政権の本気度が見えない「骨太の方針2020」 この国の経済はどこへ向かうのか

2020.08.05

政治

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政府は7月17日、本年度の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定した。新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、行政のデジタル化や医療体制の強化、雇用維持などを盛り込んだ一方、これまで政権が掲げてきた中長期的な経済・財政目標は取り下げた。目新しい政策も乏しく、「骨太の方針」を廃止すべきだとの声も出ている。

総花的になりがちな「骨太の方針」

骨太方針を始めたのは「聖域なき構造改革」を掲げた小泉純一郎元首相(小泉内閣:2001年4月~2006年9月)。2001年1月の省庁再編の際、予算編成の主導権を財務省などの各省庁、そして各省庁を牛耳る族議員から首相官邸に移すため、首相を議長とする経済財政諮問会議を創設。毎年6月に諮問会議主導で骨太方針を策定し、それを基に各省庁が予算要求する流れを作った。

2009年9月~2012年12月の民主党政権下で一時的に休止していたが、2012年12月の第2次安倍政権発足を機に復活。2013年から諮問会議が再開され、毎年6月に骨太方針が策定されるようになった。諮問会議の現在のメンバーは首相や財務相などの経済閣僚、黒田東彦日銀総裁に加え、中西宏明経団連会長(日立製作所会長)、新浪剛史サントリーホールディングス社長、竹森俊平慶大教授、柳川範之東大教授の民間人4人で構成されている。

骨太方針が始まった当初は、構造改革特区の導入や国と地方の税財政改革「三位一体改革」、郵政民営化など政権の目玉政策を推し進める手段として使われていたが、近年は総花的にあらゆる政策が並べ立てられる傾向がある。

2019年は「『令和』新時代:『Society 5.0』への挑戦」 というサブタイトルだが、今風の言葉を使っているだけで国民にはまったく浸透しておらず、政権がどんな社会を作ろうとしているのかまったくわからない。実際の中身は働き方改革や観光の振興、就職氷河期世代の支援など政府が取り組んでいるあらゆる政策が並んでいるだけで独自性はまったくない。

資料もどんどん分厚くなっており、2001年の第一弾が33ページだったのに対し、2019年版は75ページと倍以上に膨らんだ。目玉政策の推進役にするという当初の目的が薄れていることや他の会議がまとめる方針との違いがあいまいになっていることから、政府内でも不要論が出ている。

削除されたプライマリーバランス黒字化の目標

不要論をさらに加速させたのが新型コロナウイルスだ。骨太方針は昨年まで2020年ごろに名目国内総生産(GDP)600兆円、2025年に基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化という大目標を掲げていたが、新型コロナによる急激な経済の悪化によりGDPはウイルス拡大前の558兆円(2019年7~9月期の年率)から546兆円(2020年1~3月期)に悪化。プライマリーバランスも9兆円の赤字(2020年度当初予算)から66兆円の赤字(2020年度第2次補正予算後)へと大幅に悪化し、今年の骨太方針からは目標数字自体が姿を消した。

確かに世界的に感染の拡大が止まらないなかで、中長期的な経済財政状況は見通しにくい。しかし、新型コロナ対策がいくら重要だといっても無限に予算を投じることはできないし、いずれは再び財政の健全化に取り組むときがくる。麻生太郎財務相も「目標を直ちに見直す必要があると考えていない」としている。

であるならば、なぜ削除したのだろうか。効率的に必要な分野に、必要な予算を投じていくためには、幅があったとしても、時期がずれ込んだとしても中長期的な経済、財政の目標は示す必要があるのではないか。無駄な予算配分を防ぐためにも骨太方針で各省庁をまたいだ、政府全体の予算の枠組みを示していくべきではないだろうか。

財務省は来年度の予算の編成で、各省庁からの概算要求に上限を設けない方向だと報じられている。骨太方針など何らかの方法で規律を求めない限り、無駄な予算が水膨れしてしまう懸念が残る。

各省庁が提出してきたペーパーをまとめているだけ

「危機の克服、そして新しい未来へ」というサブタイトルがつけられた 2020年の骨太方針は、昨年の半分となる37ページにまとめられた。しかし、だからといって重要な政策が凝縮しているようには見えない。行政手続きの抜本的なオンライン化をうたっているが、これまで取り組んできた政策と何が違うのかは方針を読んだだけでは見えない。新型コロナウイルスのまん延で人口や企業の東京一極集中の弊害に注目が集まるが、「多角連携型の国づくり」とうたっているものの具体策は見えない。例年に続いて最低賃金の1000円への引き上げを盛り込んでいるが、求人倍率が急速に悪化し、多くの中小企業が倒産危機に瀕しているなかで優先すべき政策だろうか。結局は各省庁が提出してきたペーパーをまとめているだけで、“骨太”でもなんでもない。

一部経済紙によると、首相官邸は今年6月に骨太方針の事実上の廃止を検討したが、内閣府の反発で廃止が見送られたという。予算編成における内閣府の権限喪失を恐れたからだというが、そんな理由で作られた方針なら中身が乏しくてもおかしくない。

安部首相は骨太方針をまとめた経済財政諮問会議で「思い切った社会変革を果敢に実行する」と語ったが、内容からは本気度が見えない。骨太方針に限らず、コロナ禍でどんな経済社会にしていこうとしているのか国民にしっかり提示しない限り、内閣支持率がじりじり低下する状況を変えるのは難しいだろう。