米国は日本有事に何もしない? 中国が4日以内に尖閣諸島を奪還するシナリオ

2020.6.9

社会

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米国は日本有事に何もしない? 中国が4日以内に尖閣諸島を奪還するシナリオ

写真:新華社/アフロ

中国海警局の船4隻が6月8日、およそ1時間半に渡って尖閣諸島・魚釣島の沖合の日本領海内に侵入した。中国海警局の船が侵入したのは、5月9日以来で、今年に入って10回目となる。今年1月~3月の間に日本の接続水域内に侵入した中国公船の数は289隻で、前年同期比で57%も増加したという。一方、新型コロナウイルスや香港の国家安全法などをめぐり、“新冷戦”とささやかれるほど激化している米中対立。アメリカ国内は、コロナ危機による失業者の激増、黒人男性殺害に端を発する全米での抗議デモによって、トランプ大統領の再選が危ぶまれている状況だ 。中国はこういった“内から混乱する米国 ”を見張りつつ、東シナ海や南シナ海での海洋活動を活発化させる恐れがある。

海上自衛隊は中国海軍の軍事力に及ばず?

このような状況のなか、ワシントンD.C.にあるシンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」は5月19日、”Dragon Against the Sun: Chinese Views of Japanese Seapower”と題する論文を公表した。同論文は、現在の中国海軍と海上自衛隊の軍事力で中国海軍が優位であることを示し、中国が海軍力で優越感を持てば持つほど攻撃的な海洋戦略を打ち出し、アジアはより不安定化すると警告している。そして、中国が尖閣諸島を4日以内に奪取する具体的なシナリオを紹介している。そのシナリオは、以下のようなものだ。

1.海上保安庁の船が尖閣海域で中国海警の船を銃撃し、その後、中国海軍の護衛艦が日本側へ報復的な攻撃

2.日中両国が尖閣海域を中心に戦闘モードに突入 中国空母などが宮古海峡を通過し、日本側が追跡

3.日本の早期警戒機とF15戦闘機が東シナ海の上空をパトロールするが、中国軍がそれらを撃墜

4.緊張が拡大し、とうとう那覇空港を中国が巡航ミサイルで攻撃

5.米国が日米安保条約に基づく協力要請を拒否 米大統領は中国への経済制裁に留まる

6.宮古海峡の西側で日中による短期的かつ致命的な軍事衝突が勃発

7.米軍はそれを観察したままで依然として介入せず 米軍が介入しないことを中国軍が理解し、米軍の偵察機が嘉手納基地に戻る

8.最初の衝突から4日以内に中国が尖閣諸島に上陸・奪取

このシナリオを見て、なぜアメリカは何もしないのかと感じる人も多いことだろう。だが、日米安全保障条約第5条には、米軍の対日防衛義務が明記されているものの、具体的にどこまで協力するかは、そのときの米政権の政策判断による。

われわれ日本人は、“何か有事が発生したらアメリカが守ってくれる、最前線で戦ってくれる”と思う人もいるだろうが、まず自衛隊を差し置いて米軍が最前線で戦うなんてことはあり得ない。当然だが、ホワイトハウスにとって最重要事項は、自国の繁栄であり、アメリカ領土と米国人の安全であり、日本が同等の扱いを受けることはまずない。

多くのアメリカ市民は、そもそもアジアの安全保障に関心がない。現在の米国の現状を見ても分かるが、米市民の関心は安定した雇用、経済の立て直し、テロなどの治安対策などにある。太平洋の遥か彼方にある尖閣諸島の問題で、米兵が命を落とすことに米市民が黙っているはずもない。

オバマ前大統領は在職当時、アメリカは世界の警察官を止めると宣言した。オバマ政権は非介入主義を重視してきたが、これはトランプ政権でも継承されている。国際協調主義を重視するオバマ前大統領と米国第一主義を貫くトランプ大統領では、理念や考え方が真っ向から対立しているように見えるが、他国の戦争に加担しなくないという非介入主義では同じである。

アメリカで激化するトランプ再戦阻止の動き

そして、秋の米大統領選では、バイデン候補の支持率はトランプ大統領を上回っている。バイデン候補の政策ビジョンは依然として見えてこないが、抗議デモに参加する市民や民主党などは一丸となってトランプ大統領の再選を阻止しようとしている。最近、オバマ前大統領が抗議デモについてネット上で語ったことが話題となったが、トランプ大統領の再選をけん制する意味があることは間違いない。ブッシュ政権で国務長官を務めたパウエル氏も、トランプ大統領と同じ共和党ながら民主党候補に投票すると発表した。

しかし、尖閣諸島を舞台とする有事については、トランプ大統領が再選しようがバイデン候補が勝利しようが大きく変わるものではない。バイデン候補が大統領になってすぐに尖閣問題重視に傾くとは考えにくい。

今回、中国が4日以内に尖閣諸島を奪還するシナリオが米主要シンクタンクから示された意味は大きい。今後、中国の海洋進出がさらに顕著になれば、ほかにも大きくシナリオが発表されることだろう。日本としてこれまで以上に自主的に安全保障を考えていく必要がある。