現在の経済は、資源から製品を作り廃棄するリニアエコノミー(直線型経済)ですが、これに対しサーキュラーエコノミー(循環型経済)とは、廃棄物を資源ととらえ、廃棄物を出さずに経済を循環させるシステムのことを指します。世界人口が増え続け資源が不足するなか、サーキュラーエコノミーが世界経済の鍵を握る!と欧州は本気で取り組んでいますが、そもそも資源の乏しい日本はどうなのでしょうか。
サーキュラーエコノミーの必要性
OECD(経済協力開発機構)の推計では、世界人口は現在の77億人から、2060年には100億人に達するとされています。一人当たりの所得平均も現在のOECD諸国の水準である4万米ドルに近づくため、世界全体の資源利用量は現在の90ギガトンから、2060年には167ギガトンに倍加すると予測され、環境に負荷をかけるリニア型経済システムのままでは、一つしかない地球の資源の枯渇を生むことは容易に想像できます。
2015年に、ウミガメの鼻にプラスチックのストローが刺さっている動画が拡散されたのをきっかけに海洋プラスチック汚染の問題が一気にクローズアップされましたが、そのほかにも気候変動や自然破壊、生物多様性破壊などは、大量生産、大量消費、大量廃棄のリニア生産システムが生み出した外部不経済だとも考えられます。
これらの問題を解決し、持続可能な経済成長を実現する仕組みとして「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」が注目されています。リニアエコノミーよりサーキュラーエコノミーの方がいい、という性質のものではなく、サーキュラーエコノミーにならざるを得ないと考えます。
日本のリサイクルの現実
サーキュラーエコノミーにはリサイクルの徹底が欠かせませんが、一言でリサイクルといっても日本ではプラスチックのリサイクルは「マテリアエルリサイクル」「ケミカルリサイクル」「サーマルリサイクル」に分類されています。
【日本のリサイクルの分類】
マテリアルリサイクル
多くの人がイメージする、ペットボトルをつぶして、再度ペットボトルやカーペットなど他製品にするリサイクルのことをいいます。この方法だとプラスチック分子がどんどん劣化して、最終的には使えなくなってしまうのが問題です。
ケミカルリサイクル
分子レベルまで分解してプラスチック素材に変えるリサイクルのことをいいます。日本には日本環境設計というこの分野で世界をリードする企業があり、分子レベルまで分解できますが、原料に戻せる量は少なく、ケミカルリサイクルのほとんどがコークス、油、ガスとして製鉄所で鉄鉱石などと一緒に燃やされています。
サーマルリサイクル
プラスチックを焼却炉で燃やし、熱エネルギーを回収するリサイクルですが、個人的にはこれをリサイクルというのには抵抗があります。
日本で一年間に生産される樹脂量約1000万トンのうち、PETボトルリサイクル推進協議会の「PETボトルリサイクル年次報告書2020」によると2019年のペットボトルのリサイクル率は85.8%とかなり高いように感じます。
しかし、プラスチック循環利用協会の「プラスチックリサイクルの基礎知識2020」によると、日本の廃プラスチックのリサイクルの現実は、マテリアルリサイクル23%、ケミカルリサイクル4%、サーマルリサイクル56%となっており、リサイクル外では単純焼却8%、埋立8%となっています。
つまり処理手法に着目すると、再生利用しているのは23%にすぎず、焼却しているのが69%、埋立が8%というのが現実で、約8割を燃やすか、埋め立てているのが日本のリサイクルなのです。これでリサイクル率85%以上を達成と胸を張るのは、一般の感覚から大きくズレているのではないでしょうか。まだまだ日本の循環社会化は遠い道のりのような気がします。
世界は本気で取り組んでいる
サーキュラーエコノミーは国連のSDGs(持続可能な開発目標)にも組み込まれ、国家レベルでは、オランダは2050年までに100%のサーキュラーエコノミーの実現を目指していいます。また、個別企業でもApple社が「将来的に再生可能な素材とリサイクルされた素材のみを使って製品を作る」との目標を掲げ、金融の世界でもINGグループが2015年に金融機関向けの「サーキュラーエコノミーファイナンスガイドライン」を公表しているように、世界の国や企業でサーキュラーエコノミーの潮流が大きく動き始めており、欧州では「サーキュラーエコノミーを実現した国が世界経済の覇権を握る」とまでいう人もいます。
そんななかで日本は、まだ循環社会、循環経済に関し世界と比較して意識が低いと感じます。世界人口の増加、資源減少の時代を迎えると当然、資源の価格上昇が予想される上、資源の少ない日本では、資源の入手が困難になった場合に現在の生産体制を維持することは難しいでしょう。
さらに、欧米を中心に規制強化が進んでおり、それに適応できない場合、国際競争力さえ失いかねません。過去、中国にレアアースを外交カードに使われた場合と同じで、資源を外交カードに使われると日本はどんどん競争力を失う可能性が高くなります。
サーキュラーエコノミーが日本経済復活の鍵に
サーキュラーエコノミーの動きは、必然的に今後どんどん大きくなると予想されます。そして過去の世界経済における生産と消費のあり方を今までにないレベルで変革し、デジタルの進化を追い風に、国や企業に優位性を築く大きなチャンスをもたらす可能性があります。さらに環境問題などの社会問題の解決につながる可能性もあり、世界経済を大きく変えていくことでしょう。
GDPを中国に抜かれ近い将来インドにも抜かれると予想される日本経済の復活、企業成長の一つの鍵がサーキュラーエコノミーではないでしょうか。