米・中・印で激化するインド洋の覇権争い

2020.04.06

社会

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写真:AP/アフロ

世の中は新型コロナウィルスの話題でもちきりだが、もちろん水面下での国家間の争いや駆け引きはなくならない。そのひとつとして、“インド洋の覇権”をめぐる争いが、アメリカ・中国・インド間で激しさを増しているのをご存じだろうか。貿易においても安全保障においても、各国にとって重要度の高いインド洋の行方に注目したい。

勢力を増すインドと仲良くしたいアメリカ

インド洋の海洋権を賭ける覇権争いに、やはり真っ先に登場するのはアメリカだろう。

トランプ米大統領は2月24日から25日にかけて、大統領就任後初めてインドを訪問した。このインド訪問は極めて異例のおもてなしとなり、トランプ大統領はモディ首相の地元である西部グジャラート州を訪問し、10万人以上が詰めかけた集会に参加し、「アメリカはインドを愛し、常にインド人に忠実な友人である」と演説し、両国関係の親密さを強調した。

今後数年のうちに、インドは人口で中国を抜くだけでなく、人口の半数が24歳以下と言われるほど若者が多いインドは、アメリカにとっての市場的価値も極めて大きい。そして、安全保障面では、西太平洋やインド洋への進出を強める中国を念頭に、日米両国が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」の一翼を担うインドとの連携を深めることは、米国にとっても重要である。現在、経済・貿易関係で、両国の間には隔たりがあるが、安全保障面での共通の利益は大きいのだ。

インド洋をめぐるインドvs.中国

その一方で、インドは長年インド洋を自らの裏庭と位置付け、モディ首相もそれを重視している。2019年、4月から5月にかけて実施されたインド総選挙で圧勝したモディ首相は、第2次政権初の外遊先として、インド洋に浮かぶモルディブとスリランカを訪れた。

昨年6月、モディ首相は、モルディブで2018年12月に“脱中国”を掲げて就任したソリ大統領と会談し、モルディブに最大14億ドルもの財政支援を行うと発表するなど、同国への急接近を試みた。その後、モディ首相は昨年4月に同時多発テロに見舞われたスリランカを訪問してシリセナ大統領と会談し、スリランカへの政治経済的な支援を強化する意志も示した。

このモディ首相の2か国歴訪の背景には、近年インド洋で影響力を高める中国の存在がある。中国は、2013年に就任したアブドラ・ヤミーン大統領のもと、モルディブに多額の経済支援を行ってきた。2018年には、国際空港があるフルマレ島と首都マレを結ぶ橋が建設されるなど、チャイナマネーによって多くの道路や建物、住宅が建設された。一方、ヤミーン政権時代、インドとモルディブの関係はかなり冷え込んでいた。

また、スリランカの内戦終結以降、中国はスリランカへの経済的接近を開始。モルディブ同様に多額の援助資金によって、最大の都市コロンボには多くの近代的な高層ビルが建てられ、道路や住宅もきれいに整備されるようになった。2017年7月には、同国南部に建設されたハンバントタ港の利用権が99年に渡って中国企業に譲渡されている。

さらに、中国は一帯一路(中国が推進する経済圏構想)の要地として、インドの西に位置し、中国とも国境を接するパキスタンを重視している。2013年1月、パキスタンは南部グアダル港の利用権を43年に渡って中国へ明け渡したが、北京には、中国西部カシュガルとグアダル港を鉄道や石油パイプラインで繋ぎ、グアダル港を中東やアフリカへの出入り口にしたい狙いがある。中国は、他にもミャンマーやネパールへも経済的接近を図っているが、こういった中国の戦略は、“真珠の首飾り戦略”とも呼ばれる。インドを囲い込むかのような中国の手法に、近年インドは警戒感を強めてきた。

さらに、インド洋の覇権を巡っては、アメリカとインドだけでなく、イギリスも懸念を高めている。1月下旬、EUを離脱した英国は、ブレグジット後の初外遊として、イギリス外相が日本やシンガポールなどを訪問し、インド太平洋地域を重視する姿勢を鮮明にした。

イギリスはインド洋にチャゴス諸島やアルダブラ諸島、ディエゴガルシア島など海外領土を有している。今後は、同海域を巡って、アメリカとインド、イギリスの安保協力(必要によって、日本やオーストラリア、南太平洋に領土を持つフランスも参加)というものが強化されるかもしれない。

各国の思惑が錯綜するインド洋の行方やいかに

このようななか、2月のトランプ大統領の訪印は、中国をけん制することになった。新型コロナウイルスの感染拡大によって、今後1年間の基本政策を決定する、習近平政権には最も重大な政治日程である全国人民代表大会も延期されるなど、逆風にさらされている。

今後、習近平政権は外交、内政両面でどう立て直すかに集中せざるを得ないだろう。新型コロナウイルスに終焉の兆しが見えたとしても、政治的感染(中国恐怖症:シノフォービア)はより長く外交の世界で残るかもしれない。

しかし、トランプ大統領の訪印が対中けん制になったとしても、インドが抱える事情も考慮する必要がある。現在、インドにとって、中国は切っても切れない最大の貿易相手国だ。また、インドは、中国の主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の最大の被援助国でかつ、中国に次ぐ出資国となっている。安全保障的に中国を警戒するモディ政権ではあるが、実際は政治と経済の狭間の中で中国とどうバランスをとっていくかが大きな悩みであり、AIIBに参加しない米国や日本といつも歩調を同じくするわけではない。

モディ首相は、以前、「自由で開かれたインド太平洋構想」について、「一部の限られた国々による排他的なクラブではない」と関係国をけん制し、2017年5月にオーストラリアが日米印の3か国による合同軍事訓練「マラバール」に参加したいと打診したい際、それを拒否したことがある。こういったしたたかなインドの外交姿勢が、トランプ政権との間で新たな亀裂を生じさせる可能性はある。

今後とも、政治と経済の狭間の中で、大国間の複雑な駆け引きが続くことになりそうだ。