バイデン&ハリス政権の最初の課題は政治的分断の融和

写真:AP/アフロ

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バイデン&ハリス政権の最初の課題は政治的分断の融和

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大接戦となったアメリカ大統領選挙で民主党のジョー・バイデン候補が当選を確実にし、11月7日夜(日本時間8日午前)に勝利宣言した。トランプ大統領は敗戦を認めず法廷闘争で対抗する構えを見せているが、結果を覆すのは難しいとの見方が広がっている。バイデン氏は来年1月20日の就任に向け、女性初の副大統領に就くカマラ・ハリス上院議員とともに政権移行の準備に入った。

敗北宣言がないまま勝利宣言する異例の展開

「分断ではなく、結束させる大統領になることを誓う。“赤い州”と“青い州”ではなく、アメリカ全体を見る大統領になる」

バイデン氏は地元のデラウェア州ウィルミントンで開いた集会で勝利宣言し、大統領選で対立が深まった国民に融和を呼び掛けた。バイデン氏の得票数は7400万票を超え、オバマ前大統領を抜いて史上最多となる見通しだが、トランプ大統領の得票数も前回選挙を上回っている。バイデン氏はトランプ大統領の支持者に、「私たちは敵ではない。私たちはアメリカ人だ」と語りかけた。

バイデン氏に先駆けて演説した副大統領候補のハリス上院議員は「道のりは平たんではないが、私とジョーは準備ができている」と自信を示した。米大統領選は負けた候補が敗北宣言を行い、その後に勝者が勝利宣言するのが通例だが、今回はトランプ大統領が負けを認めないため、異例の展開となった。

なぜ決着までにこんなに時間がかかったのか

史上まれにみる大接戦だった。投開票は11月3日だが、「スイングステート」と呼ばれる激戦州の多くで両候補の得票率の差が数%に収まる展開に。郵便投票の開票に時間がかかったこともあり、米主要メディアがバイデン氏の「勝利確実」と報じたのは7日になってからだった。

15州の激戦州のうち、今回の注目はミシガン(選挙人16)、ペンシルベニア(同20)、ウィスコンシン(同10)、アリゾナ(同11)、フロリダ(同29)、ノースカロライナ(同15)の6州だった。このうち最注目だった大票田のフロリダは早々にトランプ大統領が勝利。トランプ有利との見方が広がったが、バイデン票が多いとされていた郵便投票の開票が進むと次第にバイデン氏が巻き返し始めた。

中西部ミシガン州で逆転し、勝利に必要な270人の選挙人確保まで残り“1州”とした後、生まれ故郷の東部ペンシルベニア州で勝利を確実としたことで主要メディアが当選確実と報じた。なお、執筆時点の日本時間9日現在でもアラスカ、アリゾナ、ノースカロライナ、ジョージアの4州で結果が出ていない。

開票にこれだけ時間がかかっているのは郵便投票の開票に時間がかかるためだ。今も結果の出ていないノースカロライナ州では11月3日までの消印があれば12日の到着分まで有効としており、接戦のため結論が出るのは12日以降となる見通し。新型コロナウイルス対策による規制緩和や注目度の高さにより、郵便投票と投票所での投票を含めた期日前投票が大幅に増えたことも開票の遅さに拍車をかけている。

敗戦が濃厚となったトランプ陣営では僅差の州で再集計を申し立てているが、結果を覆す可能性は低いとみられている。トランプ大統領は選挙に不正があったとして法廷闘争に打って出る姿勢を示しているが勝算は小さい。トランプ大統領周辺ではメラニア夫人らが敗北を認めるようトランプ大統領を説得しているという。今後、結果が出ていない複数の州でバイデン氏の勝利が明らかとなれば、トランプ陣営の勢いがさらにそがれる可能性がある。

良くも悪くもトランプ大統領の存在が政治熱を高めた

史上最も世界を騒がせたアメリカ大統領の続投か、再選阻止か――。今回の大統領選は国内外の注目を集めた。

投票率は約67%に達し、1908年以来、112年ぶりに過去最高を更新すると報じられている。選挙が終わった後も多くの市民が支持する候補の看板を掲げ、街を練り歩く姿は政治熱の低い日本人から見ると極めて異色に映る。有名アーティストなどがSNSで公然とバイデン氏の勝利を祝うのも日本ではありえない光景だ。良くも悪くもトランプ大統領の存在が米国の政治熱を高める結果につながったのだろう。

日本でも大統領選への注目度は高かった。連日ワイドショーで識者やタレントがどちらの候補が勝つか論戦を繰り広げ、ネット上でもさまざまな意見が飛び交った。自国のトップを決める9月の自民党総裁選とは様相がまったく異なる。よそ事だから気軽に話題にできるのか、日本と違って争点がわかりやすいからなのか。日本の野党もバイデン陣営や米民主党に見習う必要があるかもしれない。

黒人女性として初の副大統領になるハリス氏はバイデン政権の武器

史上最高齢で就任するバイデン氏にも課題はある。最初の課題は勝利宣言でも触れたように政治的分断の融和。選挙後も当面、くすぶり続けるであろうトランプ支持者の理解をどのように得ていくかが注目となる。

続く課題はどのようにバイデンらしさを出していくかだ。今回の大統領選ではバイデン氏が熱烈に支持されたわけではなく、“反トランプ”票が結集したとの見方が多い。バイデンらしさが出せなければ支持率がじりじり下がっていく可能性もある。

ただ、バイデン政権には武器がある。それは女性としても、黒人としても初の副大統領に就くハリス氏だ。父がジャマイカ、母がインド出身という移民2世で、検事を経て上院議員となったハリス氏はトランプ大統領ロシア疑惑への激しい追及で注目を浴びた。民主党の大統領予備選にも名乗りを上げたが、撤退してバイデン氏支持に回っていた。

バイデン氏が高齢で「2期目は難しい」との見方もあるなかで、ハリス氏の活躍が広がれば次期大統領の本命候補になる可能性もある。まずはバイデン氏とハリス氏のコンビがどのように政権を発足させていくか、トランプ支持者を納得させ、新型コロナウイルスという大敵と戦っていくか。世界中から注目を集めることとなる。