大正7年に創業し、4年後(2018年)には創業100年を迎えるイムラ封筒。企業向けオーダーメイドの封筒製造・販売に特化し、封筒業界で唯一上場を果たすシェアNO.1の老舗企業の実像とは。代表取締役社長の井村優氏に話を聞いた。
株式会社イムラ封筒 代表取締役社長
井村 優 いむら ゆたか
封筒は企業の顧客情報を守る商材
イムラ封筒は、封筒業界でも珍しい”オーダーメイド”に特化した、業務用封筒の製造・販売を行う企業。多くの封筒会社は、定形封筒を機械で大量に作り、そこにオーバープリンティング、つまり社名や住所などを印刷し企業に卸すケースが一般的である。
オーダーメイドを得意とするイムラ封筒は、企業一社一社と直接話し合い、企業側の意向を汲んで、デザインや素材などに工夫と加工を加え”開封したくなる封筒”を目指す。高品質、低価格、納期短縮など、トータルの生産性においても、他社を圧倒する提案力と技術力を誇る。
そもそも封筒製造は、封筒を大量に製造できる高性能の大型機械さえあれば成り立つ単純な装置産業のように思われがちだが、業務用封筒の製造はそんなに生易しい事業ではない。2003年に成立した「個人情報保護法」により、企業は封筒の不良により郵便物から顧客の情報漏洩が起きることを危惧するようになった。ビジネス封筒や請求書、DMなどの業務用封筒において何より求められるのが、情報を守る品質なのである。
「もし、100万枚の封筒の在庫の中に1枚でも不良品があれば、”信用できない”というレッテルを貼られ、すべて返品されてしまいます。どんなに大量の受注を受けても、1枚目から100万枚目まですべて同じ品質の封筒を仕上げる再現性が完璧に求められる時代なのです」(井村)
また、通常5日かかるところを2日で仕上げられるような高い生産性も強みだ。安く、早く、高品質を前提に、あらゆる企業の要望に答えて続けてきたことが、業界NO.1を維持し続けてきた秘訣といえるだろう。
業界でもずば抜けた製造機械と職人へのこだわり
だが、同業他社も同じ製造機械を使用しているのに、なぜここまで他社と差が生まれたのだろうか。
「我が社では、何十年と蓄積された封筒製造のノウハウと経験をもとに、購入した機械に対して必ず改良を行っています」
1台数億円の製造機械に、さらに多額の資金をかけてオリジナルの付加価値を加えるというストイックさは、大正7年に奈良で創業してから、機械にこだわり続けてきた家族経営的なDNAによるものだという。製造機械の設計図から自社で作っていた時期もあったほどで、昭和38年に東京進出を果たしてから50年以上たった現在も、機械に対するこだわりは他の追随を許さない。そうして長年をかけて社の中で育て上げてきた技術ゆえ、他社がマネできない商品を作ることができるのだ。そして、なにより機械を扱う職人の存在が大切だという。
「機械をいくら改良しても、ボタンひとつ押せばいい封筒ができるというわけではありません。紙に対する湿度や機械とのデリケートな調整は、熟練した職人の判断がなければ非常に難しいことです。単なる装置産業ではありません」
採用から何十年もかけて大切に育成してきた職人たちの技術があってこそ、高品質な封筒が生まれるのだ。
デジタル化にともなう封筒業界の変革
昨今のインターネットの普及により、封筒業界にも変化が起こりつつある。請求書のEメール化やEコマースなどが増え、郵便の需要が減少しているからだ。
「ネットであるべきものはネット、郵便であるべきものは郵便、とそれぞれの用途にふさわしい棲み分けを確立し、郵便が必要な部分に特化していくことが封筒業界としての時代の流れにあったやり方だと思っています」
例えば、ダイレクトメールをコストのかからないEメールで済ませてしまう企業が増えているが、エンドユーザーに読まれる確率はかなり低くなる。郵便物として届け、実際に紙として手に取ってもらうことで、脳に刺激が与えられ、開封される確率が格段に上がるのだ。このような最適化を企業側に提案していけることもイムラ封筒ならではだ。
「最近はEコマースの普及により並行して段ボール業界が伸びていますが、書籍や下着など、簡単な梱包で済む商品は、郵便料金の安い封筒での発送を提案し評価をいただいています」
ほかにも、企画から封筒製造、内容物手配、封入、発送まですべてを行う「メーリングサービス事業」にも力を入れている。これは、封筒代、郵便料金、内容物の3つを合わせた価格とそのパフォーマンスが一番重要だという。
「料金一律のメール便の登場によって、手数料のかかる内容物の折り畳みを省ける大きいサイズの封筒に価値が出てきています。他社が作れないようなサイズの製造に挑戦し、さまざまな提案をしていきたいと思っています。また、耐水性のある丈夫な封筒にするための素材の開発にも力を入れていきたいと考えています」
老舗企業の強みを生かしつつ、時代の流れをしっかりと読んで変革を試みる姿勢は、これからも封筒業界をリードし続けていくだろう。