渋谷を爆破!「アンフェア」原作者×「SP」監督のクライム・サスペンス映画『サイレント・トーキョー』

2020.11.25

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渋谷を爆破!「アンフェア」原作者×「SP」監督のクライム・サスペンス映画『サイレント・トーキョー』

©2020 Silent Tokyo Film Partners

クリスマス・イブに東京が連続爆破テロの標的に。犯人の要求は首相との生対談だった――。そんな刺激的な社会派サスペンス小説を、「SP」シリーズやドラマ「BORDER警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係」の波多野貴文監督が実写映画化。原作は、「アンフェア」シリーズ原作者の秦建日子。鬼気迫るサスペンス劇の見どころを、舞台裏のエピソードを交えて紹介する。

『サイレント・トーキョー』

劇場公開:12月4日(金)/配給:東映
出演:佐藤浩市 石田ゆり子 西島秀俊
中村倫也 広瀬アリス 井之脇海 勝地涼
毎熊克哉 加弥乃 白石聖 庄野崎謙 金井勇太 ・ 大場泰正 野間口徹
財前直見 鶴見辰吾
監督:波多野貴文 脚本:山浦雅大
原作:秦建日子「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」(河出文庫)

»公式サイト

ストーリー:12月24日。何者かが恵比寿で爆破事件を起こし、主婦の山口アイコ(石田ゆり子)とテレビ局の契約社員・来栖公太(井之脇海)は犯人の指示に従うはめに。その様子を眺めるのは朝比奈仁(佐藤浩市)。犯人は次に渋谷を狙うと予告。要求は首相との生対談だ。爆破予告時刻の18時を前に、渋谷駅前は閑散とするどころか野次馬であふれる事態に。刑事の世田志乃夫(西島秀俊)は群衆の中にあって不審な行動を取るIT企業家の須永基樹(中村倫也)に目をつけるが……。

圧倒的なスケール、爆破テロで渋谷スクランブル交差点が…

最大の見せ場は、渋谷スクランブル交差点の爆破シーンだ。自分がその場に居合わせたかのような感覚になる演出があって、スクリーンから浴びせられる衝撃の度合いが、それこそ戦争映画のレベルだ。「これは、戦争だ」という犯人の言葉がいきなり、リアリティーを帯びる。

実はこのシーン、栃木県足利市の屋外スタジオに建設された巨大セットで撮影された。スタジオ全体は約6600平方メートルと広大だ。セットは、JR渋谷駅のハチ公口の改札を出て、スクランブル交差点の長い横断歩道をセンター街側へ渡った辺りまでの四方を建て込み、CGと合成しやすいようにグリーンバックの壁で囲んである。費用およそ3億円を複数の作品で共同出資し、順番に撮影することで、この規模のセットが建てられたという。

落書きや道の汚れから点字ブロックの欠けに至るまでリアルに作り込まれている。

爆破シーンのために、この巨大セットに集まったエキストラはのべ1万人。1200人が集まった日もあった。新型コロナウイルスの感染が始まる以前の撮影だったため、人でごったがえす様子を迫力満点で描写できた。

撮影では、巨大クレーンやドローンで人混みをとらえる一方、ステディカム(カメラマンがカメラを持って歩く際に手ブレや振動を抑えるカメラ安定支持機)を使って、人々の間を縫うように動き回る“群衆の一員”視点も実現した。

「参加された1万人以上のエキストラの方々が裏の主役だと僕は思っています」と中村倫也。

撮影監督は映画『シン・ゴジラ』の山田康介だ。爆破の瞬間はハイスピードカメラをレールに乗せて撮影。爆風と共に被害が瞬時に広がっていく様子を1000コマ/秒の高速撮影でとらえている。

音の演出も念入りで、まるで楽譜でもあるかのよう。お祭り気分で集まってきた人々の暴力的なまでのざわめきが、犯行予告時刻のカウントダウンに変わり、一瞬の静寂があって決定的な瞬間が訪れる。爆音で耳が機能しなくなり、やがて徐々に物の壊れる音や泣き声が聞こえだす……という具合。

横っ飛びになる通行人、破裂するダウンジャケット、飛び散る破片……その他もろもろ。一瞬の間にものすごい情報量が詰め込まれている。

東京タワー望むレストランで佐藤浩市ら主要キャストが“対決”

『アンフェア』シリーズの原作者・秦建日子と『SP』シリーズの波多野貴文監督というハードボイルド分野のヒットメーカー2人のタッグとあって、ストーリーもその語り方も実にスリリング。

事件を起こす者、事件で心や体に被害を受ける者、事件を積極的に追う者、それぞれの視点が約100分の間に随時切り替わる。冒頭から平和な日常描写がほぼ無いまま最初の爆破予告があり、以降ずっと息もつかせぬ展開が続く。ノンストップで巻き込まれていくような映画体験で、波多野監督が意識したという没入感が味わえる。

波多野監督(右)と撮影監督は山田康介(左)。「音、映像の細部にわたり臨場感を大事にした映画を目指しました」(波多野監督)

視点が切り替わる群像劇で、主な登場人物が集まる場面は少ないが、それだけに朝比奈(佐藤浩市)、アイコ(石田ゆり子)、世田(西島秀俊)、須永(中村倫也)が一堂に会するレストランのシーンの濃い緊張感がたまらない。東京タワーを眺めながらのクリスマス・ディナーという舞台とのギャップで、それぞれの孤独や焦燥が際立つ。

このシーン、佐藤はセリフを自らの提案で調整。リハーサルするなかで「高倉健さんにならないといけない」と言ったという。問答無用の説得力、存在感でこのシーンを成立させなければという意味合いなのだろう。作品に対する責任感や覚悟のほどがしのばれる。

佐藤は現場で波多野監督と話し合いを重ね、細かくセリフや動きを検討。

このシーンに関して、芸歴15年、いまや主演映画が目白押しの中村が、「先輩たちがとてもフランクで、気さくに話しかけてくださいました。役者同士という意味では大きな胸を借りるつもりで、正面からぶつかっていけました」と初々しいコメントを残しているのも新鮮。そんな中村は、ハイグレードなマンションに一人で住み、ITツールを自在に操り、合コンに参加しても低体温っぽいたたずまいの須永役を好演している。

中村倫也を見るために劇場に足を運ぶ人たちのニーズもきっと充足できるであろう演じぶり。

ジョンとヨーコの名曲にインスパイアされたストーリー

原作小説は、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの楽曲「Happy X-mas(War Is Over)」がモチーフだ。映画のエンドロ―ルでは、ヒップホップアーティスト・Awichのカバーが流れる。この映画のネタバレは厳に慎むべきだが、この曲については、基本的なことだけでも押さえておくと、映画をより楽しめるだろうと思う。

「Happy X-mas」は、クリスマス・シーズンには必ず耳にする非常にポピュラーな名曲で、タイトルの通り、幸せなクリスマスと戦争終結を願う曲だ。イントロでは、ジョンとヨーコが離れて暮らす幼いわが子に向けて「ハッピー・クリスマス」とささやいている。

タイトルや歌詞に登場する「War」は当時、泥沼化していたベトナム戦争のことを指す。邦題は「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」だが、戦争は終わってなどいなかった。「War is over! If you want it(みんなが願えば戦争は終わる)」と歌うこの曲が発表されたのが1971年、米軍がベトナムから撤退したのが1973年、北ベトナムによるベトナム統一で戦争が終結したのが1975年のことだ。平和は簡単には訪れず、直接的にしろ間接的にしろ戦争にかかわった多くの人に、いつまでも癒えない傷を残した。このことを頭の片隅にとどめておくと、エンディングソングの響き方も違ってくるはずだ。

劇中、広瀬アリス演じる真奈美が、渋谷で爆破に遭遇した後、涙ながらに「もっと考えればよかった」と後悔をにじませる。真奈美をバカだと笑える人が今、この国にどれほどいるだろう。映画を存分に楽しみつつ、ものを考えるきっかけを一つ持ち帰る。そんな心づもりで劇場を訪れるといいのかもしれない。

映画『サイレント・トーキョー』予告 2020年12月4日(金)公開

 

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