東京五輪強行開催へ、4者4様の思惑

写真:ロイター/アフロ

社会

東京五輪強行開催へ、4者4様の思惑

0コメント

新型コロナウイルスの影響で国民が“自粛生活”を強いられるなか、政府が東京オリンピック・パラリンピックを今夏に開催しようとしている。中止や延期を求める国民は少なくないが、なぜ政府は世論を無視してスポーツイベントの開催にこだわるのか。その背景には政府と東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、メディアの思惑が見え隠れしている。

五輪関係者と世論調査に大きなギャップ

「コロナがどういう形だろうと必ず(五輪を)やる。やるかやらないかの議論は放っておいて、どうやってやるかだ」

これは東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が2021年2月、自民党の会議で放った言葉。森氏は直後に女性蔑視発言で辞任に追い込まれたが、こちらの発言の方が問題だったという声も多い。そして、この発言にこそ、政府や関係組織の“本音”が表れている。

当初、2020年夏に開催する予定が、突如として世界を襲った新型コロナウイルスにより、1年延期となった東京五輪・パラリンピック。だが、今もウイルス収束の兆しが見えない。

米ジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、世界の感染者数は3月13日時点で1億1900万人、死者数は260万人超。各国でワクチンの接種が始まったとはいえ、今も一日に約50万人が新たに感染し、約1万人の尊い命が失われている。

日本でも開催地である東京をはじめとする首都圏で緊急事態宣言が継続中で、全国各地で大型イベントも観客制限が続いている。2月から医療従事者へのワクチン優先接種がようやく始まったが、全国民に行き渡るのがいつになるかはまったく見通せない。

読売新聞が2月に行った世論調査では、東京五輪・パラリンピックをどうすればいいか、について「再び延期する」(33%)、「中止する」(28%)との回答が合わせて6割超。「観客を入れて開催する」(8%)、「観客を入れずに開催する」(28%)という前向きな回答を大きく上回った。NHKの1月の調査では「開催すべき」は16%にとどまり、「中止すべき」と「さらに延期すべき」の合計は約80%に上った。

日本政府/東京都/IOC/メディア…五輪開催で利する人たち

国民の声など聞こえないかのように、菅義偉首相は2021年2月20日の先進7カ国(G7)首脳会議で「今年の夏、人類がコロナとの戦いに打ち勝った証しとして、安全、安心の大会を実現したい」と表明。IOCのバッハ会長は自身の再任が決まった3月10日の総会で「7月23日に開会式が行われることを疑う理由はない」と述べ、反対論を強くけん制した。海外からの観客受け入れを断念する案や無観客案も浮上しているが、開催だけは譲らないという姿勢だ。

2021年3月3日、東京五輪・パラリンピック組織委員会、東京都、日本政府、IOC、IPC(国際パラリンピック委員会)の代表で5者協議が行われた。

日本政府

日本政府が開催に意固地となっているのには2つの理由がある。一つは“カネ”だ。そもそも、五輪の主催者はIOCであり、開催国である日本や東京都に中止する権限はない。IOCが中止を決めた場合も東京都側が補償や損害賠償を求めることは難しい。逆に日本側の要求で中止ということになれば経済的に大きな損失を被るだけでなく、スポンサーなどから違約金を求められる可能性がある。

もう一つは政権浮揚への期待だ。政権発足時は内閣支持率が60%を超えた菅政権だが、新型コロナをめぐる対応が批判にさらされ、最近では不支持率が支持率を上回る状況が続いている。2021年秋に自民党総裁選と衆院議員の任期切れを迎えるなか、五輪開催を政権浮揚につなげたいという思いは政府・与党の人間なら誰もが抱いているだろう。五輪開催に向け、1都3県に発令中の緊急事態宣言を3月21日で解除するとの見通しも出ている。

東京都

カネについては東京都も政府と同じだ。東京都が中止を求めれば莫大な経済的損失を抱えることになりかねないため、政府に合わせて開催への意欲を見せ続けるしかない。しかも、東京都の場合は成功すれば自分の手柄、失敗したら政府の責任にできる。永田町関係者は「政局観の鋭い小池百合子都知事なら東京五輪・パラリンピックをどう政治的に利用するか考えているはずだ」と語る。

IOC(国際オリンピック委員会)

IOCが開催にこだわるのもカネが理由だ。IOCの収入の大半は五輪の放映権料とスポンサー収入で、東京五輪の放映権料は数千億円といわれる。東京五輪・パラリンピックのチケット収入は900億円に上るが、これは組織委員会に入る。IOCとしては無観客としても痛くも痒くもないわけで、放映権料を手放さないためにはとにかく開催してテレビで流したいというわけだ。

メディア

そしてIOCをも動かしているといわれるのが大手メディアの存在だ。米放送大手のNBCユニバーサルは東京五輪・パラリンピックを含む計10大会の放映権を総額約1兆2700億円で獲得しており、IOCに大きな影響力を持つとされる。暑い日本であえて夏に開催するのもNBCがフットボールや大リーグなどの大型スポーツイベントと重なるのを嫌がったからだといわれる。

膨大な放映権料を支払うメディアは万が一、中止になったときに備えて保険をかけているが、それでも広告料から得られる巨額の利益を手放したいわけがない。東京五輪・パラリンピックは必ず開催するようIOCに圧力をかけているはずだ。

開催すべきか否か、利害関係者に惑わされてはいけない

五輪に向けて準備している世界中のアスリート、特に自国開催に向けて何年もかけて激しいトレーニングを積んできた日本選手のことを考えれば、東京オリンピック・パラリンピックが再延期、中止となることは胸が痛い。ただ、政府やIOCも“アスリートファースト”をことさらアピールするが、それが本音かどうかは疑わなければならない。

今は新型コロナウイルスと人類との戦いが佳境を迎えているとき。日本の国益、さらには世界平和を考えたときに今、オリパラを開催すべきタイミングなのかどうか、政府や関係組織の利害とは切り離して、冷静に考えなければならないだろう。