)ので、その分だけ所得税や住民税の負担が軽くなる一方、運用中に発生した利益にも税金が課されず、60歳以降に一括で受け取る場合も1500万円まで課税されない。

つみたてNISAは「少額投資非課税制度」の一種で、年間40万円ずつ、最長20年間にわたる積立投資で発生した利益がすべて非課税になる。その投資対象は、金融庁が選定した投資信託の中から選択する。

つみたてNISAは2037年まで適用される制度だったが、2042年まで延長することになった。これから始めたとしても、フルに税制上の特典が得られるわけだ。

では、これら2つの制度を活用すると、どれくらいの資産を形成できるのか? 仮に40歳から始めたとすると、どちらも20年間の積立投資を行うことになる。

勤務先に企業年金制度がない会社員がiDeCoを利用した場合、月々の掛金は2万3000円が上限なので、年間にすると27万6000円の積立で、20年間では552万円を投入することに。これに対し、先述したようにつみたてNISAは年間40万円が上限、20年間の投資総額は800万円で両者の合計額は1352万円となる。

もしも、どちらも年率3%で年複利の運用を達成できたとしたら、20年後に1352万円の投入資金は約1845万円に増えている。年複利の運用とは、1年間で得られた利益を翌年に投資元本に加算して再運用するというサイクルを繰り返していくというもので、利益が新たな利益を生み出すことを期待できる。

保障面では、個人年金保険よりも就業不能保険のほうに妙味が!

一方、生命保険への加入を検討している独身者も少なくないことだろう。「公的年金だけでは足りないかも?」という不安が強まって保険会社や販売代理店の担当者から個人年金保険を勧められるケースも考えられる。

だが、結論からいえば、個人年金保険の優先順位は極めて低いといえよう。前述したように、公的年金の補てん目的なら、税制優遇のあるiDeCoを選ぶのが最善で、貯蓄性が薄れている個人年金保険にはほとんど妙味がないと述べても過言ではなさそうだ。

医療保険も独身者の間で関心が高いものの、こちらも高額の保険料を支払う必要性はあまり感じられない。掛け捨てタイプの割安な医療保障で十分だろう。

独り身で大病を患った場合のことを想像して不安になるのは無理もないが、国が「高額療養費」という制度を設けていることも認識しておきたい。これは、その月にかかった医療費の自己負担が限度額を超えた場合に、その分が払い戻されるという制度だ。

できるだけ短期間で退院させる(高齢化が進むことを踏まえて医療費を抑制する)という国策が打たれているだけに、入院にかかる費用についても心配しすぎるのは考えものだろう。むしろ、独身者は医療保障以上に就業不能保険のほうに注目したほうがよさそうだ。

その名の通り、病気やケガで働けなくなった場合に、給与のように毎月一定額の保険金が継続的に支払われていくというものだ。医療保険は在宅療養となった場合に保障を受けられないが、就業不能保険ならそういった事態においても頼もしい存在となるだろう。

自由を謳歌できる分、何かと不安も多い独身生活。今後結婚する予定がなく、生涯独身というライフスタイルを選ぶ人や、「一生独身かも」と思う人は、ぜひ将来に備えて計画的な資産形成を始めよう。

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