財政支出39兆円、過去最大の経済政策は“今困っている人”に届くか?

2020.4.8

政治

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財政支出39兆円、過去最大の経済政策は“今困っている人”に届くか?

写真:つのだよしお/アフロ

政府は4月7日の閣議で、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するための緊急経済対策を決定した。収入が急減した世帯などに30万円、中小企業には最大200万円、個人事業主には最大100万円の現金を給付するのが柱。事業規模は総額108兆円、財政支出39兆円で過去最大の経済対策となるが、現金給付には細かい条件を設けたため、生活不安を抱える家庭や資金繰りに苦しむ企業に速やかに現金が行き渡るかどうか不透明な面もある。

「支援」と「回復」、政府が打ち出す2段階の経済対策

安倍晋三首相は4月7日、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部で緊急事態宣言を発令。その後の臨時閣議で緊急経済対策を決定した。

キャッチフレーズは「国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ」。感染収束まで国民生活や経済活動を支える「緊急支援フェーズ」と、感染収束後の景気回復を目指す「V字回復フェーズ」の2段階で構成し、融資などを含む事業規模は総額108兆2000億円(財政支出は39兆円)。

リーマンショック後に実施した56.8兆円(財政支出は15.4兆円)の経済対策の2倍となるが、納税や社会保障費の支払い猶予など負担を先送りするだけの項目や、すでに発表済みの経済対策で未実施のものも含まれる。新たに国が支出するのは18.6兆円。政府は補正予算案を20日にも国会に提出し、24日の成立を目指す。

現金給付を受けられるのは非課税世帯水準

緊急支援フェーズの柱は新型コロナウイルスの感染拡大によって収入が落ち込んだ世帯や中小企業、個人事業主への現金支給だ。支給対象となる家庭の条件は、世帯主の月収が2~6月のいずれかの月に、1月以前と比べて(1)大幅に減少し、年収換算で住民税非課税の水準となった(2)半減し、年収換算で住民税が非課税となる水準の2倍以下となった――のいずれか。

住民税が非課税となる月収の目安は、東京都23区在住の場合、単身だと年収ベースで100万円(月収8.3万円)、2人世帯で156万円(同13万円)、3人世帯で205万円(同17万円)となる。政府は全5800万世帯のうち、1300万世帯程度が対象となるとみているが、受け取るには市区町村に自ら申請し、収入の状況を証明する書類を提出する必要がある。

また、児童手当を受給している世帯には高所得者を除いて子ども1人あたり1万円を6月分に限って上乗せする。

中小企業や個人事業主への現金給付は新型コロナウイルスの影響で収入が半減したことが条件。中小企業は200万円、個人事業主は100万円を上限に、減収分を給付する。民間金融機関による実質無利子・無担保の融資制度も設け、財務基盤が弱い企業や個人の資金繰りを支える。また、航空会社などの大企業向けにも日本政策投資銀行などを通じた資金繰り支援を行う。

このほか、すでに首相が表明した全世帯への布製マスクの配布や、新型コロナへの効果が期待されるインフルエンザ薬「アビガン」の備蓄を今年度中に現在の3倍にあたる200万人分まで増やすこと、不足が懸念されている人工呼吸器や人工肺の増産支援なども盛り込んだ。医療体制の整備や治療薬の開発などには2.5兆円を充てる。

所得制限して本当に困っている人に行き渡るのか?

最大の課題は本当に困っている人や企業に、スピーディーに現金が行き渡るかどうかだ。有識者の間では素早く給付するために所得制限などを設けず、一律に現金を給付すべきだとの意見が多かったが、政府はリーマン・ショックの際の一律給付の反省を踏まえ、所得制限にこだわった。

今回の対策ではどの家庭が現金給付の対象となるかわかりづらく、市区町村の窓口に問い合わせが殺到して給付に遅れが生じる可能性がある。政府は5月頃からの支給を見込んでいるが、夏までずれ込むとの見方もある。また、申請方法が煩雑なために、本当に困っている家庭に行き届かない可能性もある。納税情報の管理が進んでいる諸外国では条件を設けても素早い支給ができるが、日本の場合は税情報の把握が難しいことも障壁となった。マイナンバー制度の整備遅れが響いた格好だ。

消費喚起よりも、まずは感染拡大の阻止と支援に集中するべき

また、感染拡大の収束まで時間がかかれば、今回の対策では不十分となる可能性が高い。首相は7日の対策本部で「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減できれば、2週間後には感染者の増加を減少させることができる」と指摘したが、逆に言えばそこまで接触機会を減らすことができなければ感染拡大が続くということになる。

緊急事態宣言の発令を受け、対象となる東京都や大阪府などは外出の自粛などを呼びかけ、東京都は商業施設などへの休業要請も打ち出したが、強制力はないため欧米などの外出禁止令に比べて効果は弱い。西村康稔経済財政・再生相は追加対策に言及しており、早期に感染拡大を食い止めることができなければ財政負担がどんどん膨らみ、世界最悪ともいわれる財政状況がますます悪化することが懸念される。

感染拡大が収束した段階での対策としては、観光業や運輸業、飲食業などを支援するため「Go Toキャンペーン」(仮称)と称して消費喚起キャンペーンを実施するとした。旅行商品や食事券、イベントのチケットを購入する際に使える割引クーポン券などを配布するのが柱だが、実現時期はまったく見通せない。「まずは感染拡大の阻止と収入減に苦しむ家庭や企業の支援に集中すべき」との声もあがる。