日本版グリーンリカバリーのキモは 「木質バイオマス」 欧州のマネは無意味
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日本版グリーンリカバリーのキモは 「木質バイオマス」 欧州のマネは無意味

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2020年5月27日、EUの行政執行機関・欧州会議は、新型コロナ禍で傷ついた経済の立て直し戦略として7500億ユーロ(約89兆円)を投じた「グリーンリカバリー」案をぶち上げた。「グリーンリカバリー(Green Recovery=GR。緑の回復)」とは、化石燃料の大量浪費、CO2大量排出の力任せな経済復興から決別し、新型コロナ禍をむしろ好機ととらえSDGsに軸足を置いて、脱炭素やサーキュラーエコノミー(循環型経済)、デジタルによる暮らしやビジネスの変革を意味するDX(デジタル・トランスフォーメーション)などを一気に推進しようというものだ。 日本はというといまだに脱炭素に踏み切れず“環境後進国”というレッテルを貼られることもしばしば。しかし、島国の日本は欧州とは異なる特殊な電力事情があり、欧州のマネをするのは、実は無意味を通り越して危険といえる。今回は、日本版グリーンリカバリーのキモが、日本特有の国土や地形を生かした「木質バイオマス」にあることを解説したい。

日本も石炭火力からソーラー・風力にシフトすべきか?

欧州発のこうした動きに小泉進次郎環境相も敏感に反応し、2020年6月10日に開催された脱炭素社会実現を目指すネットワーク「気候変動イニシアティブ(JCI) 」との会合 でグリーンリカバリーの重要性を強調した。2019年12月のCOP25(国連気候変動枠組条約第25回締約国会議) において、脱CO2で存在感を出せなかった汚名の挽回も狙っていたのだろうか。

ところで欧州が目指すグリーンリカバリー戦略の中身を見ると、「石炭火力発電全廃、ソーラー・風力両発電シフト」が脱CO2のキモに掲げられている。そして「欧州がやることは良いことだ」とばかりに、「日本も石炭火力を全廃、電力需要の全てをソーラーと風力で代替可能」といった過激かつ乱暴な理論を唱える向きが一部メディアやネット内でも登場している。

だが単純に「石炭全廃、太陽光+風力」を日本に当てはめるのはファンタジーに近く、あくまでも欧州の気候や地政学を考慮した上での選択だという点を忘れてはならない。電力はまさに国民生活の根幹だが、大規模な備蓄・保存ができず、島国ゆえに隣国と送電線を接続し互いに電力を融通し合うこともないまま、その大半を「お天道さま様任せ、風任せ」に依存するのはあまりにも無謀。さらに、台風や豪雪、地震など天変地異の災害の多さは欧州の比ではない。

単に「今や石炭よりも太陽光や風力の方が発電コストは安い」という点だけに目が奪われ、電力供給のサステナビリティが脆弱では本末転倒である。エネルギー安保や緑化・国土保全、過疎化対策、有力輸出産品の創出など総合力を考えれば、日本の発電の主軸は「ソーラー+風力」に加え「木質バイオマス発電」にもより一層注力すべきだ。

世界屈指の森林大国は「エネルギー大国」

木質バイオマスとは、木材を原料とする再生可能なエネルギー燃料のこと。なぜ日本が木質バイオマスに注力すべきなのかというと、実感がないかもしれないが、日本は世界屈指の森林大国だからだ。国土の3分の2(約68%、約25万㎡ )が山林 で、世界の主要国ではフィンランドの約73%に次ぎ2位、「森林の国」とのイメージが強いスウェーデンの約68%と実は同列(国際連合食糧農業機関調べ )。木材資源量の目安である「森林蓄積」は52.4億㎥ で、さらに毎年約7000万㎥増加している。年間消費量は約8300万㎥で自給率は約37%(2018年)、つまりあくまでも計算上だが、さらに毎年4000万㎥上乗せして国内材を切り出しても、日本の山林は減らずに持続可能であり、これを有効活用しない手はない。

燃料として消費される木材は年間約800万㎥で、全体消費量の1割を占め、 自給率は約70%。ということは、残りの30%をわざわざ海外から輸入している計算。この理由は後述するが、輸入する方が低コストだからだ。

また全森林面積の4割を占める人工林 は建材に適したスギやヒノキが主軸で、植林後50年に「収穫期」(伐採適齢期)を迎える。終戦直後に大々的に植林された樹木がちょうど“食べ頃”の状態にある。

中小規模の木質バイオマス発電所を全国津々浦々に建設すれば、原則、近隣山林の木材を燃料とし輸送コストや環境負荷を極力圧縮すると同時に、地元の産業育成や雇用確保、電力の地産地消(エネルギー分散化)も図ることができる。

建設中の木質バイオマス発電所

幸いなことに日本は細長い島国のため、人口密集地=電力消費地と山林(森林)との距離が世界の主要国と比べて極端に短い。木質バイオ発電所が消費地に送電する際の減衰率(消耗率)が低く抑えられる点はかなり有利だ。森林管理は治水や国土保全の根幹で、熟成された養分が河川で海洋に運ばれ豊かな漁場をつくることにつながるという利点もある。

切り出された木材はまず中心部分を建材や家具用に、次にパルプ用チップにそれぞれ利用し、最後に残った部分や、間伐材(良質な建材用木材を育てるための間引きや剪定で産出される部分)や未利用材(使用されずに山林で朽ち果てる木材)を燃料用に回すという「カスケード利用」を基本とする。これは1本の樹木から得られる利益を最大化させるための策で、効率化で単価低減が図れれば、建材などは国際競争力も増し有力な輸出産品としても見込める。

<カスケード利用とは>

資源を質の高い部分から順に用途に応じて使っていき、最後まで余すことなく効率よく使用するシステム。

良いことづくめだが問題も

問題は林業が抱える構造的な問題で、まず少子高齢化や過疎化で従事者の高齢化と大幅減が深刻な状況だ。この結果、山林の育成・保全もままならず、人手不足はそのまま人件費高騰にも直結し、採算を考えると間伐どころか伐採後の植林も困難、という山林が少なくない状況。

加えて山林の土地所有区分の曖昧かつ複雑怪奇さが林業の大規模経営の足かせとなり、これらが複合的に絡んで日本の林業の“高コスト体質”をさらに加速させている。

これを断ち切るためにも、新型コロナ禍で深手を負った日本経済を再建するエンジンとして、まずはグリーンリカバリーを宣言し、コアとなる脱CO2の表看板には、他の欧米先進国とは一線を画した「木質バイオマス発電」を掲げることだ。単なる「電力製造工場」ではなく、林業、森林保全(緑化)、国土保全をも包括したサーキュラーエコノミーのエンジンとしてとらえ、加えてAIやロボット、ドローンなどを駆使し省力化で発電コストを圧縮、これを世界にアピールすれば国益にもプラスだろう。

サーキュラーエコノミーを具現化できる木質バイオマス発電は、ソーラーや風力と同等かあるいはそれ以上に日本が本腰を入れるべき領域ではないだろうか。